消息不明だった“偽”中野たむがハードコアマッチで復帰!大流血の末に吹っ切れて「全部自分」と人格統合
6日、東京都・新木場1stRINGにて『プロミネンス第16戦 ~吾亦紅~』が開催。石川奈青と世羅りさがハードコアマッチを行った。
プロミネンスとは、2021年末を以てアイスリボンを退団した世羅りさ、柊くるみ、夏実もち(※宮城もちから改名)、藤田あかね、鈴季すずの5名が結成したデスマッチ&ハードコアユニット。全員フリーランスながらユニットとして活動をともにしていく形式であり、男子団体・女子団体を問わず幅広く参戦している。
すずは今年4月にプロミネンスから離脱して現在はスターダムに所属しているが、プロミネンスとスターダムの関係は良好。今月3日にはスターダム広島大会で世羅がジュリアの持つSTRONG女子王座に挑戦するなど大舞台での活躍も見せている。
そんなスターダムに1度だけ参戦したことがあり、プロミネンス勢と同じく元アイスリボンの選手がいる。そのレスラー人生は短いながらも“不憫”の一言に尽きる。
その名は石川奈青。彼女はスタートから恵まれず、病気や新型コロナの影響で2度もデビュー戦が延期に。苦節の末にデビューすると、25歳という遅咲きデビューながらもアイドルを目指していたという愛嬌とひたむきさから注目を浴びることとなった。
しかし、デビュー数ヶ月で手術を要する内臓疾患で欠場。その間に19歳の美少女レスラーが同団体でデビューした事から、復帰後も常に影に隠れる形となってしまった。
それでもメゲない石川は、突然あざといプリンセスキャラへと変身し、歌って踊れるアイドルユニット結成というスターダムの中野たむを彷彿とさせる動きを見せる。試合運びもたむを思わせるものを取り入れ始めたが、アイドルユニットはわずか1年弱で解散宣言。自身を苦しめライバルと意識していた美少女レスラーは早々と引退。プリンセスキャラから自分探しの冒険家として迷走を始めた彼女は、所属団体社長への不信感と嫌悪感をマスコミの前で暴露し姿を消してしまった。
思い悩んだ石川は、喪ったアイデンティティを探す中で自分のことを中野たむであると思い込むようになり、今年5月に“中野たむ”としてスターダムに上陸。
中野たむvs中野たむという世紀の一戦が実施され、コスチュームも観客へのアピールもまるで本物かのような動きを披露。しかし、いざ戦いとなるとスピードもパワーもキレも中野たむにははるか遠く及ばない。
圧倒的な実力差を見せつけられて敗北した石川は茫然自失。試合後にはたむから「たむも多忙になってきたし、影武者でも頼んでいいかな?」と温かい言葉が贈られていたものの、その後石川は“中野たむ”として現れることもなく、7月にJTOでかつてのアイドルユニットの仲間たちとの行った後には音沙汰なし。X(旧Twitter)の投稿も全消しして過去と決別した石川は、ファンの記憶からも徐々に消えていきつつあった。
そんな中、石川は突如世羅を襲撃しハードコアマッチを要求する形でプロレス界に帰還。世羅もこれを受け止める姿勢を見せ、SMS(世羅りさ・見つめ直し・シングルマッチ)が行われることになった。
石川はビアサーバーに“生ビール”の提灯、複数の酒瓶を持ち込むなど酒飲みスタイルで登場。
約3年3ヶ月ぶりとなる両者のシングルマッチは、互いのルーツを見つめ直すかのようなチェーンレスリングに始まる。
ランニング・クロスボディで先制した石川がイスを手に取るも、初めての凶器の使い方が分からずまごまご。世羅が没収してイスでぶっ叩くお手本を見せ、ラダーに顔面から叩きつけた上で有刺鉄線竹刀で額をグリグリえぐっていく。
大流血した石川はしばらく力なく倒れ込み、心が折れてしまったのかと思われた。しかし、石川は日本酒(浦霞)の一升瓶からグビグビと直飲みしてパワーチャージ。据わった目でエルボーを猛連打し、イスの山を作ってその上にボディスラム。世羅が串刺しダブルニー with ラダーをぶち込んでお返しも、石川は提灯でぶん殴って反撃しN.A.O(※変形スパインボム)で叩きつける。
その後、石川はサッポロラガービールの瓶からラッパ飲みし、真紅の毒霧を噴射してからリバースタイガードライバー。さらに必殺のジャーマン・スープレックス・ホールドを狙うも、世羅は振り払って有刺鉄線竹刀で乱れ打ち。さらにイスの上へのエアーズロックII、石川の上にイスの山&ラダーを積み重ねた上でのダイビング・ダブルニードロップで3カウントを奪った。
マイクを取った世羅は、「わしだって、毎大会ハードコア・デスマッチは怖い。怖くない日なんてない。ハードコア・デスマッチを組む度に『なんでこんなん組んじゃったかな?』って。『明日ヤダな、怖いな』って思いながら眠りにつくこともある。楽しみだけじゃないんだよ、こっちだって。でも、なんでやるかって、このリングに立つと生きてる実感、そして皆さんから拍手がいただけるからです!」と思いを叫ぶ。
そして、「プロミネンスのリング、楽しいだろ?今日、来るの怖かっただろ。ただ、逃げずに来た。このリングに逃げずに立った。観衆を煽る度胸もあった。中々こんな気概のあるやつはいないですよ。気に入った!このリングで正式にオファーさせてください。今後は、プロミネンスのリングにレギュラー参戦しませんか?プロミネンスではなにもハードコア・デスマッチをやれというわけじゃない。好きなことを好きなときに好きなだけ!だから、これからは自分の好きなことをここで好きなだけやればいい。プロミネンスは、もう貴女の場所だから」と石川を勧誘。
これを受けた石川はボロボロと泣きながら「ありがとうございます!よろしくお願いします!」と叫び、世羅としっかり抱き合った。
その後、2人は仲良くバックステージに現れ、世羅は石川の度胸を絶賛し「中々に受けきったと思うよ、世羅りさの技を」と受けっぷりも評価。
石川は、「今後プロレスを続けるか悩んでて、今日も『もう今日で辞める』って思って新木場まで来て。でもこうやって世羅さんと試合をして、本当にプロレスをやってて良かったなって思ったし、すごい生きてるなって思えて。怖かったし、痛かったし、つらかったんですけど、もっと頑張りたいなって思いました」と心境を吐露。
さらに、引退を考えていたことについて問われると、「毎日がプロレスだったときはそれに精一杯だったんですけど、自分と向き合う時間が増えて。そんなに皆さんみたいな才能があったり魅力があったりするわけでもないし、『自分が愛されるものってなんなんだろう』『なんのためにやってるんだろう』って考えることもあった。選択肢としてプロレスから離れるということはずっとどこかにあった」と暗い表情で語る。
しかし、試合を振り返って「でも、楽しかったです。こんなに人生で『生きてるな』って実感得られること無いじゃないですか!(笑)すごい痛かった!怖かった!だから、『生きてるな』って思いました」と晴れやかな表情に。
そして、最近は登場するたびにキャラクターが違うことについて問われると「でも、全部自分じゃないですか。皆さんも今日今いる自分と家に帰った自分……同じ自分だけど違う自分じゃないですか。そういうのを全部感じられるのが『生きてるな』って感じです」と自分の中の人格統合に成功した様子。
“石川奈青”としてのレスラーの人生は、これでようやく本当のスタートを切ったのかも知れない。