徳光さんへの4の字だけは特別!デストロイヤーさんがいつもの様な手加減をしなかったワケ

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(文/フリーライター安西伸一)

11月15日(金)、東京・大田区総合体育館で『ザ・デストロイヤー メモリアルナイト~白覆面の魔王よ永遠に~』が催された。

全8試合。出場したほとんどの選手がもう、デストロイヤーさんを直接知らない、接点のない選手達だったが、先人へのリスペクトを忘れず、好勝負を紡ぎあげた。

でも、全日本に上がり出してからのデストロイヤーさんを知る世代にとって、当夜の最大のハイライトは、第3試合のあとの追悼セレモニー。和田アキ子さんの『あの鐘を鳴らすのはあなた』がレコード大賞・最優秀歌唱賞を獲得した時のバージョンで館内に鳴り響く中、徳光和夫さん、せんだみつおさん、和田アキ子さんがリングに登場した。

この3人は、昭和48年10月にスタートした日本テレビ系のバラエティ番組『金曜10時!うわさのチャンネル!!』のオープニングのドタバタコント『アコのゴッド姉ちゃん』の中で共演。和田さんがほとんど日本語が喋れないデストロイヤーさんにおかしな日本語を喋らせ、ドイツ軍のヘルメットをかぶったデストロイヤーさんの頭を爆笑しながらハリセンでバンバン叩くと、デストロイヤーさんが反撃。犬や爬虫類が嫌いな和田さんに、大きな犬を放り投げたり、ヘビのおもちゃやウナギまで登場。和田さんは「ギャーーー!!」と悲鳴をあげてスタジオのセットの裏まで逃げ込んでいた。

でもそのせいで収録翌日、コンサートのステージに立つと、和田さんは声が枯れて満足に歌うことができず、歌手としての自分がダメになると感じた和田さんは、所属のホリプロに承諾を得たものの、一方的にこの番組を降板。怒った日本テレビは、ホリプロをしばらく“出入り禁止”にするほどの騒ぎになった。

でもデストロイヤーさんは、「アコさんが僕のつたない動きを笑いに変えてくれた。僕の恩人。それにアコさんは最高のシンガーなんだ」と語ってはばからなかったし、和田さんもデストロイヤーさんに、会いたがってくれていた。

2016年秋、『サンデー毎日』からデストロイヤーとの対談の打診を受けた和田さんは、スケジュールを調整してくれて、デストロイヤーの宿泊先のホテルまで来てくれたほどだったのだ。

また『うわさのチャンネル!!』放映当時、全日本プロレスの実況アナも務めていた徳光さんは、局内で「なんでも実況風に喋ることができる、面白いアナウンサーがいる」と評判になりかけていた時で、この番組にも抜擢。顔を売り出し始めていた。

『ゴッド姉ちゃん』のコーナーでは、男性の人気歌手やタレントが、最後にハプニング的にデストロイヤーさんに担ぎ上げられて、4の字固めを掛けられてしまうというのがお約束のパターン。4の字固めを掛けられたまま悶絶している西城秀樹さんの耳元で、和田さんやせんださんが「『ローラ』って言ってみろ!」と言うと、西城さんが「ローッ!」とつぶやいて身もだえし、そういう場面が爆笑をさらっていたのだ。

掛けられる相手は本番前、事前にスタッフから、「もしかしたらデストロイヤーさんが襲ってくるかもしれないから、4の字固めを掛けられて痛かったら2回、軽く叩いて下さいね。そうしたらデストロイヤーさんが力を弱めてくれますから」と言われていたという。和田さんいわくデストロイヤーさんが、自分では力の加減がわからないというので、そういう取り決めにせざるを得なかったそうだ。

ところが徳光さんに4の字固めを仕掛けたとき、デストロイヤーさんはいつものような手加減をしなかった。すると徳光さんの顔は苦しみにゆがみ、「激痛手当を下さい! 俺はギャラがないんだぞ。月給だけなんだ、コレ」「チクショウ!」。せんださんに「どういう痛みだ!?」と聞かれると、「五臓六腑に、そして脳天の方に激痛が突き上げまーす! 痛ーい!」「数日後には父親参観日だよ、俺」と、どのタレントにも負けない面白いリアクションを披露。

これがキッカケになり、タレント的な要素もあわせ持つバラエティーもこなせるアナウンサーのさきがけとなり、徳光さんは昭和54年から朝の情報番組『ズームイン!!朝!』の初代司会者に抜擢されていく。それまでは、アナウンサーといったら真面目でおかたい人であるのが当然だったのだ。徳光さんはアナウンサーの可能性を広げた立役者、功労者でもあるのだ。

大田区体育館のリング上で弔辞を読み上げたのは、その徳光さん。「私も実況しながらあなたの4の字固めの洗礼を受け、『やめろコノヤロー!』とアナウンサーらしからぬ発言をしたことで、その後ニュースを読むことがなくなり(会場・笑)、バラエティーアナウンサーという、新しい肩書を持つことになりました。しかしそのことは、のちの情報系番組や歌番組の司会に結びつき、今に至っていることを思いますと、今日、78歳までいまだに現役を続けられるのは、あなたに掛けてもらった、あの、キリで刺されたような激痛の4の字固めのおかげであると確信しております(会場・拍手)」。

『サンデー毎日』に掲載された和田アキ子さんとデストロイヤーさんの対談のとき、司会をおおせつかっていたのだが、そのときデストロイヤーさんに「以前、徳光さんに話を聞いたら、『あの4の字固めは本当に痛かった!!』と言っていましたよ」と伝えると、デストロイヤーは「その方が面白いと思ったからさ。彼とは旧知の間柄だったし、良いリアクションが引き出せると思ったんだよ」と笑った。そして実際、その通りになった。

当時、『うわさのチャンネル!!』をリアルタイムで見ていた世代の印象としては、徳光さんが4の字固めを掛けられたシーンが何度も放送されていたので、何度も掛けられていたと思い込んでいたが、徳光さんに確認すると、徳光さんは顔をゆがめて「一度だけですよ!! あんなこと何回もやられたらたまらない!! 本当に痛いんだから!!」と否定。あのシーンが面白かったと評判が高くて、何度もやられていたとこちらが錯覚するほど、名場面特集のようなコーナーがあると必ず流れていたのだ。

デストロイヤーは今年3月7日、住まいのあるニューヨーク州アクロンという、ナイアガラの滝の近くにある小さな町で、老衰のため亡くなった。長男のカートさんはそれを、フェイスブックにそっと書き込んだ。それがあっという間に広がり、NHKでも取り上げられる事態になった。晩年は歩行器がないと歩けない状態のデストロイヤーさんだったが、どこにも痛みを感じることのない様子で、静かに息を引き取ったという。日本でも多くの人に愛された、88年の生涯だった。

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