進化を見せた那須川&堀口&矢地!だが、真っ向勝負して敗れた才賀、所、北岡にも拍手を!
30日、埼玉県・さいたまスーパーアリーナで『RIZIN FIGHTING WORLD GP 2017 バンタム級トーナメント1ST ROUND-夏の陣-』が開催された。
KOと一本が続出し、全11試合中、判定決着はわずか3つ。アグレッシブに攻め合う試合の中で、凄まじいスピードで対戦相手を圧倒したのが那須川天心と堀口恭司だった。
那須川はMIXルールで才賀紀左衛門と対戦。かつて才賀が那須川を教えたこともあったが「試合になれば全力で倒しにいく」と那須川。その言葉通り、開始から才賀の動きにカウンターを狙う那須川。そして、才賀のヒザ蹴りに合わせて思い切り左ストレートを打ち込むと、倒れた才賀は失神。衝撃の初回KOだった。
試合後、那須川自身も驚きを隠せなかった。
「相手のヒザにパンチを合わすのは得意で、いつもの動きです。でも失神すると思ってなくて、自分の実力も上がってるんだな、と」
試合時間は1分36秒だったが「早すぎる!」といった声は一切なかった。「神童の一撃」をライブで味わえたことに観客は満足したのだ。
メインイベントはバンタム級トーナメント1回戦、堀口恭司対所英男。39歳の所は、世界最高峰UFCのタイトルに挑戦した経験を持ち、今年3月にRIZINに電撃参戦した堀口と対戦。堀口は、MMAの世界最先端を行くアメリカに拠点を置き、世界標準の強さを持つ「メジャーリーガー」。だが、所は堀口に真っ向勝負を仕掛けた。
遠い間合いから飛び込んでくる堀口に対して、所は得意の右ストレートを合わせていく。この所の動きを見て、堀口は飛び蹴りを放ち、所が左フックで迎え撃とうとした瞬間、堀口が渾身の右フックをヒット。倒れた所へパウンドや鉄槌を浴びせると、レフェリーが割って入った。
こちらもわずか1分49秒。だが見応えのある攻防で、同時に堀口も那須川同様、異次元のスピードで「強さ」を見せつけた。
試合後、堀口は安堵した表情を見せた。
「決めると言ってたので、決められてよかった。もっと組み付いてくると思ってて、打撃につきあってくれてありがたかった。強くなるためにアメリカに(練習に)行ってるんで、当たり前に(実力は)アップしてます」
那須川と堀口が持ち前のスピードを生かして、初回KOで試合を決められたのは、対戦相手の才賀と所が真っ向勝負を仕掛けたからだ。
才賀は防御を固め、前蹴りで突き放して時間を稼いで「MMAの2ラウンド勝負」に持ち込む戦法は採らず、打ち合いに応じた。所もまた、寝技で勝負すべくしつこく組み付く方法は採らず、堀口の打撃にパンチを合わせる戦法で勝負した。
その戦法は上手くいかず、結果は出なかったが、膠着させたり、消極的な戦法は採らずに、強い相手に正面から勝負に行った姿勢は高く評価したい。観客も、結果「だけ」を見ているのではなく、その選手の「勝負する気持ち」を見ているのだ。
それを痛感したのが、北岡悟対矢地祐介の試合だ。北岡が得意の寝技で試合を支配したのは1ラウンドの4分まで。そこで矢地に立たれると、以降はスタンドでの攻防が続き、矢地のパンチを浴び続けた。北岡は執拗にタックルを狙うが、序盤の攻防で消耗しており、グラウンド状態をキープする力は残っておらず、やっと矢地をテイクダウンしてもすぐに立たれてしまう。
そして2ラウンド、矢地のパンチとヒザを浴び、最後は矢地の左ストレートでグラついた北岡を見てレフェリーがストップ。倒れた北岡はしばらく起き上がれなかった。
しかし、退場する北岡に場内から大きな拍手が起こった。敗れたとはいえ、最後まで立ち続けた北岡の「気持ち」が見る者の心をとらえたのだ。
ちなみに、勝者の那須川は敗者才賀を気遣い、堀口は所に「戦ってくれた所選手、ありがとうございました」と感謝の言葉を述べたが、矢地は傍らで倒れたままの北岡に対して一切言及しなかった。もし、ここで激闘を繰り広げた北岡を称える言葉があれば、北岡を応援していたファンも矢地に大きな拍手を送ったことだろう。この大会で唯一、残念に思ったシーンだった。
(スポーツライター茂田浩司)