RIZIN 12.29さいたまスーパーアリーナ 桜庭vs.青木/さくら散り、日は沈む。大晦日、昇る日となるのはどいつだ!?
リングの中に尊厳はあるのか!? あるのが格闘技だ!!
勝者は栄光の全てを手にし、敗者は積み上げて来た栄誉の全てを失う。老兵は消え去るのみ。格闘技のリングは、だからこそ美しく、切ない。
勝者とその仲間、家族が歓喜にむせぶ時、敗者とその仲間、家族は悲嘆し、涙し、受け入れることがつらい現実に苦しむことになる。
当夜のメインイベント(第14試合)、青木真也対桜庭和志は、そういう試合だった。
桜庭は減量し、77.6キロで計量を一発パス。きちんと試合に臨める状態には仕上げて来たはずだ。でも77キロ、現役バリバリの青木は32歳。桜庭は46歳で、ここ数年は新日本プロレスにのみ出場している。
桜庭は開始早々、強烈な右ハイキックを放つも、ガードされ、すぐに胴タックルを食らい、足をすくわれ倒された。
そこからは青木の独壇場。ほどなくして桜庭はマウントをとられ、右手を青木の右手で取られると、左パンチをあび続けた。桜庭は下からいくつかのムーブを試み、脱出をはかるが、上になった青木のバランスが実に巧みで、青木の体勢を崩せない。
桜庭はなんとか反転し、下を向くが、青木は定石通りバックマウントの体勢からチョーク狙い。桜庭の胴にからみついた青木の両足はしっかり、4の字の形で足首をロックさせ、桜庭を逃がさない。
いったんは4の字ロックがほどけたが、そこから青木は両足を使って、桜庭は全身が伸ばされる形になり大ピンチに。さらに4の字ロックでホールドし直し、青木は右パンチを落とし続けた。
白いリングが、桜庭の鼻血で染まり出す。いたぶられ続ける桜庭。客席の観客はただ、現実を見つめ続けるしかない。
ここでやっと桜庭のセコンドからタオルが投入。1R5分56秒、TKOで青木の勝利となった。
青木によると桜庭は試合中、「まだだよ」と言って継続の意思を示していたそうだ。そして青木がサブミッションにトライしようとすると、その動きのスキをついて、桜庭は脱出しようとし続けていた。
あの窮地においても、桜庭の気持ちは折れることなく、自分に有利な状況になるよう、チャンスを手繰り寄せようとしていた。苦しみながらも、目は死んでいなかったのだ。
試合直後、桜庭は青木に「これも仕事だよ」と言葉をかけ、それを聞いて青木は涙をこぼした。
桜庭を介錯(かいしゃく)するのが自分の仕事。でも、桜庭をサブミッションで決め切れず、桜庭が戦意喪失しないので、苦しむ様を観客に見せ続けることになってしまった。
「また人をつぶして盛り上げるのか。気持ち良くない。正直、嬉しくないです。でも(桜庭さんへの)リスペクトの気持ちは強まっています。レベルを落としてでも、グラップリング(の試合に出場して)でも動いてほしい。そして来年はRIZINで五味(隆典)とやりたい」
バックステージのインタビュースペースで、最後は五味の名前を出して、気持ちを切り替えていた。
一方の桜庭は病院へ直行。ダメージが心配される。
29日と31日の大会ポスターには、次のようなキャッチコピーが書かれている。
『誰かの夕日は、誰かの明日だ』
さくら散り、日が沈んだ29日。では大晦日、昇る日となるのはどいつだ!?
大晦日、バルト(把瑠都)との対戦が決まっていたジェロム・レ・バンナだが、20日過ぎにキャンセルの意向を伝えて来る連絡が入り、RIZINスタッフは大慌て。
結局、エメリヤーエンコ・ヒョードルの対戦相手であるシング・心(ハート)・ジャディブの練習相手を沖縄で務めていたピーター・アーツに白羽の矢が立ち、アーツが代打出場を承諾。RIZINの大ピンチをアーツが救うことになった。
しかしルールは総合ルール。キックボクサーとしては日本での引退試合も終えているアーツだが、ここはアーツに期待するしかない。
29日のメイン以外の試合を振り返ると…
第1試合は復活・髙阪剛が、契約体重を12.3キロもオーバーしたジェームス・トンプソンに、フラフラになりながらも2R、パンチの連打で勝利。
第4試合はK-1ルール。HIROYAが総合の西浦“ウィッキー”聡生を3R、KOで仕留めた。HIROYAの入場テーマは曲を複数使ってミックスさせているが、往年のフジテレビのK-1番組テーマ曲も使っているので、格闘技ファンにはなつかしがこみ上げてきたことだろう。
第5試合は、1Rキックルール、2RMMAルールが採用されたミックスルール。キックの日菜太がレスリング出身の宮田和幸を、1Rのうちに3ノックダウンで葬った。
第7試合では、所英男が才賀紀左衛門を巧みなグラウンドテクニックで追い込み、1Rで腕十字にとらえ、客席を大いに沸かせた。
100キロ以下級トーナメントは、リザーブ戦も含めて5試合とも、明確な勝敗がついた。キング・モーはスタミナで苦戦した末の勝利だったが、そのほかは勝者が敗者を圧倒していた。
日本代表として期待された石井彗は、試合直前のあおりVTRで、「チャンピオンになって、バカにしたヤツに上からツバをはきかけてやりたいですね」と発言。オランダのアーネスト・ホーストの元、キックボクシングの練習に励んできたので、ホーストがセコンドについた。
ホーストは石井のことを「いつまでも『まだ行けます』と食い下がってくる。その姿勢が大好きだ」とコメントしていたが、石井の相手のイリー・プロハースカは石井より12センチ背が高く、ヒザ蹴りを交えながらパンチとハイキック攻めてくる圧力は圧巻で、石井を完全に凌駕していた。
打撃の猛攻にさらされた石井は、左腕で顔面をガードしていた、その腕の上から右ハイキックをたたき込まれ、リングに沈んでいった
会場は満員とはならなかったが、往年のファンが会場に詰め掛けていて、客席のムードは大変良かった。
映画『未知との遭遇』を彷彿させるリング上の照明、選手の登場ゲートの演出もあでやかで、旋回するスポットライトが会場内を波打ちながら躍るように照らしていったのには驚いた。見事な会場演出だった。
大晦日、さらなる激闘に期待したい!
(写真/文 安西伸一(フリーライター))
RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2015さいたま3DAYS
SARABA(さらば)の宴
日時:2015年12月29日(火)
開始:15:00
会場:さいたまスーパーアリーナ
観衆:12214人
▼第1試合 無差別級 RIZINルール1R10分、2R5分、3R5分
○高阪剛
2R 1分58秒 TKO(レフェリーストップ)
●ジェームス・トンプソン
▼第2試合 ヘビー級 RIZINルール 1R10分、2R5分、3R5分
●カルロス・トヨタ
1R 2分23秒 TKO(レフェリーストップ)
○キリル・シデルニコフ
▼第3試合 56.7kg契約 RIZINルール1R10分、2R5分、3R5分
-元谷友貴
1R 1分56秒 無効試合
-フェリペ・エフライン
▼第4試合 65.0kg契約 K-1ルール3分3R延長1R
○HIROYA
3R 1分20秒 KO(右フック)
●西浦“ウィッキー”聡生
▼第5試合 70.0kg契約 MIXルール(1R キック、2R MMA)3分2R
○日菜太
1R 2分14秒 KO(3ノックダウン)
●宮田和幸
▼第6試合 84.0kg契約 RIZINルール1R10分、2R5分、3R5分
●A.J.マシューズ
1R 55秒 KO(左ストレート)
○アナトリー・トコフ
▼第7試合 62.0kg契約 RIZINルール1R10分、2R5分、3R5分
●才賀紀左衛門
1R 5分16秒 一本(腕ひしぎ十字固め)
○所英男
▼第8試合 65kg契約 RIZINルール1R10分、2R5分、3R5分
○高谷裕之
判定3‐0
●DJ.taiki
▼第9試合 ヘビー級世界トーナメントリザーブファイト RIZINルール1R10分、2R5分
●内田雄大
1R 2分20秒 一本(チョークスリーパー)
○ワレンティン・モルダフスキー
▼第10試合 ヘビー級世界トーナメント1回戦第1試合 RIZINルール1R10分、2R5分
○キング・モー
1R 9分10秒 KO(右フック)
●ブレット・マクダーミット
▼第11試合 ヘビー級世界トーナメント1回戦第2試合 RIZINルール1R10分、2R5分
○テオドラス・オークストリス
1R 3分32秒 KO(右フック)
●ブルーノ・カッペローザ
▼第12試合 ヘビー級世界トーナメント1回戦第4試合 RIZINルール1R10分、2R5分
●ゴラン・レリッジ
1R 2分58秒 KO(踏みつけ)
○ワジム・ネムコフ
▼第13試合 ヘビー級世界トーナメント1回戦第3試合 RIZINルール1R10分、2R5分
●石井慧
1R 1分36秒 KO(ヒザ蹴り)
○ジーリー・プロハースカ
▼第14試合 スペシャルワンマッチ 78kg契約 RIZINルール1R10分、2R5分、3R5分
●桜庭和志
1R 5分56秒 TKO(セコンドからのタオル投入)
○青木真也