【インタビュー】【前編】全日本プロレスとアクトレスガールズの提携の影響は?『Evolution』中西光司代表が語る両団体との関係。「プロレス界から巣立っても生きていける“社会人”を育てる」という選手育成方針

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 某日、3月27日に新木場1stRINGにて旗揚げ1周年記念大会を行う女子プロレス団体『Evolution』の中西光司代表にインタビューを行った。

 株式会社Evolutionは、2021年10月より全日本プロレスと業務提携した株式会社ステータスの100%子会社。ステータス社はセールスプロモーションをメインに行う広告代理店であり、全日本プロレスと業務提携はしているものの資本的な繋がりはない。

 昨年3月に生え抜き選手3名とともに旗揚げしたEvolution(通称:Evo女)では諏訪魔&石川修司がプロデューサー&コーチを務めて女子選手を育成している。
 みっちりと基礎を固めてからデビューしたZONES(ぞねす)、Chi Chi(ちーちー)は全女時代から生きるベテランたちからも高い評価を受けており、デビュー1年目にして他団体に引っ張りだこ。Chi Chiは数多の強豪を下して夏すみれから“Yシャツクイーン”の座を禅譲され、ZONESはセンダイガールズ主催の新人トーナメント『じゃじゃ馬トーナメント』で優勝を果たすなど新興団体にも関わらず女子プロレス界で確かな存在感を発揮している。

 昨年10月に初期メンの1人であったサニーが先天性の脊柱管狭窄症が発覚し引退したことで所属選手が2人になってしまったEvo女だったが、今年1月大会で第4の生え抜き・ソイがデビュー。
 ソイはデビュー後には「お師匠の諏訪魔さんと石川さんの間に生まれたバケモノの子になりたい!」と号泣しながら熱い想いを叫んでおり、“王道”の魂はEvolutionの新人にまで浸透している様子だ。

 石川が今年1月末付で全日本を退団したことで業界が騒然としたが、Evo女では翌2月1日付で石川がゼネラルマネージャー(GM)就任したことを発表。選手としてはフリーランスとして活動し、Evo女では他団体の折衝などを含めたプロレス界との渉外を担当するなど重要人物として残留する形となった

 そんなEvo女の快進撃を選手と一緒になって支えているのは、代表を務める中西光司氏。
 株式会社ステータスの中西氏は、元々“プロレス村”の出身でないことから経営者視点でプロレスという特殊なビジネスをみている。義理人情で動く人間が多いプロレス界の中では一見冷徹に見える側面を持つ。
 一方で、Evolution代表としての中西氏はプロレスへの大きな愛を持って団体運営に取り組んでおり、興行時には現場スタッフとして会場中を走り回る苦労人。諏訪魔と一緒に“暴走”して団体を旗揚げするに至る熱い男であり、所属選手がアスリートとして現役を続けられなくなったときに一般社会で生きていけるような考えをもつことを重視するなど選手のことをひたすらに想っている。

 様々な団体の事情に翻弄されているように見えるEvo女について、一部のプロレスファンの間では「Evo女は全日本プロレスの女子部門や子会社じゃないの?」「アクトレスガールズが来たことでEvo女は全日本に切られたのでは?」という声が上がっている。
 しかし、周囲で“色々”起こっていることは確かながら、その実態はファンの憶測とは大きく異なるものだという。

 今回のインタビューでは、中西氏に多角度から話を聞きながらEvolutionという団体の全貌を二部構成で明らかにしていく。

■「諏訪魔さんと修司さんは色んな垣根を超えてお2人で協力してくれています」――Evolutionと全日本プロレス、Evolutionとアクトレスガールズの関係性

――まず、現在のEvolutionと全日本プロレスの関係はどうなっているのでしょう
「まず結論から言うと、仲違いをしているとか、ケンカをしているとか、関係が悪いということは一切ありません(笑)ステータスとしては今まで通りお付き合いをさせていただいていますし、Evolutionとしても端々色々なところでお力を借りて助けていただいています」

――では、Evolutionと諏訪魔選手の関係性はどうでしょう
「今も諏訪魔さんがプロデューサーであることに変わりはありません。元々、僕らは全日本プロレスさんよりも先に諏訪魔さんとつながりがあったんです。そもそも諏訪魔さんがプロデューサーをしてくれていたから、全日本プロレスさんが業務提携をしてくれているという順番なんですよ。諏訪魔さんとEvolutionの関係は続いていますし、選手たちの面倒も見てくれています。修司さんは全日本プロレスさんを離れたことでEvolutionとより具体的なお仕事が一緒に出来るようになった形です。色んな垣根を超えてお2人で協力してEvolutionに取り組んでくれてるんですよ。僕らとしては感謝しかありません」


――これはファンが一番気になっていることだと思うのですが、Evolutionはアクトレスガールズのことをどう思っているのでしょう
「あっ、やっぱそれ聞かれますよね(笑)簡潔に言うのはすごく難しいんですけど……一言で表すと『分からない』ですかねえ。元々Evolutionとアクトレスさんに接点があったわけではないですし、全日本さんとアクトレスさんが業務提携をしたことも、Evolutionにとって悪い印象になっているってことは正直無いです。アクトレスさんのことを詳しく知っていたら何らかの感情が生まれていたかも分からないですけど、『こういうことになったよ』と伝えられたときに、全日本プロレスさんがそうしたいと言うのなら僕らが何かを言う立場ではないので当時は素直に『分かりました』と受け入れました。今もその気持ちに変わりはありません。アクトレスさん側からウチになにか干渉してきているようなことって一切無いですし、アクトレスさんとの関係があるから全日本さんがウチに対して何かしらのことをやっているってことも無いですし、アクトレスさんとの関係があるからウチが引いてるということでも無いです。Evolutionとしては全日本プロレスさんを尊重して、全日本プロレスさんとの契約の中でお邪魔にならないように。ただ、その中でも道場を貸していただいていたりとか色々な部分で助けていただいているという、健全な業務提携が継続している形です」

――アクトレスについては“面識のない友達の友達”といった感覚に近いでしょうか
「近いかもしれないですね。アクトレスさんのことはよく聞かれるんですけど、答えるのがすごく難しいんですよ。関わりが無いので色々聞かれても『分からない』としか言いようがないことが多くて。ただ、一視聴者としてはすごく華やかでいいなとは思いますよね。ウチがそうならなきゃいけないとかじゃなくて、ウチとは違う路線で見てる人を引き付ける魅力があるなとは思っています」

■「経営陣がプロレスの中身を作ることなんて出来ない」――Evolution誕生の経緯と団体運営の考え方

――旗揚げ1年目、デビュー1年目にしてEvo女の選手が色々な団体に出場しているのを見かけます
「いやあ、本当にありがたいですね。今やいろんな団体さんからお声がけいただけるようになって。一番最初に評価してくれて『この子いいよ』って引っ張ってくれたのが仙女さんやOZアカデミーさん、とにかくうちの子たちを引っ張ってくれていますね」

――旗揚げ戦でデビューした初期メンの3人は、デビュー戦とは思えない完成度で出てきて驚きました
「それでも終わった後にプロデューサーのお2人から怒られてましたね(笑)まあ、そこで『良かったよ』って言ってしまうと停滞してしまうので、常にダメ出しされています。たまにガチダメ出しされて悔しくて選手が泣いてるのとかもありますね(笑)」

――それが辛くてプロレスを辞めてしまうケースを多く見聞きする中、あの2人からのガチダメ出しを受けても泣きながら付いていくEvo女メンバーから凄まじい覚悟を感じます
「そこはありがたいなって。辞めずにずっと付いていくので。そこが諏訪魔さんと修司さんの上手さだと思いますね。僕ら経営陣はプロレスに関しては何も出来ないので、経営とかプロモーションは一緒にやっていきますけど、マッチメイクや練習に関しては一切口を出さずにお2人にお任せしています。逆に、そこに僕らが口を出したところで何も上手く行かないでしょう?(笑)」

――そこを割り切って考えられるプロレス団体の経営者は中々いないと思います
「僕らはいい意味でプロレスをビジネスとして考えられているのかもしれませんね。僕らの役割っていうのは、選手たちが仕事としてプロレスが出来る環境を作り上げることだと思っているんですよ。僕らがプロレスの中身を作ることなんて、どうやっても出来ないんで(笑)お金を何処かから調達するのがメインの仕事です。来期には数社ほどスポンサーに入っていただけることになりまして。うちの会社も全部自前で出来るほど大きい会社ではないので、スポンサーさんを探して、スポンサーさんにどういうメリットを提供出来るかっていうのを考えていく仕事がメインです」

――それは、大元となっている株式会社STATUSの考え方だと思います。そもそもステータス社はどのような会社なのでしょう
「ステータスの場合は広告の中でもセールスプロモーション(SP)の領域でエンドユーザーに対して何かしらの仕掛けをしていく分野になります。変わったところとしては派遣免許を持っていて、営業代行とかもしていますね。だから、外からはすごく見えづらい部分で動いてます(笑)業務実績だけ見ると色々とっ散らかってるようには見えるんですが、『SPに必要なものを用意する』ということで一貫していると思いますよ」

――その会社がなぜ突然プロレスビジネスに進出したのでしょう
「スポーツマネジメントの仕事をしてる中で、選手にイベントに来てもらうとか、タイアップして商品をPRしもらうとかっていう業務があるんです。スポーツ界だと、芸能界と比べ小回りも効く部分が出来ることが多いですね。その仕事の中で諏訪魔さんと知り合って色々とお話をしている中で、『全日本プロレスにもSP的な発想を入れてみるとおもしろいのでは?』というご相談を受けて、『じゃあ一緒にやってみましょうか』ということで会社としての接点が生まれました。そこから……気付いたらこうなってました(笑)」

――気付いたら新たな女子プロレス団体が出来上がっていた……?
「まあ、それもキッカケは諏訪魔さんですよ。諏訪魔さんが『女子プロレス団体をやりたい』と考えている中でウチと一緒にやることになって、全日本さんからも十枝さん(※十枝利樹取締役)が色々お力を貸してくださって、Evolutionというものが出来ました。でも、出来たときにはホンットに何も決まってませんでしたし、選手も1人もいませんでしたからね。ホントに暴走専務と一緒に暴走していた形でした(笑)」

■「プロレス界から巣立っても生きていける“社会人”を育てる」――現役時からセカンドキャリアに備えさせるEvolutionの育成方針

――最初期には所属3選手のシングルマッチだけで全3試合という大会構成でした。新人のシングル3つで大会をやるのは勇気が必要だったと思います
「Evolutionとしては自前でコンテンツを育てないといけないと思っていて。所属選手を増やすという意味での外部への声がけというのは一切していなくて、自前である程度育った上で声を掛けるなり受け入れるなりしましょうという考えです。今やってる石川修司企画も、その選手を中に入れたいというよりは、一緒に闘ってくれる人を募集してる形ですね。とにかく、今いる子たちを一人前にしていかなきゃいけないっていうのが最優先課題です」

――Evolutionが考える“一人前”の基準とはどのようなものなのでしょう
「プロレス界で言うと『一人前の選手』という意味になると思うんですけど、僕らは企業なんで、『一人前の社会人』を育てないといけないといけないと思っていて。だから僕らの思う“一人前”っていうのは、たとえプロレスを辞めてもちゃんと食べていける人間になることです」

――昭和からの悪しき伝統が連綿と受け継がれている側面のあるプロレス界に於いては先進的な考え方だと思います
「選手から『他の団体はこうやってるみたいですけどどうですか?』って提案されることが多いんですけど、取り入れるべきものもたくさんある一方で『それはちょっと入れないほうがいいな』と思うものも正直あるので……取捨選択している最中です(笑)」

――義理と信用で成り立っていると言えば聞こえはいいですが、口約束で“なあなあ”のまま動いてしまうことが多い業界ですからね
「まあ、そうですね(笑)だから選手たちには一般的な仕事のやり方も教えています。選手が『スポンサーになってくれるらしい人がいるんです』って話を持って来たことがあるんですけど、僕からは『その方はどういう仕事をしてる方で、なにをしたいって言ってるの?ビジネスとしてまず5W1Hの確認と金額・時期・内容とかを突き詰めないと始まらないよ』と返したりしています。『ウチの会社で何か動くことをするのであれば、人が動く以上は費用が発生するよ?それがビジネスだからね』って話したりしてます(笑)選手からはめんどくさいでしょうね……」

――ファイトマネーを得る以外の“仕事”の仕方も教えているんですね
「プロアスリートが現役でいられる期間って人生の中で短いじゃないですか。そういうことも学んでもらわないと、彼女たちがプロレス界から巣立っていったとして、社会人として通用しないんじゃないかなと。Evolutionいてもらう内に社会常識を少しでも学んでもらいたいなと。そうでないと後々大変なことになっちゃうと申し訳ないと思うんです。僕らは選手の人生の一部を預かっているわけですから、現役のときからその先の人生のことも考えて選手の教育をしていかないといけないと思っています。選手との契約書も細かくビッチリ20Pくらいあって彼女たちも読むのに苦労すると思うんです。でも内容は全部理解してもらったうえで判子を押してもらってます。そういうことって、社会人としてちゃんとやらなきゃいけないことなんでウチにいるときから徹底してもらいたいとおもっています。」

――経営者目線のお話を聞くだけでも中西さんのEvolutionに対する熱い愛が伝わってきます。今度は少し視点を変えて、選手たちと一緒になって汗を流しながら大会を作り上げている現場目線での中西さんのお話を聞きたいと思います

後編へつづく


『Evolution新木場大会 #12』
日程:2024年3月27日(水)
開始:19:00
会場:東京都・新木場1stRING

▼シングルマッチ
石川修司(フリー)
vs
岩崎永遠(BURST)

▼タッグマッチ
諏訪魔(全日本)/SUSHI(フリー)
vs
田村男児(全日本)/佐藤光留(パンクラスMISSION)

▼シングルマッチ
ソイ
vs
米山香織(YMZ)

▼シングルマッチ
Chi Chi
vs
ZONES

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