朝倉海の魅力に尽きたアーチュレッタ戦【RIZIN.45】

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(文/フリーライター安西伸一)

昨年12月31日(日)の『RIZIN.45』さいたまスーパーアリーナ。会場は超満員札止めの、2万3013人(主催者発表)の観衆で埋め尽くされた。那須川天心VS武尊の時の東京ドームもそうだったが、大晦日のさいたまも、最上階の端の端まで、客席は埋まっていた。

成熟した対戦カードは魅力的で、大晦日だからといって奇をてらったようなカードはなくても、館内は試合への期待に満ちあふれているように感じた。好勝負が続き、会場は本当に、いいムードだった。

第16試合では朝倉海とフアン・アーチュレッタが対戦したが、大会を目前にして、実現させるのに主催者側には大変な苦労があったはずだ。アーチュレッタが計量で2.8キロオーバー。大幅に失敗したからだ。

アーチュレッタはその理由を、「腹に菌が感染してしまった。お腹の調子がとにかく良くなくて、熱もあって、フライトのせいで腰痛もあり、ナーバスになっていた。言い方が汚くなるんだけれど、どうしても腸の調子が良くなくて、便が良くない状況だった。計量を終えたあと、それは全部出した。体調が悪くなりだしたのは月曜日(25日)。火曜日も16時間ぐらい寝て、少し良くなって練習はしたけれど、エネルギーが全くなくて動けず。金曜日も体調が悪くて、普段だったら体重を落とし始めるんだけど、それがなかなか出来なくて、その晩寝て。土曜日起きてから再び水抜きを始めたんだけど、ある一定の所で全く汗が出なくなってしまった」。

それでも、病気が発覚した時点で試合をキャンセルしようとは思わなかったそうで、「自分の体の中で骨一本、血一滴たりとも、組まれた試合をやらないという選択肢はない。私は契約書にサインした、その瞬間から、自分をサポートしてくれる人、家族、みんながサポートしてこの試合を期待してくれている、という覚悟を持って、必ず試合をすると思っている。皆さん一生懸命働いて得たおカネで、高いおカネを出して格闘技を見に来てくださる人が、たくさんいるのだから。あとはチャンピオンであるということも、非常に大きく影響していて、チャンピオンになるということは、それなりに大きな責任を背負うということ。なのでチャンピオンでいるということは、軽いものではないと思っている。ファンも、いかなる人も、ガッカリさせてはいけないという責任があるので、本当にチャンピオンでいることは簡単ではないと思っている。もちろん、彼(朝倉海)には試合を受けないという選択肢もあったと思う」


また、朝倉海が試合後のリング上でマイクを持ち、「ひとこといいですか。アーチュレッタが計量失敗したんですけど、それを責めていいのは僕だけだと思うんで、皆さんからアーチュレッタに何か言うことは、やめて下さい。彼も一生懸命、ホントに対応してくれたんで。僕も感謝を伝えたいと思います。よろしくお願いします」と言ったことを伝えると、「そういうふうに自分のことをかばってくれたこと、リスペクトしています。本当に今回にいたっては、振り返って後悔してどうこうなるっていう問題ではなくて、自分の力の及ばない所で起きてしまったことだと理解しているので。そんな状況の中で、やれることをやり尽くした結果、体重超過をしてしまった。それは受け入れて、そして彼もそれを理解して受け入れてくれたので、その部分をリスペクトしてくれているんだなと思います」と答えた。

重大な感染症ではなかったはずなので、隔離が必要な状態ではなかったのは良かったが、アーチュレッタは菌に感染していたことは主催者側に黙っていたので、朝倉サイドも減量失敗の本当の理由を知らなかった。

かつてプロボクシングを取材していたとき、世界戦に限っては、その数日前に選手の予備検診が病院であり、記者がその様子を囲んで取材。コミッションドクターが診察し、健康体であることのお墨付きを得て、試合に臨んでいた。当然、その様子はスポーツ紙などに載り、情報は敵味方関係なく共有された。

でもメディカル・チェックやドーピング検査は、完璧を目指してやればやるほど経費がかかるし、アマチュア大会などを含めて、出場選手が多いとキリがないのが現実だ。病気を申告しないのは良いことではないと思うが、アーチュレッタ側が黙り通して、なんとか当日にこぎつけたから、いびつな形とはいえ試合が成立したとも言える。

試合では海が見事なヒザ蹴りをボディに入れ、相手は顔をゆがめて倒れこみ、これが決定打になったのだが、腸の不調を押し隠して戦ったアーチュレッタとしては、精一杯の姿だったのだろう。

負けた側の、こうした言い訳は、勝者の快勝の価値を下げるものになりかねないので、普段なら言ってほしくないと思うことが多いのだが、この試合に限っては注目度が高すぎて、触れないわけにはいかなかった。

RIZIN側も、アーチュレッタも海も、なんとか試合を実現させようと真剣に向き合った大晦日。そして体重差をものともせず、会心の一撃で相手を撃破した朝倉海は、本当に立派だった。海は第6代RIZINバンタム級王者として返り咲いた。

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