「このままじゃWWEに勝てない」“アングロサクソンが好きなスポーツ”プロレスをアジアに広めるための新日本プロレスの作戦とは?
10日、東京都・飛行船シアターにて『新日本プロレス&STARDOM戦略発表会 2023』が開催された。
新日本プロレスとスターダムがそれぞれ例年行ってきた戦略発表会だが、最近は両団体の接点が増えてきていることもあり初の2団体合同の戦略発表会を開催するに至った。
同会は、スターダムパート、新日本プロレスパート、合同パートの3部制で実施された。
新日本プロレスパートには、大張高己社長、木谷高明オーナー、さらに海野翔太、マスター・ワト、棚橋弘至がゲスト選手として登場。
2023年度(6月決算)の売上は、2019年度に達成した過去最高額(54億円)の約98%に及ぶ53億円に到達したことを報告。
これに関してはグッズや他企業コラボ商品の展開などの会場外の収益が伸びていることが要因としてあり、来場者数に関しては直近最盛期の約65%に留まっているため今後は来場者数を増やすための施策を講じていく方針が語られた。
続いて、昨年の戦略発表会で課題として挙げられた『選手の高齢化問題』については、マスター・ワトがBEST OF THE SUPER Jr.を制覇したり、“令和闘魂三銃士”海野翔太&成田蓮&辻陽太らの台頭の他、アメリカから逆輸入した自前の外国人選手たちの活躍によって一定の解決が成されてきたという見解を発表。
『THE スピリット』を経て入門した練習生を始めとし、現在の練習生の数は過去最高規模。誰かが年内にもデビューする可能性もあることを匂わせた。
海外への進出・発信の話題になると、海野が「僕もイギリスに海外遠征に行ってましたけど、ホントにちっちゃいお子様から『シューター!シューター!』って言っていただいて。やっぱり新日本プロレスって名前だけが世界に広がっているというのは事実だなとこの身を以て感じました。やっぱりアメリカ、メキシコ、イギリスって海外進出している中で、それは個人的にいいことなんじゃないかなって。某選手は『撤退したほうがいいんじゃないの?WWE、AEWには勝てないから新日本プロレスは手を引くべきなんじゃないの?』っていう1意見もありますけど、正直リアルなところを突くと、今のままでは勝てないと思います。でも1人でも応援してくれている海外のファンが居るのであれば、僕はその地域で試合をして『これが新日本プロレスだよ』っていうのを見せてあげたいと思います。今回台北が決まってアジア進出ということで。フィリピンとかWWEが平気でTV放映されているっていうのもありますし、アジアってもっと広い視点で見たときに中東だったりインドだったりアフリカだったり」と持論を展開。
そして、突然「僕はすごくいいと思いますけど、どうですかね?陽太選手」と、偶然一般客として戦略発表会を観覧していた辻陽太に話を振る。
海野からマイクを受け取った辻は、「アジアは世界の人口の60%を占めている。木谷オーナー、この新日本プロレスをアジアに広めていくために何が必要だと思いますか?」と公開質問。
これを受けた木谷オーナーは、質問への回答の前に海外戦略の現状を説明。
約4割が外国人会員であったNEW JAPAN WORLDだが、アメリカ・イギリスでは日本がまだコロナ禍で手探り状態であった頃にもガンガン大会を開催していたこともあり、相対的に新日本プロレスへの関心が落ちて会員数が激減してしまったという。それでもアメリカでは万単位の会員がいることもあり、アメリカ事業に関してはトータルで見ると黒字。しかし、アジアに関してはアメリカやイギリスの会員数に比べて会員数の桁が1つ、2つ変わってくるという。
これを踏まえて辻への質問回答に移り、「プロレスってアングロサクソンが好きなスポーツなんですよね。日本とメキシコ以外はアングロサクソンの国でしか流行ってない。これをアジアにどうやって広めていくかって考えると、やはり見せるしか無い。配信とかTVよりもリアルで見せたほうが早い。リアルで見たほうが熱が伝わる。台北では12年前に合同興行でやりましたけど、まずはもう1回直に見せるところから始めようと」と熱弁。
そして、1・4東京ドーム大会には毎年アメリカやイギリスから多くのファンが来ていることに触れ、アジアでプロレス文化が広まっていけば距離的に近い日本へ足を運んでくれるようになるのではないかというビジョンを語った。
また、両団体の戦略発表会で共通して語られた“アジア進出”というテーマへの答えの1つとして『アジア太平洋プロレス連盟』を来年1月に発足することを発表。
当連盟は、新日本・スターダムをはじめ、PUZZLE(台湾)、DFW(中国)、SETUP(タイ)、GRAPPLE MAX(シンガポール)といったアジアに存在するプロレス団体とともに結成。
来年1月にはこれらの団体とともに発足式を行う予定とのことだが、木谷オーナーは「ただ、あんまり期待しちゃダメですよ?僕もシンガポール行ったときに現地のプロレス団体を見に行ったんですけど、まだまだレベルは高くないですし選手の身体は小さいですし」と国ごとのレベルの差について言及。
それでも、「ただ、色んな国に大きい人も身体能力が高い人もいるはずなんですね。新日本プロレスが一緒になってレスラーを育てていきたいと。プロレスの興行で大変なのはリングの調達をどうするかって問題なんですが、現地にはリングも元々ありますから。プロレス未開地、日本のお膝元のアジア地域にまず新日本プロレスとスターダムが中心になって、プロレスの種まき……種はあるんで肥料を足していって、アジア全体でプロレスが盛んになるようにやっていきたいなと思っています。『アメリカのWWEとかAEWに押されっぱなしじゃないか』という声もありますが、彼ら列強に勝つにはお膝元をまず固めて力をしっかり蓄えて、勢力をしっかり確立しなくちゃいけない。やっぱり、地元のレスラーが活躍するから応援したくなるというのは当然ありますし、日本人も日本人が活躍したほうが燃える人は燃えると思います。これから時間はかかるかもしれませんが、新日本プロレスとスターダムが中心になってアジアのプロレスを振興させていきたいと考えております。ですから、もしかしたら今ある階級よりも軽い階級よりももっと軽い階級でやるということもあるかもしれません」と、中長期的な目線でアジアのプロレス市場を育てていく気概を語った。