【インタビュー】TAJIRIが品切れ続出の新著書『プロレス深夜特急』の見どころを解説!「コロナ禍にも『外国の風と匂い』を届けながら『TAJIRI流、世界最高峰に上り詰めるためのプロレス理論』まで分かってしまう二度美味しい本です」

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 「文豪レスラー」TAJIRIの最新刊「プロレス深夜特急」(徳間書店)が発売された。「読むと旅をしたくなる」「世界各国のプロレス事情が分かる」等々、好評を博している。
 前作「プロレスラーは観客に何を見せているのか」(草思社)では、プロレス理論の基礎「サイコロジー」や「キャラクター論」を詳しく解説し、プロレスファンはもとより、エンターテインメント業界やビジネスインフルエンサーから称賛を受けて、大きな反響を呼んだ。今回の「プロレス深夜特急」にはどんな意図が込められているのか。早速、著者のTAJIRIにインタビューした。
(聞き手・構成 茂田浩司)


――最新刊「プロレス深夜特急」が売り上げ好調のスタートですね。
「ありがとうございます。前作(「プロレスラーは観客に何を見せているのか」)は発売前からプロレスファンの注目を集めてロケットスタートを切りましたけど(笑)、今回は書店で多く売れていて、品切れになってしまった書店もあると聞きました」

――品切れの際は、書店で注文していただくか、ネット書店を利用していただくとして、しかし「旅本」とは意表を突かれました。
「コロナ禍で、僕も海外に行く予定が幾つもキャンセルになってしまいましたし、みなさんも海外になかなか行けない状況が続いていますよね。だからこそ、僕が体験した『プロレスの旅』を書き残しておきたいという気持ちになりました。そして、海外に行けない状況だからこそ、みなさんに『海外の風と匂い』を届けたいという思いもあって『プロレス深夜特急』という形になりました」

――この本を読むと、海外で体験した市場の喧騒とか屋台の匂いの記憶が蘇って、また海外に行きたくなりますね。
「ありがとうございます。ただ、プロレスラーでこういう本を出したケースがないせいか、ファンの人も『買おうかどうしようか』と迷って、手を出しにくいのかな、という感じもありますね(苦笑)。読んだ人には『面白かった』『旅行に行きたくなった』と好評をいただいているんですけど」

――「プロレス深夜特急」をプロレスファンが読まないのはもったいないですね。「旅の本」としても、TAJIRI選手が世界各地で出会った人や食や面白いエピソードが書かれていて楽しめますが、かなりのボリュームで「TAJIRI流プロレス理論」に割かれていますね。つまり、前作「プロレスラーは観客に何を見せているのか」の続編、実践編といえるのではないですか?
「フフフ、実はそういう本でもありますね」

――TAJIRI選手は海外の団体からのオファーを受けて、世界各地で選手向けのセミナーを開催していろんな選手を教えていました。その「TAJIRIプロレス教室」では何を、どう教えたかが、この本に詳しく書かれています。
「確かに、前作で綴った『TAJIRIの考える、現時点でのプロレス論』を、各国のレスラーの卵たちとの対話を通して、より分かりやすく、具体的に説明している本でもありますね」

――みちのくプロレスの新崎人生さんが「プロレス深夜特急」をいろんなレスラーに持たせて写真付きでツイートしてました。おそらくTAJIRI選手のプロレス論や教え方に共感して、みちのくプロレスの選手に「この本を読みなさい」と命じたのではないか、と。
「ああ、なるほど。それは気づかなかったな。新崎さんはわざわざ買ってくださって、PRもしていただいて。CIMA選手や小島聡選手、最近は全日本プロレスのジェイク・リー「親分」や芦野祥太郎選手が本の感想をSNSに書いてくれてるんですけど。まだ同業のレスラーに聞いても『読んでない』という人が多いです(苦笑)。僕は、同業のレスラーが本を出すと必ず買って読んでいますし、感想をSNSでつぶやいてPRのお手伝いをするんですけど」

――若手選手が読まないのはもったいない。参考になる話がたくさん書いてありますね。
「そうですね。僕は、みんなにプロレスでお金を稼いでほしいんですよ。この本を読めば、もっともっと稼げるレスラーになれるはずなんです」

――それで言うと、現在はWWEで活躍するKUSHIDA選手や黒潮“イケメン”二郎(現・イケメン二郎)選手、師弟対談に登場するスターダムの朱里選手といったTAJIRI選手のお弟子さんたちは、この本にある「TAJIRI流プロレス3つの基本」や「キャラクター論」を叩き込まれて育ったのだな、と思いました。
「はい。そして、その『プロレスの基本』が日本だと『レスリングが出来ること』だと思われているんですけど、全然そうじゃなくて、実はもっと大事なところがプロレスにはあるんです。そのことを僕はこの本に書いているのですが、それが何かは立ち読みしてざっと読んだだけでは分からないと思うんですよ(ニヤリ)。ちゃんと購入して、じっくり読んでいただきたいですね」

■「試合をするだけ」のプロレスラーでは、観客の感情を揺さぶる試合は出来ない。

――「プロレス深夜特急」の中で、特にこういうところを読んでほしい、というポイントはありますか?
「プロレス団体といえば、日本では『道場があって、入門テストに受かった内弟子がさらにトレーニングして、デビューを目指す』という風に思われていますけど、世界的に見ればこれはかなり特殊な制度なんですよ。この本には、道場もない、リングもない、教えてくれる人もいない、本当になんにもないところから始めて『プロレスラーになって成功したい』と奮闘している人たちの話が出てきます。プロレスは、世界的に見るともっと広くて、もっと多様性に富んでいるジャンルなのだと、ぜひ日本のファンにも知ってほしい。そういう思いはありますね」

――本を読んで、今は世界各地に「プロレスでお金を稼ぎたい」という若者がいて、各地で様々な団体が活動していることを知りました。それはWWEの世界的なブームが大きな影響を与えているんですね。
「そうですね。WWEの影響は絶大ですし、僕がいまだにいろんな国から呼ばれるのは15年前にWWEにいて、TVマッチに出場していたからなんです」

――ただ、世界的な広がりと共に弊害もあって「WWEの上辺だけを真似した、形だけのプロレス」が流行ってしまう現状もあって、TAJIRI選手は危機感を持っているとか。
「そうですね。この本にも書きましたけど、フィリピンなんかはWWEの上辺だけをなぞった、形だけの練習をしていました。それで僕が呼ばれて、指導をしたら『僕らに欠けていたのはこうしたプロレスの理論なんです』と言われました」

――TAJIRI選手が見つけ出し、日本に呼んだフランシスコ・アキラ(イタリア。先日、世界ジュニアヘビー級王座を獲得)やギアニー・ヴァレッタ(マルタ共和国。世界最強タッグリーグ戦やチャンピオンカーニバルに出場)、レッド・イーグル(ポルトガル。3年前、HEAT-UPに参戦)以外にも、本の中にはプロレスで成功を夢見る若者たちが登場します。今後、彼らを日本に呼ぶプランはありますか?
「実は、フィリピンの団体とは全日本プロレスとコラボレーションして何か出来ないかという話をしていて、コロナで中断してしまったんですけど、海外を自由に行き来できるようになればぜひ話を進めたいですね。あと、全日本プロレスの若手をこの本に登場する世界各地の団体に送り込んでみたいです。全日本プロレスがさらにワールドワイドに広がっていきますし、若手レスラーにとっては貴重な体験になると思うんですよ」

――なるほど。
「だから、この本はプロレスで成功を夢見る若手レスラーたちにぜひ読んで貰いたいです。そして『どんな経験でも、1ミリ残らず、人を楽しませる材料になるんだ』ということを知ってほしいと思います。ただ海外に呼ばれて『試合だけして帰ってきました』というのではなく、そこで体験したことや感じたことをプロレスにフィードバックする。海外への旅と現地での試合という経験から、二次的な副産物があるのがプロレスなんです。そういう経験を積んでいくと、自分の個性とキャラクターと『自分だけの価値』が生まれてくる。そこまで行ってくれたらいいな、と思うんですよね」

――本の中に、ウルティモ・ドラゴン選手がアメリカで作っている「ウルティモ・ドラゴンラベルのワイン」(ワイナリーのVIP会員特典)の話が出てきますが、ウルティモ選手のゴージャスな雰囲気は、こういう生活から醸し出されるものなのか、と思いました。
「そうですね。ああいう一般の人では絶対に出来ないような経験をたくさんしていないと、プロレスラーとして面白くなれないと思うんですよ。ただ試合だけをしててもダメなんです。実際に、僕も試合をしてて『ただ試合をするだけのレスラー』は一杯いるんですけど、まったく面白みがないんです。それはお客さんにも伝わってしまうと思うんですよね」

――そんな中、KUSHIDA選手に続いて、今春からイケメン二郎選手がWWE入りしました。なぜTAJIRI選手に教わった選手は海外を目指すのでしょうか?
「僕は、新人の頃から『外国に行かなきゃ話にならないよ』『プロレスでお金をたくさん稼ぎたいなら、アメリカに行かないと』という話を耳にタコが出来るくらい言い続けます。そういう教育をしていくと、そうなっていくんだと思うんですよ」

――なるほど。
「それから、練習中に『エルボーだけで試合をしてみなさい』という課題を出したりします。『自分のキャラクターをエルボーに乗せてみる。最初はバカにされても笑われてもいいから、とにかくやってみなさい』と。そうやって、僕の弟子たちには『考える習慣』をつけさせることを意識しました。考える習慣のないレスラーは、お客さんを喜ばせたり、楽しませたり、悲しませたり、怒らせたり、見る人の感情を揺さぶる試合は出来ないと思うんです」

――現在、スターダムで朱里選手がいろんなことを仕掛けて「常に面白いこと、新しいこと」を探求していますが、常に考える「TAJIRIイズム」が根本にあるんですね。では最後に、TAJIRI選手からメッセージをお願いします。
「コロナ禍で1年以上、海外に行くことがままならない生活が続いていますが『プロレス深夜特急』を読んでいただけたら海外に行ったつもりになれると思うんですよ。『旅』が好きな人にはぜひ読んでいただきたいですし、前作『プロレスラーは観客に何を見せているのか』を読んだプロレスファンの人は、今作を読んで貰うと、もっと深くプロレスを理解し、味わえると思います。ツイッターで感想をつぶやいて貰えたら、僕も出来る限りリプをするようにしていますので、そんな交流もしていけたらいいですね」
(了)


TAJIRI(タジリ)
1970年9月29日、熊本県出身。1994年、IWAジャパンでデビュー。その後、大日本プロレス、メキシコ・EMLL、アメリカ・ECWなどで活躍したのち、世界最大のプロレス団体・WWEに入団。5年間“日本人メジャーリーガー”として活躍。日本に帰国後は、ハッスル、SMASH、WNCなどで、選手のかたわらプロデューサー、若手育成にも手腕をふるった。フリーとして日本と海外で活躍したのち、昨年1月に老舗・全日本プロレスに正式入団。

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