【コラム】3月に引退した小川徹のボランティア活動に清水清隆・若松佑弥が参加!子供たちに夢や勇気を与える姿に密着した!
格闘家は素晴らしい仕事だ。人に夢や勇気を与えてくれる。しかし、格闘家が夢や勇気を人に与えるのは、試合でだけではない。
第6代フライ級キング・オブ・パンクラシストで、今年3月、パンクラスにて引退試合を行なった小川徹さんは、現役時代から施設の子どもたちに格闘技を教えている。
小川さんは「格闘技をやるっていうよりは、格闘技を通じて子どもたちと楽しく遊ぶ感じですね」と笑う。5年ほど前から訪問を始め、子どもたちに格闘技を通じて楽しく体を動かすことを教えている。現役時代は試合が終わったタイミングで1年に3〜4回ほどの頻度だったが、引退した現在は月に1回訪れている。
今回4月15日は、引退試合の相手を務めた元格闘家の清水清隆さん(第2代スーパーフライ級キング・オブ・パンクラシスト)、ONE参戦中の若松佑弥選手も加わり、TRIBE TOKYO M.M.Aの3人が、埼玉県新座市の「放課後デイサービス 太陽の家」を訪れた。清水さんは初めて、若松選手は2回目の参加。2人とも、子どもは大好きだと言う。
「放課後デイサービス 太陽の家」は、発達がゆっくりな子どもたちに寄り添い、得意なことを見つけて伸ばす、楽しめることを見つけて一緒に楽しむ、日常生活に支障が出るところを直すなど、6歳から18歳までの子どもたちの生活向上をサポート。また、子どもたちの親にも寄り添い、悩みを理解し、サポートしている施設だ。
代表の石河利恒さんによれば「格闘家の皆さんは大人気です。楽しく遊べて、優しく教えてくれるので。みんなで試合を応援に行ったこともありますし、親御さんたちもファンなんです。今度、小川さんのサインをもらってきてくださいと言われているんですよ」とのこと。
複数の施設の子どもたちと合同で行う場合は、30名を超えることもあるが、今回は「太陽の家」単独のイベントで、7名の子どもたちが参加した。
当日はあいにくの雨天だったため、室内で遊ぶことに。まずあいさつをした後、みんなで試合映像を見る。モニターに、清水さんの試合、若松選手の試合が流れると、子どもたちは「わあー!」「強い!」と驚いていた。
最初はラダートレーニング。床にマスキングテープを貼り、マスを跳ぶ。最初は簡単な動きだが、マスを飛ばしたり後ろ向きに跳んだりと、だんだん複雑な動きをしていく。初めは笑いながら跳んでいた子どもたちの目が、どんどん真剣になっていく。格闘家たちは「頑張れ!」「そうそう! できた!」と励ましながら、褒めながら見守る。
次は腕立て伏せ。まず格闘家がお手本を見せ、「何回できるかな!?」とみんなで挑戦! 子どもたちはもう心を開いて、腕立てをする格闘家たちの背中に乗ってはしゃいでいた。
続いて、2人一組になって腹筋競争。小川さんが「30秒間で一番たくさんできた人は、若松選手、清水選手と対決できます!」と言うと、子どもたちは一斉に「やだぁー!」と大喜び。真剣な顔をして腹筋に取り組んだ。
ひと休みして、次はいよいよミット打ちだ。まず「始める前に、お互いに『お願いします!』とあいさつをしましょう。そして、終わったら『ありがとうございました!』とあいさつをしましょう」と、あいさつから教える。
清水さんがパンチングミット、若松選手がキックミットを持ち、子どもたちと打撃練習。パンチが当たるようになると、相手のパンチを避けてのワンツーなど、リズムに乗ってパンチが出せるようになっていく。
若松選手も、普通の蹴りだけでなく、ヒザ蹴りや前蹴りを伝授。なんとも豪華なコーチ陣に、うらやましくなってしまった。
一通り打ったり蹴ったりすると、今度は「プロのキックを受けてみよう!」。子どもにキックミットを持たせ小川が支えて、若松選手が蹴る。もちろんごく軽い蹴りだが、受けた子どもは「わぁー!」「すごーい!」と圧力に驚いていた。すると、「大変だ! みんなで支えよう!」と、ミットを持つ子どもを他の子どもたちが支えて蹴りを受けたが「よろけちゃう!」。
ここで、石河さんもミット打ちに参加。小川さんがミットを持った。石河さんは空手をやっており、トレーナーとしても活動しているだけあって、素晴らしいフォームとパワーだった。
最後に、小川さんが「今やったパンチや蹴りは、ムカついたからと言って、絶対にお友達や家族にしてはいけません。こうしてトレーニングするのはいいけど、他人には絶対にしないと約束してくださいね」と諭すと、真剣な顔をした子どもたちはうなづいていた。
ひと休みした後、みんなで握力を測ってみることに。小川さんの「声を出すともっと数字いくよ!」という言葉に、子どもたちも「わぁーっ!!」と声を出して踏ん張る。女性スタッフも握力計を握ると、子どもたちから「頑張れー!」コールが起きた。
小川さんは何度も訪問しているので子どもたちと既に親しいが、初めての清水さんや2回目の若松選手もすっかり打ち解け、それぞれ子どもたちと話し込むシーンも見られた。
最後に、みんなで輪になり「ハンカチ落としで遊ぼう!」。なかなかの心理戦もあり、みんなで楽しく走って笑って、約2時間はあっという間だった。
太陽の家・代表の石河さんは「障がいを持っている子どもたちはバランス感覚が弱い子が多いんですけど、こういった格闘家の皆さんの指導によって、バランス感覚を養えるんですね。それから、なかなか大人や知らない人とどう接していいかわからない子もいるんですが、トレーニングを通して大人とのコミュニケーションスキルや社会性を養う効果もあります。
それから、一般のお子さんがするような経験をできないことが多いので、健常なお子さんでもできないような経験をさせてあげたいんですね。インターネットをつなげば彼らが出てきて、試合で強いところが見られますよね。そういう、なかなか知り合うことができないような人たちと一緒にトレーニングしたり、この選手と友達なんだよって言えるのは、子どもたちにとってもちょっと自信になったりするんですね。そういう意味で、彼らにとってこの活動が財産になってくれると思っています」
と話した。
清水さんは「一緒に遊んでただけなんで。みんな、運動するのは好きですよね」と笑った。
自身も子どもを持つ若松選手は「子どもは大人と違って、腹の探り合いをしないからいいですね。ストレートにぶつかって来てくれるので、楽しかったです」と話した。
小川さんは「子どもたち、最初は誰だこいつ、みたいな感じで全然言うことを聞いてくれなかったんですけど、だんだん僕の言うことも聞いてくれるようになって、可愛いですね。
障がいがあったりする子どもたちは、何か経験をするっていう機会がどうしても少なくなってしまいます。どこかに出かけても、何かのきっかけで感情的になってしまったりすることがあるので、それでみんなと一緒にいられなかったり、親御さんが気を使ってしまったり。でも、刺激がないと成長していかないので、こうして僕が来ることによって、普段できない経験をしたり、刺激を受けてもらったりできればいいなと思っています。
その中で、子どもたちは格闘家は強いということを理解してくれているので、ふとした時に感情的になってしまっても、スタッフさんが『小川選手に怒られるよ!』って言うと言うことを聞いてくれたりするっていうこともあるみたいで。これからも活動を続けていきたいと思っています」
と話した。
とても和やかな場ではあったが、子どもたちを見守るスタッフには日々、苦労があることだろう。しかし、「強い格闘家」はそれだけで説得力があるのだ。そして、優しい。子どもたちの様子を見ながら、格闘技の力と、格闘家の素晴らしさを改めて感じた。
小川さんにはぜひこの活動を続けていっていただきたいし、応援していきたいと思う。
(写真・文/佐佐木 澪)