【インタビュー】日本初の“ジェンダーレスレスラー”朱崇花はなぜ生まれたのか【前編】

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 2月某日の都内にて、17日のDDT両国国技館大会でアイアンマンヘビーメタル級王座戦を行う予定の朱崇花にインタビューを行った。

朱崇花は、性自認と身体のギャップを抱えながら幼い頃から“女子プロレスラー”になることを目指してきた選手。カミングアウトをしてからもその夢を捨てきれず、憧れの浜田文子が所属していたWAVEに入団して16歳でデビュー。その後は卓越した身体能力とセンスを武器に頭角を現し、団体の至宝であるRegina di WAVE(WAVE認定シングル王座)を戴冠した他、VOODOO-MURDERSに加入するなどその活躍の幅を広げている。
今年よりフリーとなり、DDTプロレスレギュラー参戦が発表。先月27日にはアイアンマンヘビーメタル級王座を戴冠し、現時点(2月13日)では今月17日のDDT両国国技館大会では王者として登場し防衛戦を行うことが予定されており、その模様はAbemaTVでも生放送がされる。

今後も各団体での飛躍が予想される日本初の“ジェンダーレスプロレスラー”である朱崇花に今後の展望を聞いた。

――まず、プロレスラーになろうと思った経緯を教えていただけますか
「当時ハッスルを見て浜田文子に憧れて。浜田文子の悪役とアジャ様がやってたベビーと対抗戦をしてて、悪い方へかっこいいなという憧れを持ち始めてから『こういう女の人になりたいな』と。ハッスルは芸能人がプロレスをやれてしまうという……和泉元彌さんとかそういう団体で、割とプロレスが好きというよりは浜田文子という人間に憧れたんです。こういう強い女性になりたいなって。女の人が女の人をイスでひっぱたいて、っていうのがすごいなって。小学2,3年のときに始めて見て衝撃を受けて、それでプロレスラーになりたいと思ってレスリングを始めたんです」

――ハッスルはテレビでご覧になられたのでしょうか?それとも会場で生観戦?
「テレビだったと思うんですよね、ハッスル・マニアみたいな。夜眠れなくて、なんか一人でテレビ見てたときにアリシンZが出ていたような気がします」

――その後もハッスルを見ていた?
「2005年くらいのやつを見てたんですけど、それ以前のやつをDVDで借りたり、直接会場では見てなかったですけどDVDで見てました」

――元々ご両親がプロレスファンだったりしたのでしょうか
「父親は格闘技をやっていたので、長州さんとかその辺は知ってたみたいなんですけど、女子プロレスってなるとそんなに知らなかったみたいで。『まさか息子が女子プロレスにハマるとは』って感じで動揺してたと思います(笑)動揺しながらではあるんですけど、以降は会場に行くようになって。仙台に住んでたんで、仙女さんとかよく見に行ってました」

――プロレスの練習を始めたのはいつ頃でしょう
「プロレスはもう全然最近で、15歳くらいに入門してからです。ずっとレスリングをやっていたので、基礎とか受け身とかは小3でレスリングを始めたときからやってましたけど、プロレス自体は15歳くらいからですね」

――女子プロレスラーを目指すにあたり、馴染みのあった仙女ではなくWAVEを選んだ理由はなんだったのでしょう
「もう浜田文子が居たので。ホントに何も知らなくて、自分がジェンダーレスとかいうのもさておいて『浜田文子と一緒にプロレスをやりたい』という一心で。女子とか男子とか関係なく。WAVEの浜田さん以外のレスラーは知らなかったんですけど、とりあえず(入団希望の)メールして入りました」

――それから上京された?
「そうですね。これもめんどくさいですけど、中2のときに家族ごと神奈川県に引っ越しまして、そこから2年間くらい中学卒業まで生活してたんですけど、仙台育英っていう高校にレスリング推薦で入りまして単身仙台に行ったんですけど、高校1年のときの誕生日にカミングアウトしまして、カミングアウトした瞬間『レスリングとかやりたくない!』ってなっちゃって『辞めます』っていうのを学校に伝えて、でも次やる仕事とか決まってない状況だったので『アレやろう、これやろう』とは言ってたんですけど、なんのアテもないし、何が出来るかもわからない。自分のやりたいことでダンサーとかアーティストとかあったんですけど、今までやってきたレスリングっていうものプラス、自分のなりたい女性像をうまい具合に活かした仕事はないかなと思ったときに『一番最初の夢は女子プロレスラーだったな』って思い、仙台にいたときにメールして『オーディション受けたいんですけど』って。そしたらGAMIさんが『面白い!そういうの好きやで!』っていうのから東京に戻りまして、寮生活しながら学校に通って、っていうのが最初でしたね」

――仙台育英の頃は周りの反応は
「もう、当時ホントに丸坊主で、こんなん(身振りでゴツい身体を表現)だったんで。ほぼ男子校みたいな感じだったんで何を言われるかわからないし、当時は自分自身のこういうジェンダーレスの部分に自信を持ててなかったので、周りの友達にも話せておらず、レスリングの先生とか担任の先生に『こういう感じなんです、レスリングを辞めたいんです』と伝えたくらいで、誰に言うとかはほぼほぼ無かったです。とりあえずはホントに『辞めたい』ってだけで……」

――レスリングを辞めた理由は、男子の世界にいるのが嫌だったのか、レスリング自体が嫌になってしまったのかで言うとどちらなのでしょう
「よくよく思うとそんなに苦痛ではなかったのかも知れないけど、自分が女性だと思ってしまうと……見るのも嫌だし、やるのも嫌だし、筋肉が出てくる身体も嫌だし、胸がないのも嫌だし、髪が無いのも嫌だし、メイクが出来ないもの嫌だし……ホントに、何もかもが嫌になってしまって。ただ、レスリングが嫌いになったのでは無くって、『レスリングをやってる自分が嫌いになった』って感じですね」

――現在プロレスラーとして行う男女のミクスドマッチには抵抗がない?
「無いですね。むしろミクスドマッチとかだと女子としての扱いが際立つというか、横にいるパートナーがちゃんと女性の扱いをしてくれて『ちゃんと女子なんだ』っていう認識を出来るので、逆に好きですね」

――WAVEでデビューされて、WAVEの選手たちは朱崇花選手の背景を元々知ってたから大丈夫だったと思うのですが、他団体の選手の反応はどういうものだったのでしょう
「どうだったんですかね。ホント16歳とかだったので、入門したての時。世の中がどういう感じなのか分からず、とりあえず自分のやりたいことだけやって、メイクをするのだけでも緊張していたんで、周りの目は気にしている余裕がなかったですね。プロレス界には色んな人がいるので、そこまで自分が気にする必要はないのかなとも思いました」

――メイクの話が出ましたが、化粧品などのこだわりは
「すごい……なんていうんだろ、ガサツで、割と(笑)お金で解決できるものならお金で解決していいもの買っちゃおうって感じで。女子なのに(笑)割と調べて自分で研究するっていうよりは、とりあえず高いもの買ってみて、合うやつとか、気に入ったやつを使おうっていう感じなので、そういう詳しいのはわからないですね(笑)今はMACっていう海外ブランドが好きですね」

――やはり、そのへんの店ではなく、百貨店などで良いものを買いたい
「それをやってる自分が好きっていうか、ヒールを履いて、伊勢丹なり高島屋なりをしゃなりしゃなりと歩いている自分が好き(笑)自分に酔いたいので、100均で何かを買って、っていうみすぼらしい姿の自分が許せないので。割とシチュエーションに酔いたいがためのことをしています」

――普段プロレスやるときもヒールファイトのとき、正統派のときとキャラを変えることは意識していますか
「元々性格が悪いと言うか(笑)ヒールファイトが性に合うなって思ってて。ただ『ベビーだからこうしよう』っていうのがなくて。ベビーでも人の顔踏むし、ガンガン蹴るし。でもヒールのときは『もうちょっと憎たらしい表現しよう』とかは思いますけど、そこまで意識はしていないです」

――デビューしてから数年キャリアを積んで、周りの選手との関係も変わったと思いますが、ライバルだと思う選手は
「誰だろ……いない(笑)女子でもなく男子でもなく、ホントにジェンダーレスっていうものを、自分の性別としているので、別として見ちゃうんですよね、男子も女子も。孤高の存在じゃなくちゃいけないなって思ってるので、ちょっと生意気なんですけど『朱崇花のライバルになる人はいない』というつもりでプロレスをしているので、ライバルはいないかも知れないですね」

――Regina戴冠の際も、あくまで高みを目指すために目の前の相手を倒してきただけという感覚でしょうか
「彩羽匠さんとかもすごく強いし、ホントにカッコイイし、きっとタイプというか、どちらかと言うと女性のファンが付きやすいじゃないですか、彩羽さんも朱崇花も。プロレスラーとしてライバル視はしてたのかも知れないですけど、ベルトは一番自分が似合うと思っているので『貴女にはこのベルト似合わないからやめといた方がいいよ』的な勢いで試合をしてました」

――ベルトを掲げるポーズもオリジナリティがあるものでした
「そうですね。とにかく他の人と一緒がすごく嫌で、色んな画像を見て研究して考えて、『これ被ってないな』っていうポーズを、腰に巻いたり肩にかけたりとかじゃなくて、女性らしいシルエットのポージングがないかなと思っていたときに思いついたポーズです。割とそういうのは気を遣っているつもりです」

――今はアイアンマン王者としてDDTレギュラー参戦が発表されていますが、今後はDDTを主戦場にされる?
「他にもレギュラーの団体さんがあるので平行になっていくと思うんですけど。ただアイアンマンのベルトも持っていて、どんどんベルト戦線行きたいなって思ってるので。とりあえずはDDTに上がっているときの目標は『男女関係なくぶっ倒す!』っていう感じなので、それこそこのアイアンマンのベルトだけじゃなくて、色んなベルトを狙っていきたいなと。中心というか、メインと言うまでは言いづらいんですけど……ハイ、上がっていきたいです!(笑)」

後編へ続く

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