11.1パンクラス271で徳留と第6代ライト級K.O.Pを争う北岡「言葉にしようとすれば色々あるけど、言葉にすると軽くなってしまうので言いたくない」
10月23日夕、都内世田谷区のLotus世田谷で北岡悟が公開練習を行なった。北岡は『PANCRASE 271』(11月1日、ディファ有明)に於いて、徳留一樹(パラエストラ八王子)と第6代ライト級キング・オブ・パンクラシストの座を争う。
北岡は2分2Rのシャドーを披露。1R目は軽めに、2R目はハイキックや補強の動きなども混ぜスピードを上げた。キレのある動きはほれぼれするほどだった。
「今日は何となくシャドーがしたかった。しっかりした動きをお見せするために指示を出してもらった。4年前にアメリカに行ったときのやり方と、DJ.Taikiに教わったことを取り入れている。ただダラダラやるのではなく、特にタックルとスプロールの動きを入れることによって効果的になる」と話す北岡がいま大事にしていることは「能動的に動くこと」だという。いかに積極的に自分の意思で動くか。指示と、その前後にやっていることをいかに繋げていくかを重視。北岡はこれを「本気シャドー」と呼び、緩めのシャドーのあとに入れて、ウォーミングアップや練習後の補強に取り入れているという。「本気シャドーでは、相手を思い浮かべるときもあるし、自分の動きだけを考えているときもある。今日は鏡を見ながら、しっかり自分の動きを確認した」と話した。この練習を、特に疲れがたまっている週末にやることが多いという。「疲れている時でも、いかに総合的に動くか、能動的に練習できるか。とても大事な練習です」と北岡は語った。
さて、今回の相手は徳留一樹だ。柔道をバックボーンとし、高校卒業後、総合格闘技を始めた。2010年パンクラスデビュー。2011年にはライト級王座挑戦者決定トーナメントにエントリー、惜しくも準優勝となったが、ファンに忘れられない激闘を演じた。その後UFCに参戦し、4戦1勝。2戦目ではファイト・オブ・ザ・ナイトに輝くなどインパクトを残したものの、リリースされている。今年3月にパンクラス復帰。児山佳宏、JJアンブローズを破ってのタイトルマッチ。再度のUFC挑戦を目指し、どうしても勝ちたいところだ。
徳留はLotusのプロ練習に参加しており、北岡とも共に汗を流していた。北岡は徳留という人選について「現状では、彼しかいなかった。JJアンブローズに勝っているし、久米(鷹介/ALIVE)選手は負傷中。他にこれはという選手はいないし、名乗りを上げる選手もいなかった。僕と闘おうという気鋭が存在しなかった」と話した。しかし、徳留に不足があるわけではない。「不服どころか、本当に日本でも指折りの選手だと思う。試合ぶりもいいし、パッと見でもそう思う。僕は見る目には自信ありますから。彼はリリースされてしまったけれど、今UFCに出ている選手より彼の方がいい選手だと思っている」と徳留を高く評価した。
パンクラス時代には巻くことが出来なかったシルバーのベルトのかかった試合。しかも、勝てばDEEPライト級のベルトを合わせ、前人未到の2団体ベルト同時保持者となる。イベントは消滅したが、09年には戦極ライト級王座にも就いており、3本目のベルトでもある。さらに言えば、この試合こそ、現在の日本のライト級最強を決める1戦でもある。北岡は「終わったときに(自分の)手が挙がれば何でもいいです。言葉にしようとすれば色々あるけど、言葉にすると軽くなってしまうので言いたくない。2つの団体のベルトということも…今は終わった後のことは考えられない。(レフェリーに)手を上げてもらうところまで走り切りたい」と明言を避けた。
「言葉にしたくないくらい大事な試合」。静かな眼差しと口調で高ぶることなく語る北岡の表情は、試合前とは思えないような穏やかなものだった。それがかえって、普段は口にしない古巣パンクラスへの愛を感じさせた。
前大会からタイトルマッチが5分5ラウンドに変更されたが、北岡は「自分がやれるだけやってきたことを甘くも見ていないし、過信もしていない。そのバランスが出ると思っている」と話す。北岡の闘い方を最長5ラウンド続けるには、かなりのスタミナが必要となる。しかし、微調整も行なっているし、自分に必要なサプリメントを自らブレンドしている。もともと、格闘技のために試合がないときでも厳しく節制している。コンディション調整は万全だ。
「出来ること、やれることは同じ人間なので、さほど変わらない。いい意味でも悪い意味でも人間なので、似たようなことしか出来ない。もちろん、大差がつくようにやってきてはいる。(大晦日の参戦に名乗りを上げているが)今の僕にとっては11月1日が全てなので、この日で今年が終わるくらいの気持ち。その後のことは、終わったときに考える」と言う北岡。試合のときにはいろいろな髪型をしてきたが、今回はアッサリした黒の短髪で、非常にナチュラルで肩に力が入っていない印象だ。北岡は「坊主が伸びただけなんですから、ナチュラルですよ」と笑う。そして、その笑顔で「僕の代わりはいない、そういう思いがある」と語った。これまでの経歴で、北岡はライト級日本ナンバーワン選手という地位を築いてきた。しかし、北岡が見せてきたのは「強さ」だけではなかったはずだ。現在の格闘技界で、勝負を超えたところで自分を表現できる選手は多くない。11月1日、北岡は何を伝え、表現するのか。ベルトの行方と共に注視したい。
【写真・文/佐佐木 澪】