女子プロレス“負けたら即引退”の決戦を前に中野たむが語った「プロレスラーになってやっと普通の人間になれた」の言葉

27日にスターダムが開催する横浜アリーナ大会では、女子プロレスの歴史に1つの大きな事件が刻まれることになる。
同大会のメインイベントでは上谷沙弥と中野たむというトップ選手2人が引退をかけて因縁の対決を行う。
上谷とたむの出会いは、たむが2018年にスターダムの姉妹団体として旗揚げした『スターダム★アイドルズ』で上谷がアイドルズの1人としてプロレスデビューしたことに遡る。
上谷が練習生からやり直してスターダムからデビューした後には、上谷とたむは節目節目でシングルマッチを実施。2021年12月には白いベルトをかけての闘いで上谷がたむを破って師匠超えを果たし、その後は良きライバルとしてしのぎを削ってきた。
2人は2023年7月にシングルリーグ戦『5★STAR GP 2023』開幕戦でも対戦したが、その際に上谷が照明用鉄柱によじ登って高高度からのダイブを敢行。これで上谷が左ヒジを脱臼して長期離脱。優勝候補筆頭として期待されていた中で開幕戦からリーグに大穴を空ける形となった上谷はメインストリームから外れてしまう。
約4ヶ月後に元気に復帰した上谷であったが、このときの心の傷は大きく残っていた様子。その後に自身のユニット【Queens Quest】の事実上の崩壊、ファンからの誹謗中傷問題などもあり、さらに心の傷を広げた上谷は闇堕ち。刀羅ナツコ率いる悪の軍団【H.A.T.E.】に加入し、秘め続けてきた狂気を存分に振りまいている。
その後、上谷は『5★STAR GP 2023』の件を持ち出して「あの日からお前にプロレス人生狂わされたんだよ。今度はお返しに、私がお前の大切なものを全部奪ってやる」と当時赤いベルトの王者であったたむへ憎悪の矛先を向ける。
昨年12月の両国国技館大会でたむから赤いベルトを奪った上谷であったが、たむへの恨みはまだまだ尽きない。過激になっていく煽り合いは、両者の『敗者スターダム退団マッチ』が行われるまでに発展していった。
この試合は今月3日の後楽園ホール大会で行われ、上谷が勝利。これで因縁は決着するかと思われたが、上谷は「本気で退団する気だった?次は何を賭ける?」というこの試合の意義を根底からひっくり返す再戦要求マイクで観衆の度肝を抜く。
これを受けたたむは「もうどうなってもいい!全て失ってもいい!アンタを倒すチャンスが得られるなら、全部捧げてもいい!引退をかける!」と最後の切り札を叩きつける。すると上谷も「お前が引退をかけるなら、私だって引退をかける!そして、赤いベルトも!」と宣言。両者負けたら即引退のラストダンスは、4月27日の横浜アリーナ大会で行われることに決定した。
幾度も行われてきた前哨戦もこれで最後。メインイベントでは中野たむ&スターライト・キッドvs上谷沙弥&AZMのタッグマッチが実施。これはたむ&上谷の赤いベルトの前哨戦であると同時に、横アリで白いベルトを争うキッド&AZMの前哨戦でもあった。
試合はキッドとAZMの対面に始まり、かつての2人のハイスピードバトルを思わせる目まぐるしい攻防を展開。手数で勝るAZMはグラウンドでの腕攻めで支配していくが、キッドもカウンターの低空ドロップキックをヒザにぶち込んで得意の足攻めを狙うなど一歩も引かず。
たむと上谷は互いが歩んできた歴史を辿るかのようなじっくりとしたレスリングを繰り広げていくが、これをH.A.T.E.の面々が妨害。上谷がたむを観客席へ叩き込んだり、執拗に顔面を踏みつけたりと痛みとともに屈辱を与えていく。
たむと上谷は互いに雄叫びを上げながらのエルボー合戦を展開。上谷はたむのバイオレット・シューティングを上谷がキャッチして変形ノーザンライト・スープレックス・ホールドを決め、スター・クラッシャーを狙うもこれを逃れたたむがデスティニーハンマー。
上谷のスワンダイブ式プランチャをたむ&キッドが同時に回避し、キッドがAZMに タイガー・スープレックス・ホールドを見舞う競演。
試合時間が残り1分となる中でたむが上谷にバイオレット・スクリュー・ドライバーを狙うが、上谷がぶっこ抜いてスター・クラッシャー。互いに得意とするスピンキックを打ち合う中で20分フルタイムドローを告げるゴングが鳴った。
マイクを取った上谷は「中野たむ、お前の全てを奪うのはこの私しかいない。4・27横浜アリーナはお前の隅々まで食い尽くしてやるよ!」と咆哮。
対するたむも「4・27、アンタと私、どっちかがこの世界から完全にいなくなるんだ。最高の気分じゃない?私はもう覚悟はできてる。上谷沙弥の十字架を背負う覚悟ができている!アンタにすべてを奪わせない」と切り返し、赤いベルトを挟んで睨み合った。
試合を終えたたむは「恥ずかしながら、たむは生まれてこの方友達がいなくて、中々心の通じ合う仲間もいなくて。小さい頃にバレリーナになりたかったけどなれなくて、ミュージカルの夢もダメで、アイドルになりたくても成功しなくて。やっとプロレスに出会えて沢山の夢を叶えてこられました。今は大切なコズエンの仲間が出来て、家族より家族みたいに大切で心が通じあえて、毎日ファンの皆さんの声が、応援が届いていつも『1人じゃない』って思えます。プロレスラーになってたむはやっと普通の人間になれた気がしてます。今が一番幸せです。すごくしんどくてプレッシャーとかもたくさんあるけど、今が人生で一番幸せだって本当に胸を張って言えます。私に生きる希望をくれたプロレスだから、私も誰かの希望になれるプロレスラーでいたい。この大切なスターダムという場所をこれからも私が守りたい。この幸せをなくしたくない。すべてをかけて文字通り闘うから、皆さん私に勇気をください。私も私を信じたい。どうか信じさせてください」と思い詰めた様子で語った。
泣いても笑っても、上谷とたむのどちらかが4月27日の横浜アリーナ大会で引退する。