日本格闘技史上最速バトルは、那須川天心が堀口恭司に判定勝利!那須川は「やっと日常に戻れる」と安堵
9月30日、さいたまスーパーアリーナ「RIZIN.13」でおこなわれた「最強」対決、那須川天心対堀口恭司は那須川天心が3-0の判定で勝利を収めた。
日本格闘技史上「最速」バトルだった。堀口が独特のステップから鋭く踏み込んでパンチを打ち込めば、那須川はブロックしつつ蹴りやパンチを返す。互いに殺傷能力の高い攻撃力を誇るものの、目の良さと防御勘の良さも互いに持ち合わせている。だから、攻撃がクリーンヒットしない。那須川が堀口の始動を察知し、堀口のパンチを防御しつつ蹴りを返すが、堀口も那須川の攻撃が見えているだけにステップで避けてしまう。
互いに思い切り攻め合うが、まともに相手に当てることが出来ない。二人の攻防は、まるで映画のアクションシーンを見ているようで、こんなことが実際の格闘技のリングに起きてしまうとは想像もしていなかった。
天才と天才が交わると、こんなに次々と、今まで見たことのない凄まじいハイスピードバトルになるのか。まさに新時代の到来を感じた。
どんな試合になるのかは、やってみなければ分からない。それが二人の本音だったと思う。なぜなら二人は「唯一無二」の存在だからだ。
那須川と親交の深い、あるプロ選手はこう証言する。
「天心の速さは特別で、初めてスパーリングした時はびっくりしました。だから、天心と試合するのは大変ですよ。あんなに速い選手はいないから『仮想天心』が出来ないんです。実際に試合した選手は『こんなに速いなんて!』と驚いているうちに倒されてしまうんですよ」
今回、堀口は「いつものMMAスタイルでいく」と話していたが、こと「仮想天心」に関しては「実際にやってみないと分からない」という部分が多かっただろう。
だが、那須川にとっても同じことが言える。
堀口は特別すぎて「仮想堀口」の練習が出来ない。
総合格闘家は、キックボクサーと比べて距離が遠い。だが堀口は一般の総合格闘家よりもさらに遠く、そこから一気にドン、と詰めてくる。
いみじくも、2014年大みそかに山本KID徳郁さんとK-1ルールで戦い、1ラウンドにダウンを取られたことのある魔裟斗さんが「KIDは遠くから一気に入ってくる。堀口君も似てますね」と話していたが、堀口は伝統派空手と師匠KID譲りのステップワークで、世界で最も遠い距離から飛び込んでくる選手。
那須川がどんなに総合格闘家や伝統派空手の選手と練習し、シミュレーションをしたところで、堀口の「飛び込み」だけは実際に体感してみなければ分からなかっただろう。
試合は、前述した通りに驚きの連続だったが、それは主に堀口の戦い方によるところが大きい。堀口はもっとステップを使い、距離を詰めたい那須川が追いかける展開を予想したが、意外にも堀口は最初からキックの距離に立ち、逆に那須川にプレッシャーを掛けて攻撃を仕掛けた。
不運な金的のダメージはあっただろう(堀口はスタンスが広く、重心が低い上にローをカットしないので、那須川のインローがちょうど当たってしまう。まさに魔裟斗対KIDと同じことが起きた)。加えて、キックルールマッチ初挑戦だから、どうしても3ラウンドには疲れが出てしまった。那須川の胴廻し回転蹴りを側頭部に喰らい、パンチで追撃されたところへの左ミドル3連打。
この攻防で勝負は決まったが、キックルール初挑戦で、那須川相手にここまで競った試合をやってのけた堀口は、かえって株を上げたと思う。
試合後、那須川はほっとした表情を見せた。本業のキックルールだけに、絶対に勝たなくてはいけない試合で相当なプレッシャーがあったことも告白。
「これでやっと日常に戻れます」
那須川もまた貴重な経験を積み、格闘家としてもう一段、階段を上がったことだろう。
(スポーツライター茂田浩司)