『あれ見てこれ読んであそこ言ってきた』#5

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プロレス会場に取材に行く楽しみのひとつに、先輩記者の方たちの雑談に加えていただくというのがあります。特に全日本プロレスの場合は和田京平さんもその場に加わることがあり、現在のマット情勢だけでなく、昭和の名選手たちの素顔や名勝負の舞台裏などの話に及ぶことも。これらが活字として表に出ないのを残念に思いつつ、ファンとして楽しませてもらっているわけですね。

今回紹介する”熱血プロレスティーチャー”こと小佐野景浩さんの『プロレス秘史1972-1999』は、小佐野さんがファンとしてプロレスに接していた時代から報道する立場で見守っていた時代の名勝負を時系列順に紹介していく連載を単行本としてまとめた本です。
こうして名勝負とその時代背景を並べることで一大歴史絵巻となるのがプロレスの特殊性でもあるし、今ではこれらの試合映像も動画サイトなどを駆使すればあらかた確認できるということにも時代の趨勢を感じます。
小佐野さん自身もそれを意識していたのでしょう。例えば鶴田さんと天龍さんの試合ではプロレス大賞で年間最高試合賞を受けた試合ではなく、SWSへの移籍に伴い最後の対戦となった試合をチョイスするといった配慮もなされています。

この本を読んで改めて感じたのは、新日本プロレスと全日本プロレスがある意味では試合内容以上にビッグカードや企画のアイディアで対抗していったこと。そしてスーパーカードと言える大一番がほんの数カ月の間に開催されていたことです。
例えば新日本プロレスが1972年3月の旗上げ戦で猪木さんが古豪・カール・ゴッチと対戦すれば、全日本プロレスは同年10月の旗上げシリーズで馬場さんの対戦相手にアメリカではバリバリのトップスターであったブルーノ・サンマルチノとのシングルマッチを組んでいます。
また1974年の3月、4月、10月に猪木さんがストロング小林、坂口征二、大木金太郎といった日本人トップレスラーと次々と対戦すると、全日本プロレスでは12月に馬場さんが日本人では初のNWA世界王座戴冠を果たします。
その後も猪木さんは1976年の2月にオリンピック金メダリストのウイリエム・ルスカと戦ったその同年6月にはモハメド・アリと戦い、馬場さんも前年に猪木さんが勝てなかったビル・ロビンソンを相手に文句なしのピンフォール勝利を収めるなどと、お互いの意地が日本プロレス史をより彩ってきたのだと言えるでしょう。
『152+1の名勝負で振り返るレスラー群像劇
猪木の独立から馬場死去まで』とこの本の帯に書かれていますが、ジャイアント馬場対アントニオ猪木の構図こそが昭和のプロレスそのものだったのかもしれませんね。

続いて全日本プロレス社長である秋山準選手による『巨星を継ぐもの』。タイトルはジェイムズ・P・ホーガンのSF小説の『星を継ぐもの』からのインスパイアですが、まさに巨星である馬場さんの後を継いで全日本プロレスの社長としてのさまざまなエピソードがインタビュー形式でつづられています。
ところで・・・全日本プロレスで一時オーナー職を務めていた白石伸生さんを覚えていますか?自分が白石オーナーとの接触で思い出せるのは、名刺をお渡しした時にポケットに片手を突っ込んだまま片手で受け取られ、「あ、そういう人なのね」と思ったのと、会場で「オーナーの考えているガチンコ・プロレスはこれまでの試合ではなかったものなのですか?」と聞いたことです。
その答えは「三沢対小橋とか武藤対高田とか」というものだったので、ガチンコの意味合いがオーナーとマスコミやファンの間でかなりのかい離があったのだなぁと。

この本では秋山選手も苦笑まじりにオーナーのキテレツなエピソードを披露しながら、全日本プロレスを救ってくれたことへの感謝と、かなり遅れながらも選手たちと約束したファイトマネーはきちんと払ってもらえたことが語られています。
もちろんリング外だけでなく、プロレスそのものについても語られています。いま全日本プロレスの選手たちが先輩レスラーたちには張り手をしていないのをご存じでしょうか?これは先輩に対して失礼だからということでなく、簡単にお客さんに受ける方法を選ぶことを禁じているからなのだそうです。
デビュー戦のすばらしさから天才レスラーとも呼ばれた秋山選手ですが、とにかく全日本プロレス時代にはプロレスについてのあらゆることを考え続け、試合会場に行くのも嫌な時があったとか。試合をすること自体が嫌なのではなく、また考えないといけないのがしんどいからというのが理由だったそうです。
ジェイク選手たちの新ユニットが動き始めた時に、秋山選手がツイッターで贈った言葉は「このユニットでどれだけ存在感を出せるか楽しみだ。いろいろ考えないといけないぞ。寝る間も惜しんでな。」というもの。この本を読むと、その言葉の重さにますます実感が伴います。

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