【インタビュー】TAJIRIが自身の著書『プロレスラーは観客に何を見せているのか』の見どころを解説し新日本プロレス東京ドーム大会を総括!「楽しいプロレス、クレームの来ないプロレス、嫌われない悪役。そんなプロレスばかりになればいつか世の中から消滅する」
今、1冊のプロレス本が話題を呼んでいる。プロレスラー、TAJIRIの新刊「プロレスラーは観客に何を見せているのか」(草思社)。
25年間のプロレス生活で、世界各国のメジャーからインディまであらゆるリングに上がり、裏方としても制作やプロデュース、新人育成に携わり、プロレス界の裏も表も知り尽くしたTAJIRIが「現時点でのプロレス論」として上梓した1冊。昨年12月に発売されると各書店で軒並み品切れ状態となり、発売6日目に重版が決定した。
その矢先「TAJIRIの本」に対する注目度がさらに高まる“事件”が起きた。
1月5日の新日本プロレスにおいて、内藤哲也が史上初のIWGPヘビー級&IWGPインターコンチネンタルの2冠王に輝くと、突如乱入したKENTAが内藤を襲撃。ドーム2連戦がまさかの「悪夢のバッドエンド」で幕を閉じた。
プロレスファンが騒然とする中、SNS上では「TAJIRIの本を読んでいたから、納得できた」や「TAJIRIの本はKENTAの行動を予言していた」といった感想が多く見られ、Amazonの順位は急上昇。ドーム周辺の書店では軒並み完売という事態となった。
TAJIRI自身、SNSで「どこもなかなか超えられなかった堅い堅い壁をひとつ壊した」とKENTAを絶賛。すると、ファンによるKENTA批判がTAJIRIに飛び火する現象も起きている。
早速、渦中のTAJIRIを直撃した。
――新日本プロレスのドーム2連戦がKENTA乱入で悪夢のバッドエンド。これをTAJIRI選手は「壁をひとつ壊した」と絶賛されましたがその理由は?
「ここ数年、日本のプロレス界は『楽しいプロレス』『クレームの来ないプロレス』ばかりになり、お客さんも『プロレスを楽しんで、笑顔で帰ること』が当たり前になっているように僕には見えていました。だけど、本来のプロレスはバッドエンドだってありますし、いろんな形があるはず。なのに、団体側も『ハッピーエンドでお客さんを気持ち良く帰すこと』からは外れることを恐れていましたし、まして刺激的なエンディングで『ファンを本気にさせること』にはビビッているように僕は感じていました。でも、今回の新日本プロレスさんではKENTA選手が乱入して『祝福ムード』をぶち壊したことで、ファンは本気になって怒り、本気でブーイングしましたよね。これはすごいことだなと思いました」
――KENTA乱入で混乱に陥ったプロレスファンが、TAJIRI選手の本を読んで「KENTAの行動が理解できた」や「あの結末を予言していた本」とSNSでつぶやき、本の評判を上げていますね。これはなぜだと思いますか?
「いや、正直、そうした反応になるなんて予想していませんでした。というのも、話題になっている箇所はプロレスファンではなく、むしろ団体側に『楽しいプロレスばかりになってしまっていいんですか?』『プロレスはもっと奥深いものですよね?』と提言したいと思って書いたんです。だから、SNSでファンの反応を見て『みんな、薄々気づいていたんだな』と思いましたね。やはり大人になると『無難な、万人向けのファミレス』ばかりだと飽きてしまうと思うんですよ。たまには、ものすごくニガいものや辛いものだって食べたくなるものです。今回のKENTA選手への賛否両論が真っ二つに分かれた反応を見ても、僕は『みんな、これまでの楽しいプロレスに飽きてきていたんだな』と感じましたね」
――ところで、TAJIRI選手が「プロレスラーは観客に何を見せているのか」を書こうと思った動機は何ですか?
「プロレス界で25年間生きてきて、いろんなプロレスを見てきたので『現時点で考えているプロレス論』をまとめておきたいということですね。その中の1つには、先ほども話した『団体側への疑問』と、今の日本のプロレスに対する強い危機感がありました。本にも書きましたが『このままではプロレスというジャンルは衰退して、世の中から消えて無くなるのではないか?』という思いが僕にはあるんです。詳しくは本に書きましたので、ぜひ読んでください」
――発売3週間で3刷と売り上げ好調ですが、予想できていましたか?
「『どのぐらい売れる』とかは一切考えてなかったですし、どちらかといえば『全然売れないかもしれないな』と思っていました。『このままだとプロレスというジャンルが消滅するのではないか?』なんて考えている僕は、絶滅寸前の少数派で『TAJIRIは何をごちゃごちゃ考えてるんだ? 楽しければいいじゃん!』とまったく見向きもされないんじゃないか、と(苦笑)。だから、本に対する反響の大きさや、今回のKENTA選手の件でも思ったんですけど『プロレスの奥深さをもっと知りたい』『プロレスからもっといろんな刺激を受けたい』と思ってる人は、僕が想像していた以上に多かったんですね。裏を返せば、団体側がもっといろんな話題を提供したり、世界中のいろんなレスラーを招聘して、いろんなプロレスを見せていけば、プロレス界はもっともっと盛り上がるんじゃないか、と思いますよ」
――著書の中で「ここはぜひ読んでほしい」というポイントは?
「全部読んでほしいですけど、あえて挙げるならプロデュース論ですね。正直、この部分は日本のプロレス界が長年抱えている『課題』だと思いますし、逆にプロデュースの仕方を変えて、もっと選手の個性を引き出して光らせていけば、プロレス界はもっと盛り上がるんじゃないかと思いますから」
――最後に、今年のTAJIRIさんはどんな活動をしていくのですか?
「ありがたいことに、現在、国内外からいろんなオファーをいただいているので検討しているところなんです。この本のことでいえば、ぜひ英訳本を出したいです。今も世界のいろんな国から試合や指導のオファーをいただいているんですけど、現地に行ってみると『キャラクター論やプロデュースの話を詳しく聞きたいからTAJIRIを呼んだ』ということも多いです。だから、この本に書いてある内容を『知りたい』という世界中のプロレス関係者やプロレスラー、プロレスファンは多いと思うんですよ。ぜひ英訳本を出したいので『英訳して出版したい』という会社があれば、ぜひ草思社さんあてにご連絡ください」
(著者紹介)
TAJIRI 1970年生まれ。1994年、IWAジャパンでデビュー。大日本プロレスを経てメキシコやアメリカで経験を積んだ後、2001年から5年間、世界最大のプロレス団体「WWE」で「日本人メジャーリーガー」として活躍。帰国後は、ハッスル(選手兼制作メンバー)を経て、SMASHとWNCでは選手兼プロデューサーとして団体を率い、KUSHIDA(現WWE)や朱里、黒潮イケメン二郎らを育てた。現在は国内外の様々なリングで活動中。