PANCRASE307でフライ級暫定王者決定戦を行う翔兵と上田将竜が調印式に出席!2年ぶりの再戦の2人は団体への愛と誇りを語り「僕はPANCRASEのベルトを獲るために格闘技を続けて来ました」
7月4日午後、都内新宿区のパンクラスで、フライ級暫定王者決定戦の調印式があった。この試合は『PANCRASE 307』(7月21日、新木場スタジオコースト)で行われ、翔兵(升水組/1位)と上田将竜(緒方道場/2位)が激突する。
現在、フライ級王者は仙三だが、怪我のため、防衛戦のめどがつかない状態。そのため、暫定王者決定戦を行うこととなった。
翔兵と上田の対戦は2回目。前戦は2017年2月で、翔兵が判定勝ちを収めている。実は、この試合の勝敗が決した直後、2人はケージ上で「またやろう」と約束していたという。
今回、その約束がタイトルマッチという最高の形で実現した。二度目は果たして、どちらに軍配が上がるのか。両選手との質疑応答は以下。
――先ずは意気込みをお願いします。
上田「一度負けて、それ以降も翔兵選手の試合はずっと応援していました。でも、いつかもう一度闘いたい、できればそれがタイトルマッチ、一番上の試合でやりたいと思っていたので、こうして実現して嬉しいです。
一度負けているのでリベンジして、地方からやって来た身として、地方でもできるということを証明したいと思います。翔兵選手もすごい気持ちでケージに上がると思います。自分も全て出せるよう、熱い、感動を残せるような試合がしたいです」
翔兵「実は(前回の)試合後、ケージ上で『もう1回やろう』と言ったんです。僕が一番、相手に求めるのが、辞めないでいてもらいたいということ。この時点で『こいつに勝てない』と思ってほしくない。もちろん、仲良しクラブじゃないのは分かっていますけど、僕はパンクラスで闘う選手は仲間だと思っています。だから、上田君が頑張ってくれると励みになるんですよね。その相手に勝てないと言われたら、モチベーションが下がってしまいます。だから、今回、(ケージでした)約束を守ってくれて嬉しいです。
いいやつなんですよ。僕の試合の時は必ず来てくれて、頑張れと言ってくれる。SNSでも繋がっていますけど、しょっちゅう連絡を取っているわけではなくて、親しいですけどライバル関係でもある。いつも一緒にいるような友達ではないけど、切磋琢磨していくライバル。そういう存在がいることは、すごく嬉しいです。
上田君に対する対策は、もうこの年明けからしていました。多分やることになるだろうなと分かっていたので、ライリー(・ドゥトロ/今年3月、判定勝ち)の対策をしながら、同時に上田君への対策もしていました。2人とも身長が同じくらいですし、練習は並行してできました。準備は万全です」
――前戦から約2年半経ちました。今回の試合に関して、前戦は参考になるでしょうか。
上田「あの試合のとき、自分は自分自身に負けてしまいました。一発食らって、そういう経験をしたのは初めてだったので、動揺して動けなくなってしまったんです。それが悔しくて悔しくて。その悔しさを晴らすには、同じ選手に勝つしかない。
翔兵選手の試合はいろいろ見ましたが、すごく強くなっていると思います。あの頃とは違います。ライリー戦のとき、大方の予想はライリーだったと思うんですけど、僕はめっちゃ翔兵選手を応援していました。それは、自分がリベンジしたいから。またやろうと約束もしましたし、もちろん勝ってくれると思っていて、だから翔兵選手が勝ったとき、よっしゃ、キター! と思いました。
一度負けていますから、怖さはありますけど、ワクワク、ドキドキもありますし、この試合が決まったときは『やっと来たか』と。やっとリベンジできる、怖いけど楽しみ、というのが大きかったです。
……というわけなので(笑)、前戦は参考にならないです」
翔兵「前回はもう2年以上前になるんですね。自分の試合を自分でも見ましたけど、相手がどうこう以前に自分が全然違うんです。これが同じ自分か? というくらい。戦術も違っているので、参考にはできないですね。次は上田君も腹を決めて出てくるでしょうし。
どちらかというと、僕は、相手のクセは読むけど、それをそのまま試合に持って行かないんですよ。頭の片隅に置いておくだけの参考程度なんです。試合の時は、細かく計算していますけど、試合では何が起こるか分かりませんから、フラットな状況にいないといけない。それは練習のときから心がけていることです。だから、前戦を参考にできるかというと、参考にはするけど鵜呑みにはしない、頼らないということですね。1つの情報として置いておくだけです」
――上田選手、前戦(昨年12月)の小川徹戦では、ハイキックでKOという劇的な結末でした。こういった勝ち方は、ここ何戦かでもなかったことですが、メンタル的な面では、何か変化があったのでしょうか。
上田「小川選手とは2回目の対戦(初戦は2017年8月)で。1Rが終わって2Rに入ったとき、相手を見たんですよ。最初はパンチを打っていたので見過ぎていましたが、だんだん自分の打撃が入るようになって来ました。そこで、もし突っ込んで行ってKOされたら、それはそれでいい、という気持ちになったんです。セコンドの声もよく聞こえていましたし、覚悟を決められました。
それから、娘が生まれたんですよ。初めての子供で。練習から帰って子供の顔を見ると、『強いパパ』を見せたい、絶対に勝ちたいという気持ちになるんです。そういう、今までになかった心境で闘えた試合でしたね。娘も少し大きくなって、今回は初めて会場に来るので、覚悟を決めて、今回も熱い試合をしたいです」
――翔兵選手、ドゥトロは修斗の世界1位という鳴り物入りでパンクラスに参戦したわけですが、そういう相手と闘って、プラスになったことはどんなことですか?
翔兵「あります、まだ種明かしは出来ませんけど、すごくありますね。身長の高い相手の攻略法にはかなり自信があります。ライリーと闘った選手が、距離の勝負をして負けた理由がわかります。僕は身長が低いですし、リーチも短いので、近い距離はいいけど、遠かったら届きません。でも、僕には僕だけの理論があって、自分はいけるというのが明確に分かりました。やろうと思ってみんなが出来ることではないんですけど、僕は出来ます。
今回も、上田君の身長が高いというよりは、僕が低いだけなんですよ。一般的な身長の人の方が多いので、どちらかといえば、僕より相手の方が大変だと思います。そういう意味でも、僕の方が練習相手に恵まれています。
身長が低い選手の、高い選手の攻略法はまだ出回っていないので、ここでは言えません。試合で見せます」
――パンクラスのベルトを獲ったら、その先のことは考えていますか?
上田「最初はパンクラスのベルトを目標にやって来たんですけど、ONEとかだんだん出て来て、見ているとすごいなあと思って。今まででは考えられないようなことも起こり得るなと思うようになりました。自分はこのベルトだけに懸けて来たので、まずしっかり獲りたいです。
もし獲れたら、どうなるかは分からないです。もしかしたら燃え尽きるかも知れません。もっと上を見るかも知れません。とりあえず、この一戦に全てを懸けて闘います」
翔兵「今は、すでに次のことも考えています。僕は1つ先のことも常に考えてやっていますから。今回、どんな結果になるかは100%明確です。もちろん試合は何があるかわかりませんから約束はできませんけど、良い結果になる可能性が高いと思っています。いつも死ぬ気でやっています。当日も死ぬ気でやろうと思います。それだけです」
――お2人とも、パンクラスという団体に対する気持ちを強く持っている選手だと思います。改めて、パンクラスに対しての思いをお聞かせください。
上田「自分は地方でやって来て、地方大会もそんなになくて、新人王とかでもないなら関東には呼ばれない、東京ではやれないと言われて来ました。それを聞いたとき、本当にそうなるのかなと思いました。だから、関東で使いたいと思われる選手になりたいと思っていたんです。
そんなとき、知人を通じてパンクラスに上がることができました。そこでNBTで優勝(2013年)して、意地でもランキングに入って、『呼ばなくてはいけない選手』になろうと思いました。
それが本当になったと思ったのは、リルデシ(・リマ・ディアス/2015年11月)戦で、福岡VSブラジルというのは、すごく夢があることじゃないかと思いました。遠いから呼ぶのにお金もかかるわけですし、団体としてはあまりメリットがないカード。でも組んでもらえたとき、自分は自分が目指していた選手になれたと思いました。パンクラスには感謝しかありませんでした。
それから、ベルトへの思いが強くなりました。地元の若い選手たちの刺激になりたいですし、夢を見せてもやりたい。いろんな格闘技団体がありますけど、自分は地方からやって来た人間として、このパンクラスのチャンピオンになりたいです。いろいろ気づかせてもらいましたし、すごく感謝しています。この試合でしっかり恩返しをしたいです」
翔兵「僕も上田君の言ったこと、すごく分かります。僕はパンクラスにしか出たことがないことを、すごく誇りに思っています。アマチュアでもパンクラスで、P’sLABでのJMLがスタートでした。ヘッドギアをかぶってね。
初めてパンクラス本大会に出たのは、横浜文化体育館の、リング最後の興行(2014年3月、小野“名人”浩戦)でした。そのとき、パンクラスのスタッフの人とも初めて会って、だんだん付き合いが長くなるうちに愛着がすごく出て来て。仲間じゃないとは分かっていますけど、この人たちがいなければ、僕らの試合はないわけですから。そういう中で、パンクラス自体が好きになって行きました。
僕にとって、パンクラスが何なのかと言われたらよく分からないけど、スタッフの人たちも、ファンの人たちも、記者の人も、会場も、皆さんがすごく好きです。そういうのを『パンクラス愛』っていうんじゃないかなと思います。だから、パンクラスのベルトは、パンクラス愛が強い人に巻いてほしい。格闘技は個人競技ですし、自分のことだけ考えていてもいいのかも知れないけれど、でも、このベルトは、それよりももっと広い視野を持てる人がを巻くべきだと思います。
パンクラスに対する思いは変わりませんし、このベルトを世界一にするべくやって行きます。パンクラスが続く限り、パンクラスを愛しています」
――お2人とも、パンクラスに対して強い愛を持っていらっしゃる。ということは、もし仮によその大会に参戦することになっても、「パンクラス」を背負って闘ってくれますか。
上田「間違いないです」
翔兵「もちろんです」
上田「翔兵選手もそうだと思うんですけど、パンクラスに上がっている選手に対しては、仲間意識があるんですよ。その選手が他団体で負けたら、すごく悔しいです。何やっとんじゃボケ、みたいな気持ちになります」
翔兵「うん。(パンクラスに上がっている)俺らも弱いということになりますからね。そこまで考えてやっているのかと問いたいです」
――今、ベルトが目の前にあります。間近に見て、どんなお気持ちでしょうか。
上田「実際にこんなに近くで見て、初めに思ったのは『やっとここまでこられた』ということでした。今までずっと、勝ってはいいところで負け、また勝ってはいいところで負けて、を繰り返して来ました。やっぱり地方じゃダメなのかと、何度か諦めかけたこともありました。
でも、ずっと続けて来られたのは、格闘技が好きだという気持ちです。格闘技をやっていない自分なんて考えられない。その中で、ずっとこのベルトを目指してやって来て、ここまで来たからには、自分のものにしたいです。今、モチベーションがすごく上がっています」
翔兵「僕も同じ気持ちです。僕も遠回りしてしまったので。2連敗してしまいました(2017年4月・春日井健士、同年10月・若松佑弥)。でも、今だから言えるんですけど、あの時負けてよかったです。2人には違う形でやられました。でも、どうして続けて来られたかというと、僕も格闘技が好きだからです。
そして、最終目標がこのベルトでした。上田君もそうだろうと思いますが、ONEとか関係ないです。僕は、パンクラスのベルトを獲るために格闘技を続けて来ました。
でも、目標を変えたんです。どうしてかというと、近づくと張力が弱くなってくるというか……もう手が届きそうなところまでくるとダメになる。柔道時代も、全国大会で1位を目指していても2位止まりだったり、オリンピックを目指していても選考会に落ちたり。だから、いま目の前にあるものを最終目標にするんじゃなくて、もうひとつ先を見据えた目標を立てないとダメだと思ったからです。
今は、その『目標』が何かは言いませんけど、4ヶ月前に修正しました。パンクラスのベルトは獲って当たり前だと思っています。それは、佐藤将光君(修斗世界バンタム級王者)との練習が大きかったです。彼はとても緻密なので、僕の荒さやフィジカル面、極めなど細かいところを丁寧に修正してくれました。それで、自分は(ベルトを)獲れると分かったんです。だから、目標を変えました。だから、もう獲っているつもりでいます。試合では、いつも通りもことをやって、獲るべくして獲りたいです」
揃ってスーツに身を包んだ翔兵と上田は、前戦から心を通わせて来た。決してベタベタした関係ではない。普段から連絡を取り合っているわけでもないが、常にお互いの動向を気にし、成長を確かめ合って来た。そして、一番大きいのは格闘技、そしてパンクラスへの思いだろう。
様々な格闘技団体が林立する中、パンクラスを選び、パンクラスで闘い、そしてパンクラスへの思いを深めて来た。その「パンクラス愛」は、いわゆる旗揚げ時代の「パンクラス愛」とは少し違う。ケージ時代の、新世代の「パンクラス愛」だ。
いまパンクラスに上がっている選手の中では、パンクラスのベルトを巻くことが最終目標ではなくなって来ている。一団体のベルトを、ステップとして見ている選手も少なくない。もちろん、パンクラスがそれを許容している以上、それは全く悪いことではなく、何の問題もない。だが……一抹の寂しさを覚えるのも正直なところだ。
しかし、翔兵も上田も、心はパンクラスにあるという。2人の新たな目標がどこにあるのかは現時点では分からないが、どこに上がってもパンクラスを背負って闘うと、異口同音に語った。「やっぱりホームが一番だ」と、旅行から帰って来た人が思うように。
同じ思いを抱いた者同士の対戦は、前戦以上に、そして2人のキャリアの中でも最も熱く激しい闘いになるだろう。果たして、ベルトを巻くのはどちらなのか。見届けないわけにはいかない。
(写真・文/佐佐木 澪)