OZAWAはなぜNOAHの“絶景”を創り出せたのか。ファンの不満を代弁するダークヒーローが魅せる現実を超えた“リアリティ”
- 2025-3-26
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プロレスリングNOAHが誇るGHCヘビー級王者・OZAWAがNOAHの“絶景”を創り出している。
OZAWAこと小澤大嗣は社会人プロレスを経てNOAHに入門し2022年9月にデビュー。2024年1月に海外遠征に出て10月に凱旋帰国を果たした。
本来ならば清宮海斗と結託するはずであったが、紆余曲折の末に裏切って敵対。ヨシ・タツ率いる悪の反体制軍団【TEAM 2000 X】へと加入し、清宮やNOAHに関する数多の暴露を行い始めて業界は騒然。今年1月の日本武道館大会では清宮を制してGHCヘビー級王座を戴冠。デビュー最短記録を更新しての戴冠劇やその規格外な試合ぶりや強烈なキャラクターはプロレス界に衝撃を生んだ。
OZAWAの魅力はプロレスが持つ虚実皮膜の極地を突っ走っているところにある。
OZAWAの告発のベースにあるのは、“NOAH道場の闇”という概念だ。
その内容は、25年の歴史の中で18選手しかデビュー出来ていないNOAH道場の構造に問題があり、それに付随して丸藤正道、杉浦貴、マサ北宮、清宮海斗といった“体制側”の責を問うというもの。
この“NOAH道場の闇”の被害者を自称しながら叫ぶ言葉には異様な説得力があり、SNS等の短文からも感じられる確かな知性と教養がそれを補強。ファンがNOAHに対して長年抱えていたであろう不満点を代弁し、それを自らの手で解決していく姿はまさにダークヒーローと言える。
OZAWAがGHCヘビー級王座戴冠を果たしてからのNOAHは集客・話題性ともに絶好調であり、その絶大な支持がうかがえる。“NOAH道場の闇”の真偽自体は問題ではなく、OZAWAが持つ言葉の力にファンが突き動かされている。
22日の後楽園ホール大会では、OZAWAがマサ北宮を相手に3度目の防衛戦に臨むことになった。
北宮は挑戦表明の際に「NOAHの道場に闇なんてもんはねーんだよ。NOAHの道場は厳しい。デビューを満たす水準は下げられない。それだけだ。お前だって死に物狂いで食らいついてデビューを掴み取ったんだから、それくらい分かるだろ?」とOZAWAをたしなめた。
だが、OZAWAは他団体の若手を重宝してトップ戦線に絡ませる中で自身を干していた恨み節を語り「選手会長としてなにもしてこなかったくせに、今さらこのGHCのチャンピオンになったところで一体何が出来るんだ?」と北宮の選手会長&スカウティング部長としての手腕を批判。
その後、OZAWAは練習生時代に道場で受けたハラスメントのトラウマで北宮の姿を見ると反射的に基礎トレーニングをするよう洗脳されたと告白。「練習生時代に酷い仕打ちをされた」という経験談は、北宮が本当にそれを行ったかどうかはさておき、有り得そうで納得してしまう話だ。

ゴングが鳴るなりOZAWAはスクワット等のトレーニングを始めて一気に自分の世界へ引き込み、リバース・インディアン・デスロックに固めながらのスクワットといった嫌がらせを敢行。終盤にもブルブルと顔を震わせてからのセントーン、たっぷりスクワットしてから掟破りのサイトー・スープレックスを見舞うなど北宮のムーブを盗みつつも徹底して自分の世界観を壊さない。最後はビッグベンエッジ(※リストクラッチ式ブルーサンダー・ボム)からのReal Rebel(※ワンステップ・フェニックス・スプラッシュ)を決めて3カウント。北宮の8度目の正直での初戴冠を阻止した。
試合後のマイクでは、満員の観客席を見渡し「後楽園ホールをこんなにいっぱいに出来たのは、すべてプロレスリングNOAH生え抜きのこのOZAWAの力です。マサ北宮を始めとしたプロレスリングNOAHである程度の力を持っている永遠の中堅レスラー、聞け。もっと所属のレスラーを信じろ。目先の小銭をかき集めることばかり考えるのではなく、プロレスリングNOAHの未来に投資しろ」とNOAHへの熱い思いを語ったOZAWA。観衆から起きた「その通り!」「間違いないよ!」の声援にはニッコリと笑顔を浮かべた。
そこへ、新日本プロレスからNOAHへと帰還したKENTAがリングに上って挑戦表明。
OZAWAは「お前ホントは終わりたいんだろ?このプロレスリングNOAHをお前の死に場所にするために帰ってきたんだろ?身体がボロボロだから辞めたいってことは分かってんだよ。だからベルトなんてかけない。お前がこの前大怪我した試合があったな。ノーDQマッチをやってお前を今度こそ本当に終わりにさせてやる」と小馬鹿にし、4月14日の後楽園ホール大会でOZAWA&遠藤哲哉vsKENTA&拳王によるノーDQタッグマッチを決定。5月3日の両国国技館大会でOZAWAとKENTAのGHCヘビー級王座戦が決まった。
OZAWAの言動は、一見すると今までNOAHを支えてきた選手や体制を馬鹿にするものだ。ファンが拒否反応を起こしてもおかしくない。
しかし、OZAWAの中にあるのはNOAHへの熱い愛。有名選手を外から取って付けて権威をアウトソーシングしてきた近年のNOAHへのカウンターであり、NOAHが持つ本来の力を信じるが故の言動であることが徐々に浮き彫りになってきた。
自らの感情を知性とユーモアを交えてファンにエンターテイメントとして提供するOZAWAの手法は、憎悪のぶつけ合いが忌避されつつある令和の世相に適応した最新型の劇場型プロレスと言える。
現実を超えた“リアリティ”でファンを惹きつけるOZAWAが魅せる方舟の征く先をこれからも見守りたい。