【試合詳細】4・10 前田吉朗引退興行 梅田ステラホール 前田吉朗vs稲垣克臣 前田吉朗vs北方大地 前田吉朗vs砂辺光久

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『前田吉朗引退興行』
日程:2022年4月10日
会場:大阪・梅田ステラホール
観衆:発表なし

[試合結果]
▼第1試合 DEEP公式戦 フライ級5分2R 肘なしルール
○亮我(総合格闘技ゴンズジム)
2R 4分03秒、リアネイキッドチョーク(タップアウト)
●梅永海世(パンクラス大阪)

▼第2試合 DEEP公式戦 バンタム級 5分2R
●延命そら(TEAM FAUST)
1R 2分30秒、TKO(グラウンドのパンチ→レフェリーストップ)
○フェルナンド(Pitbull Brothers)

▼第3試合 PANCRASE公式戦 バンタム級 3分3R
○山﨑鼓大(BLOWS)
判定2-1
●上田祐起(総合格闘技道場reliable) 

▼第4試合 PANCRASE公式戦 フェザー級3分3R
●中村晃司(パンクラス大阪稲垣組)
判定0-3
○堂園 悠(修和館)

▼第5試合 DEEP公式戦 バンタム級 5分2R
●藤原大地(UBF) 
1R 2分 03秒、KO(顔面への蹴り)
○MG眞介(パラエストラ東大阪)

▼第6試合 PANCRASE公式戦 ライト級 5分3R
○木村俊也(BLOWS)
判定2-1
●林RICE陽太(パラエストラ森ノ宮)

▼第7試合 セミファイナル DEEP公式戦 ストロー級 5分3R
○潤 鎮魂歌(HARVEST) 
判定3-0
●木戸脇 広樹(GSB MACS)

▼メインイベント 前田吉朗 引退エキシビションマッチ① キックボクシングルール 2分 1R
前田吉朗(パンクラス大阪稲垣組/ENCOUNTER)
(エキシビションのため勝敗なし)
砂辺光久(reversal Gym OKINAWA CROSS×LINE)

▼メインイベント 前田吉朗 引退エキシビションマッチ② グラップリングルール 2分1R
前田吉朗(パンクラス大阪稲垣組/ENCOUNTER)
(エキシビションのため勝敗なし)
第2代ストロー級キング・オブ・パンクラシスト
北方大地(パンクラス大阪稲垣組)

▼メインイベント 前田吉朗 引退エキシビションマッチ③ パンクラス旗揚げルール 2分1R
前田吉朗(パンクラス大阪稲垣組/ENCOUNTER)
(エキシビションのため勝敗なし)
稲垣克臣(パンクラス大阪稲垣組)

前田吉朗が引退興行で砂辺光久、北方大地、稲垣克臣とエキシを行い笑顔の引退!20年間の選手生活を終え「まだ始まってもないよ、バカ野郎!(笑)」

第1試合


 1R。亮我がパンチから組んでテイクダウン。梅永は立つが、亮我がケージへ押し込む。倒したい亮我、堪える梅永。亮我が引き込んでテイクダウン。しかし梅永は再び立つ。バックに回った梅永はヒザを打ち込む。亮我がケージへ押し込んでヒザ。お互い殴るがブレイクがかかる。
 再開。梅永は蹴り、左右パンチから組んでケージへ。しかし亮我は首を取っている。梅永が首を抜き、ヒザを入れたところでゴング。

 2R。プレッシャーをかけていく梅永。蹴りやパンチを放っていく。しかし、ヒザがローブローとなり、タイムストップ。
 すぐに再開。梅永がパンチから組んでケージへ。入れ替えた亮我が足を取って尻もちをつかせる。バックに回り殴る亮我。首を狙うが、これは決まらない。
 殴ってマウントを取った亮我、梅永は立つが、亮我は投げて上に。梅永が入れ替えてケージへ押し込み尻もちをつかせる。首を取っている亮我。立った梅永だが、亮我が再び倒して首! これが決まり、梅永がタップアウト。

第2試合


 1R。延命が組んでケージへ押し込んだ。入れ替えたフェルナンドがヒザ。延命もヒザを打ち込み。ケージへ押し込む。お互い入れ替え合い、延命がボディを殴って倒す。
 フェルナンドはガードポジションからボディを殴り、返してマウント! パウンドを落とす。延命に動きがなくなり、レフェリーが止めた。

第3試合


 1R。お互いジャブ、ローで様子を見る。山﨑がタックルに入るが、上田は倒れない。片足をついている状態からスタンドに戻す。
 山﨑がヒザから投げるが、上田は立ち、離れたところでゴング。

 2R。パンチを出していく上田。お互いフェイントをかけ合う。素早く両足タックルに入った上田。ケージへ押し込む。しかし、山﨑のヒザがローブローに。タイムストップ。
 再開。上田がパンチ。山﨑の左パンチがヒットしたところでゴング。

 3R。お互い蹴りで距離を取っている。上田は鼻から出血しているが、組んでケージへ押し込む。山﨑はボディ、上田はヒザを打ち込む。突き放した山﨑。
 残り1分、上田がパンチで飛び込んだ。山﨑はハイキック。上田のタックルを受け止めた山﨑だが、突き放す。上田がさらにタックル。山﨑はバックに回るが、離れたところで終了。
 ジャッジは30-27山﨑、29-28上田、29-28山﨑、2-1で山﨑が勝利。

第4試合


 引退する前田吉郎の薫陶を受けて育った中村は2009年、ディファ有明のNBT・ISAO戦でプロデビュー。大阪所属の選手だが、東京での試合も多く、久米鷹介、児山佳宏といった強豪とも闘っている。パンクラスのほか、DEEP、ROAD FCにも参戦。今回、パンクラスには3年4ヶ月ぶりの登場となる。久しぶりにイキのいいファイトを見せてくれるはずだ。
 対する堂園は2019年よりパンクラスに参戦している。ここまでの戦績は1勝1敗。ここで勝って白星を先行させたいところだ。

 1R。プレッシャーをかけ合う両者。中村が左右ロー、左ハイと得意の足を使っていく。そしてジャブ。終盤、堂園も反撃。左パンチから打ち合いになるがゴング。

 2Rも両者プレッシャーをかけていく。堂園がパンチ。中村もパンチを返すとお互い笑顔を見せ、スリリングな雰囲気が立ち込める。
 堂園が大きくパンチを振る! しかし中村もロー、パンチ。片足をつかもうとする堂園、させない中村。緊張感の中でゴング。

 3R。中村がロー、堂園が右ミドル。中村は左ハイ、ジャブとたたみかけていく。堂園も受けて立ち撃ち合いに。
 堂園のパンチから中村が組んだが、堂園はすぐに離れる。ロー、ハイ、ミドルと攻める中村。堂園が蹴り足を取りテイクダウン! 殴ったところで終了。

 ジャッジは三者29-28、3-0で堂園が勝利。
 堂園はもっと攻め手を見せたかったのか、納得いかない表情を見せるも、拍手に応える。パンクラスはまだ3戦目だが、今後も高いポテンシャルを見せてくれそうだ。
 中村は拳を骨折した模様。悔しさが滲み出た。しかし、まだ2021年のパンクラスは始まったばかり。再びの出直しに期待したい。

第5試合


 DEEPでも闘っているMGはパンクラス3戦目。前2戦は2020年のNBTで、準決勝で井村塁に敗退している。今回は1年半ぶりのパンクラス。ベテランを相手にどのような闘いを見せるか。

 対する藤原は元稲垣組所属。2003年、大阪大会でプロデビューした。イキのいいファイトで会場を沸かせ、2007年には砂辺光久をハイキックでKO している。
 2008年に入るとCAGE FORCEにも出場。徹肌ィ郎に2Rアームロックで負けたが、同年8月にはclub DEEPグラップリングトーナメントに長谷川孝司とタッグを組み参戦。決勝で敗退はしたものの、植松直哉&八隅孝平という当時「日本最強」と言われたタッグ相手に会場を大いに沸かせた。
 その後、同年9月の大阪大会で突然引退を表明。ラーメン店で修行生活に入ることになった。その後、大阪府東淀川区で人気ラーメン店「歴史を刻め」を経営。現在では11店舗を展開する経営者となっている。
 しかし格闘技への情熱は消えず、2011年、ライジングオンでMMAに復帰。2012年以降はグラップリングマッチに出場していた。今年1月にはWardogで再びMMAに復帰。さらに今回、前田吉朗の最後の花道を盛り上げる。

 1R。パンチを振り、煽っていく藤原。素早い片足タックルから足関を狙う! これは決まらず上になるが、MGが立ち離れる。MGが左パンチ。プレッシャーをかけていく藤原。そこへMGの右ハイキックがヒット、藤原がダウン! MGが大逆転のKO勝利を収めた。

第6試合


 木村は2018年よりパンクラスに参戦。大阪大会を中心に闘っている。ここまで1勝1敗で来ており、勝ちを先行させたいところ。
 対する林は修斗を主戦場として闘ってきた。勝っても負けてもKO、一本が多く、豪快なファイトが楽しみだ。

 1R。林がミドル、ロー。距離を取りボディブロー。木村も蹴る。パンチから首相撲となり、木村がケージへ押し込む。お互い激しく入れ替え合う。入れ替えた林がバックを取る。回って正対した木村。林がケージへ押し込むが、残り1分で離れる。林のパンチで木村がグラつく。林がバックを取ったところでゴング。

 2R。木村は右ミドル、左右パンチで攻める。林タックルからケージへ押す。入れ替えた木村がテイクダウン! 林はガードポジション。足をロックし殴る木村。動けない林を木村が殴ってゴング。

 3R。お互いパンチ。林がタックルからケージへ押し込む。両者とも足をかけており倒したいが、両者ともにこらえる。木村が入れ替え、持ち上げて床へ倒す。カメになった林だが、返して上になりボディを殴る。
 しかし、木村が立ち上がる。投げてバックを取る。残り1分。林が上を取り返し、お互い立つ。パンチを打ち合ってゴング。両者、意地を見せた3Rに会場から拍手が湧いた。
 ジャッジは二者29-28木村、1人が29-28林。2-1で木村が勝利をもぎ取った。

第7試合


 鎮魂歌は2011年、修斗でデビュー。同年、フライ級新人王に輝く。2012年、修斗、HEATに上るが、以後リングから遠ざかっている。2015年、パンクラス初参戦し、2戦しているが、その後3年ほど試合から遠ざかる。
 その後、2019年に大阪DEEPで復帰。さらに3年おいた今回、約6年ぶりにパンクラスへの参戦が決まっている。
 対する木戸脇は大阪、名古屋のDEEPで闘い、4連勝。昨年7月には名古屋大会でメインイベントを務め、多胡力翔に判定勝ちを収めている。昨年12月のDEEPでは中村真人に判定負け。連敗は避けたいところだ。

 1R。鎮魂歌がロー、ジャブと攻める。さらにタックルから引き込み、足関節を狙う。外す木戸脇。鎮魂歌は足を狙い続ける。決まらないが、諦めない鎮魂歌。足関を一度やめ、ケージへ押し込む。木戸脇は立つが、鎮魂歌がバックをとっている。ピッタリつく鎮魂歌。残り30秒だが、再び足を狙う。抵抗する木戸脇。ゴング。

 2R。お互いパンチ、ローを振っていく。鎮魂歌が低いタックル。木戸脇は潰すが、鎮魂歌が引き込み、さらに上に。そして足狙い! 逃れたい木戸脇は殴る。しかし離さない鎮魂歌。木戸脇が外して立ち、ける。鎮魂歌は蹴り上げる。木戸脇がローを入れるがブレイクがかかった。
 残り1分。スタンドから打ち合ってゴング。

 3R。パンチから鎮魂歌がタックル。下に潜り足を狙う。木戸脇はカカトを落とす。さらに足を狙う鎮魂歌だが、木戸脇が立って逃れた。鎮魂歌が蹴り上げ、木戸脇がローを繰り返すとブレイクがかかった。
 木戸脇が組みにいくが鎮魂歌がきる。木戸脇はジャブ、ボデイ。しかし、鎮魂歌はタックルから引き込んでまたも足を狙う! 立って逃れる木戸脇。
 残り1分。タックルから引き込む鎮魂歌。木戸脇は飛び乗るように上に。鎮魂歌はさらに足を狙うが、時間がない。上になりパウンドを落として終了。
 ジャッジは二者30-27、1人が29-28、3-0 で鎮魂歌が勝利。

第8試合


 「前田吉朗の過去・現在・未来」というテーマで組まれた3つのエキジビション。トップバッターは「現在」をテーマにした砂辺光久だ。
 パンクラス軽量級の黎明期から活躍してきた両者。最初の対戦は2003年5月。判定で前田が勝利。デビュー2戦目の前田が、5戦目の砂辺に初黒星をつけた。前田はこのあと、12連勝とスターへ上り詰めていく。
 その後、両者が再びリングで交わることはなかったが、“ミッチー”“吉朗”と呼び合い交流は続いていた。
 「前田吉朗は、僕が18年追い続けてきた選手」と言う砂辺。昨年11月、RIZIN沖縄大会で18年ぶりの対戦が実現。前田が判定勝利を挙げている。
 今回はキックルールでのエキシビションということで、ボクシンググローブのほか、レガースも着けての対戦となった。

 ゴング直後、前田がいきなり飛び膝。パンチからタックルに入ってしまい、レフェリーに注意を受けて苦笑。
 砂辺もお返しとばかり飛び膝。ボディを狙う前田。ミドルを蹴る砂辺に対し、前田が“もっと蹴ってこい”と挑発する。砂辺がパンチで前に出ると前田味受けて立ち打ち合いに。両者、飛び膝を出してゴング。会場からは大きな拍手が起こった。

第9試合


 2試合目は「未来」をテーマに北方大地がケージに入った。
 北方は、これまで前田とともに格闘技道を歩いてきたと言っても過言ではない。2010年のデビュー時から前田がセコンドにつき、指導してきた。北方はさまざまな夢や目標を抱き、パンクラス、ONE、RIZINで活躍。破れた夢も、叶った目標も、苦しみも喜びも、全て前田とともに味わってきた。
 頸椎後従靭帯骨化症という国指定の難病に罹患した北方。昨年6月のRIZIN参戦前日に原因不明の発熱で、前田に諭され欠場した。「格闘家としてリングの上で死なせてほしい」と訴える北方を止めることができたのは、10年以上、北方を支えてきた前田しかいなかっただろう。
 今年3月にはRIZIN.34に出場し、村元友太郎に判定勝ちを収めた北方。万感の思いを込め、エキシビションの舞台に立つ。

 北方が足を取りバックに回る。さらにバックマウント。脱出しようとする前田だが、北方は離さずチョークを狙う。さらにフェイスロックに移行すると、前田は極まっていないとアピール。北方はさらにチョークをしかけるがゴング。
 感極まり、涙を抑えられない北方は、前田とガッチリ握手をした。
 2分のエキシビションではあっても、北方が本気で師匠に対峙したことが強く伝わってきた。まだあどけなさの残るデビュー当時の北方が思い出され、熱い拍手が2人を包んだ。

第10試合


 そして、3試合めは「過去」として、稲垣組代表・稲垣克臣がケージイン。
 稲垣はパンクラスの旗揚げメンバー。記念すべき旗揚げ戦第1試合を務め、まさにパンクラスの第一歩を刻んだ選手である。2003年、惜しまれながら引退。引退後はパンクラス大阪のメインインストラクターを務め、またパンクラス大阪稲垣組の代表として後進を指導、育成している。
 花道を入ってきた稲垣に、会場からどよめきが起こった。
 それは、稲垣が現役時代と変わらない肉体だったからだ。旗揚げ当時「ハイブリッドボディ」と呼ばれ、他のプロレス団体とは一線を画した鍛え上げられた肉体は、パンクラスそのものだったと言ってもいいだろう。稲垣はボディビルの大会に参加したりもしているが、引退してから19年が経っているのに、しかも52歳でここまでの肉体を保っているとは。会場のどよめきも治まらない中ゴングが鳴った。
 バシッ!バシッ!と重い音をさせ、稲垣がローを叩き込む。前田がタックルに入り、バックを取る。正対し掌底。しかし距離が良くないのかペチッと叩く感じで会場からは笑いが。
 稲垣はアームロックを狙うが、前田は外して膝狙い。さらにバックに周りチョーク! 入っているかと思われたが、稲垣はタップせず。ゴング。
 エキシビションとは思えないスリリングな内容に、会場からは大きな拍手が湧き上がった。

 稲垣の動きを見ながら、生前、大道塾師範・故東孝氏の話を思い出した。
「強くなければ、子供はついて来ません。子供は、師範を自分より強い相手だと認めるからこそ、ついてくるんです」。
 稲垣組にはイキのいい若手選手が多く所属しているが、彼らをまとめて行けるのは、もちろん人柄もあるが、稲垣がハイブリッド・ボディと強さを保っていることも大きいだろう。強くて尊敬できる相手でなければ、人はついて行かない。稲垣がいるからこそ、稲垣組は、前田吉朗・北方大地というチャンピオンや、後に続こうとする若手たちを生んでいるのだと強く感じた2分間だった。

 3試合の終了後、前田、砂辺、北方、稲垣が揃ってコメントと記念撮影を行った。
[エキジビション後コメント]
砂辺光久
「大阪の皆さん、お久しぶりです、砂辺光久です。20年前からライバルだと思っていた彼(前田)が僕より先に引退してしまうのは、すごく悔しいです。でも、沖縄(RIZIN沖縄大会)でもうちょっと殴りたかったけど、今日ちょっと殴れて、ちょっとだけ清々してます。
 彼が選ばなかった未来を僕はまだまだ歩いて行きます。そして、彼が羨むくらい、これからの未来を自分の力で明るくしていこうと思うので、楽しみにしていてください。それから、今後の前田吉朗の応援、よろしくお願いします。ありがとうございました」

北方大地
「吉朗さんの、自分に対する厳しさ、格闘技に対する姿勢、あと周りの人に対する優しさを、すぐそばで背中を見せていただいて、僕は育てていただいたと思っています。僕も本当に(前田さんが作ってくれた)その環境(を作れるように)になりたいです。この環境に、本当に感謝しています。
 そしてやっぱり、僕にとっては、稲垣さんと吉朗さんが『稲垣組』なんですよね。僕はこの2人の、本当に尊敬する男たちの作ってくれた、残してくれた稲垣組の魂をしっかり受け継いで、世代を超えて、格闘技を通じて継承して行きたいと思っています。
 前田吉朗がいなくなっても、明日から、僕や金太郎、三村亘、木下憂朔を筆頭に、二代目稲垣組がしっかり背負っていくので、どうぞ皆さん、これからもよろしくお願いします」

稲垣克臣
「(前田に向かって)試合できてよかった。ありがとう!格闘技人生、一緒にやってこられてムチャクチャ楽しかった。ありがとうね」



[前田吉朗 引退セレモニー]
 パンクラス関係や選手など、前田吉朗の格闘技人生に深く関わった人々が、花束や記念品を贈呈。パンクラス運営本部長・坂本靖氏、元DEEPライト級王者・北岡悟選手、元DEEPウェルター級王者で2016年に引退した白井祐矢氏、東京で前田を指導した長南亮氏、DEEP佐伯繁代表などが登壇し、前田をねぎらった。
 続いて、前田の家族である妻、長男、長女が登壇。夫・父を労い、笑顔で写真に収まった。
 その後、パンクラスとDEEP、2本のベルトを携え、前田があいさつ。
前田「本日はご来場いただき、ありがとうございます。ご存じの通り、今日をもって格闘家・前田吉朗は引退します。デビューから今日までしっかり支えてくれて、今日まで温かく見守っていただいた皆さん、本当にありがとうございました。
 いろんなことを、あれも話そうとか、この話をしようとか、いろいろ考えてたんですけど、格闘技を通して、すごくいろんなものを学び、今日こうやって皆さんと、ちゃんとこうやって顔を見て『ありがとうございました』この言葉を伝えて去れることを誇りに思います。
 こういう、幸せな最後を迎える人間にしていただいた稲垣さんをはじめ、ずっとお世話になった皆さん、本当にありがとうございました!」

 そしてテンカウントゴングが鳴らされ、晩柑の思いを込めゴングを聞いた前田は、両手を突き上げてファンに笑顔を見せた。ケージには稲垣組の選手たちが上がり、胴上げで前田の新しい門出を祝った。

[前田吉朗 大会後コメント]
――全てガチなエキジビションでしたね。
前田「はい! でも、ちょっとミッチー(砂辺光久)ね、遠慮してやってたんですよ、もしくは僕に倒されるのが怖かったのか、ちょっと僕に気を遣ってやってたのがわかったんで。ガチンコやっちゅうねん」

――自分の過去・現在・未来ということで行ったエキシビションでしたが、いかがでしたか。
前田「これ、締めなんですかね。全然ダメージないんですよ。(選手生活を)締めるんですかね、いいんですか? むしろ俺が聞きたい。ええのんか、これで? これで終わりでええのんか? 前田吉朗の。もう見られへんで、なかなか」

――見たいよ、前田吉朗見たいよ!
前田「じゃあもっと声がないとな(笑)。でもね、今日やって思った。やっぱりここが限界で、自分がプロとしてやるのは限界」

――やり切りましたか。
前田「やり切ったかと言われたら、分からへん。稲垣さんを、せめて失神くらいさせたかった。すごいテンポ良く次、次、次、ときて、あれをしようとか、これをしようとか、稲垣さんがしてきたことに対して何もできんかったですね、結局。一所懸命、自分の持っとるもんだけで闘ったっていう。それが格闘技として成立しとんのかどうか分からない。入門したとき、稲垣さんにやっつけられ続けとった時より、今日の方ができてないんちゃうかと思うくらい。もう必死でしたね。稲垣さんが最初やったらしんどかったわ」

――何をしようとか、何を見せようとかじゃなく……
前田「もう、そういうにはなかったですね。早くやっつけんと時間が……でも、時間とかの概念もなかったのかな。そこがやっぱり、僕が引退と思う所以なんでしょうね。自分がファイターとしてこうしよう、ああしようと次を見ない」

――長い現役生活でした。今パッと頭に浮かぶことは何でしょうか。
前田「何もないですよ。明日からまた道場で指導や、また明日から忙しいな、ってなもんですわ」

――明日から日常が変わりますか。
前田「変わらないです、変わらないです。一緒。ずっと一緒。現役しとっても、現役じゃなくても一緒です。ENCOUNTER(前田がオープンしたジム)をオープンしてからもう一緒です。試合が、ミッチーが決まった時も一緒、ずっと一緒」

――ひと言では語れないと思うんですけど、ご自分のプロ生活を振り返って、どんな現役生活でしたか。
前田「いや、もう楽しかったですよ。楽しい現役生活。ただただ楽しいだけ」

――後ろに2つのベルトがあります。これは記録として残った部分ですが、それ以上に記憶に残る部分がたくさんあって、ご自分では、自分のキャリアをどう評価していますか。
前田「自分のキャリア……すごく良い選手生活だったと思いますよ。やりたいことをやらせてもらって、こうやって温かくみんなに送ってもらえて。仲間もいっぱいおって、どこへ行っても偉そうにして(笑)。そうやって、それができる時代を歩ませてもらって。楽しかったですね」

――事前インタビューでも「ありがとうという言葉しかない」と話していました。そして、先ほどケージでも「ありがとう」と。改めて支えてくれた人に送る言葉は?
前田「いろんな人がおって、その人は支えたつもりがなかったり、逆に支えたつもりがある人もいっぱいおると思うんですけど、『支えたつもりの人』は、これからもっと俺を支えろよ、っていうね。まだまだ俺は迷惑かけるよ(笑)」

 ここで、元稲垣組・武重賢司(2008年引退)が前田に挨拶に。
――武重さん、前田さんにひと言お願いします。
武重「長い間、お疲れさまでした」
前田「アハハ、まだまだ行きまっせ!」
武重「アオリ(VTR)見とったら、いっぱい初期の写真が出てきて、ちょっと涙ぐんでしまった。ハハハ。お疲れさまでした」
前田「ありがとうございます!」

前田「ね、こうやって来てくれる兄貴分もおるしね。この上ないくらい幸せな格闘人生を送ってきたんじゃないですか」

――これまで激闘を重ねてきて、最後『五体満足で(ケージを)降りられた』とおっしゃっていましたが、その姿を息子さん、娘さんに見せられていかがでしたか。
前田「いや、息子、娘はオマケなんでね、僕の人生の。格闘人生で言うたらほんまオマケ、オマケでしかなくて。『格闘家・前田吉朗の嫁とか子供』はオマケで。でも、『前田吉朗』の人生の、これからの本題になってくるのは息子・娘なんですけどね。格闘家としてはやっぱり、子供はオマケなんでね。そこは、子供味見せられたかどうなのかは、そんなん全然ですしね。子供がそういうのを見て、自分もやりたいと思ったら、自分で経験しに行けと思いますし」

――さて、ご自分のジムも立ち上げました。これから第二の格闘技人生、指導者としての道を歩くわけです。第二の前田吉朗誕生はまだ早いかも知れませんが、どういったジムにして、どういった子たちを育てていきたいですか。
前田「第二の前田吉朗はもう出てこないです。無理です。だって、前田吉朗なんて、とんでもなくすごいですよ、ムチャクチャ過ぎて。こんな僕みたいなヤツが僕のジムにおったら、バチバチにするか破門するかどっちかですよ。よう稲さん(稲垣)、俺の面倒見てくれたわ。
 こんなん稀なんですよ。時代もあってね。僕は、いま僕のジムに来とる子に関しては、あれせい、これせいなんてない。したいことをしたらいいんです。そいつらが手を伸ばすものはちゃんと与えてあげる。でも僕から何かを与えることはないです。やりたいことをやってくれる、そういうジムです。ただ、僕が気に入ったヤツはボコボコにしますけどね(笑)」

――今後、稲垣組はどうあってほしいですか。
前田「正確に言えば、僕からしたら、僕が稲垣組なんですよね。で、僕が抜けることによって、あいつらがどういうものを引き継いでいくか分からないですし、稲垣さんがそこにおるわけじゃないですか。でも、これからは、僕が引っ張った稲垣組や、僕を思う必要はないんです、なんにも。ただ、僕が『こうあってほしい』ということは伝えて、人としてこうであってほしいということは伝えたんで、彼らの稲垣組を作ればいいんじゃないですか。僕は、稲垣組の黄金時代を過ごさせてもらってるので、その黄金時代を彼らが作ればいい。
 なんか、自慢できる後輩でおってほしいですよね。どこ行っても『ああ、アイツ、こんな(若い)時から見とんねん』って。飲み屋の女の子とかにね。『ええ、そうだったの!? すごーい』なんて言われて『おう、じゃあ今度俺の家来い、ソイツ呼んだるがな』なんて言ってね。いろんなことができる後輩いいね、って何言っとんねん(笑)。
 とにかく、しっかりしてくれればね。強い弱いはどっちでもいいんですよ。ちゃんと人としてしっかりしてくれて、その上で強いがあれば嬉しいですけどね、格闘家として」

――プロレスラーの人って、引退しても、また復帰したりするんですけど、前田さんは……
前田「いいんすか? いいんすか?(笑)いやーでも、格闘技ってすぐ復帰できるような、そんな甘いもんじゃないんで。1回引退しててフラフラ帰ってくる人、チョコチョコおるじゃないですか。僕は、自分が現役でやっとる時のように打ち込んで練習できとるんであったり、できるんであれば別に帰るし、そもそも引退もしませんでした。でも、おそらくそれが今後もできることはないと思うんで、もう戻らないと思います。
 いやいやそりゃ、死ぬほど10億とか積まれて、これでやってくれって言われたら、それは全然、練習しますよ、フフフ。ということで復帰は難しいです!」

――稲垣組では、これからも指導されるのですか?
前田「もう僕は、稲垣組の指導とかは一切退いています。もう一切触ってないんで。若い子がミットとか持ってくれって個人的に来る分には全然、自分のジムの方で教えてるので、ジムに来てくれたら」

――今日もエキシビションをした北方選手など、ずっとセコンドについている選手はどうされるのでしょうか。
前田「北方がうちのジムに来てくれているので。そうやって頼ってもらえたらありがたいですし、自分が格闘技から置いていかれにくくなるんで、ありがたいですよね。これからは、たまに稲さんともね。
 試合が決まってから、稲さんと連絡しにくかったんですよ。僕、先週くらい、ちょっと練習カットしたんですよ。で、ドバドバ血が出て縫うて練習できんで、まあエキシビションやし何とかなるかと思ったら、『吉朗!』って電話がかかってきて。なんか会場のことか何かで連絡を取ってたんですよ。で、『こんな感じです、よろしくお願いします』みたいなことを話してたら、『あ、そうだ吉朗、エキシビションってなってるけど、俺、思いっきりいくからね〜♪』って。『いやあの、そ、そうっすよね……』って(苦笑)。『そう思ってますよ』って言うたんですけど、そこからだんだん……。(後輩に向かい)俺、けっこうナーバスになっとる時あったよな。
 後輩は稲さんとちゃんとスパーリングしとらんかも知れんけど、俺はしとんのやって、やっぱりちゃんと。すっごい強い稲さんを身体で覚えとんで、あれ思いっきり蹴られたら、俺ヘタしたら……とか考えちゃって。稲さんは手を抜くとか全然できん人なんですよ。わぁ……なんか俺どうすんのやろ、俺ひょっとしたら、ずっと距離取って、とかそんなこと考えとって。もしかしたら今日は稲垣さんに仕掛けられんかも知れんし、もうカーンっていった瞬間行こうと思ったんですよ。それで行って乱したらいけるかなと思って、それで寄ったんです。
 でも、やっぱりムズいわ、掌底。距離が全然届かんもん。パパパパンとやりたかったけど、そんなポジション取らせてくれんかったわ」

――では、締めとして、プロフェッショナルとしての言葉をお願いします。
前田「プロフェッショナルか。男はね、やれるかどうかなんか関係ないんです。やるか、やらんかしかないんです。やりゃあいいんだよ、やりゃあ! ハイ!……こんなんでええの? ホンマに?やりたいことやったらエエねん。失敗したら誰かがケツ拭いてくれるよ。ありがとうございました」

――20年間お疲れさまでした!
前田「まだ始まってもないよ、バカ野郎!(笑)」

 試合でも、そしてインタビューでも、最後まで涙はない大会だった。前田は、湿っぽい雰囲気にせず、みんなに笑って送ってもらいたかったのだろう。もしかしたら、泣いてしまうかも知れないと思いながら来場したファンもいたかも知れない。しかし、エキシビションを超えた内容のエキシビション、そして前田の明るい笑顔に、涙を忘れてしまったかのようだった。

 それにしても、強く感じたのは、前田と稲垣代表の絆の強さだった。稲垣がいなかったら前田吉朗という希代の格闘家は生まれていなかっただろう。
 試合後のインタビューで、前田は、稲垣が「エキジビションだけど、思いっきりいくからね」と話したことを明かしたが、稲垣に話を聞きに行くと「いやぁ、また試合をやることになるなんて思っていませんでしたよ」と笑いながらサラッと話した。
 でも、たとえエキシビションであっても、やるとなったら絶対に手は抜かない。
 稲垣は現役時代、怪我で悔しい思いをすることも多かった。試合が出来ず、同期たちの姿をリングの下から見上げることも少なくなかった。しかし、諦めずにパンクラスという一本の道を歩いてきた。そんな稲垣だからこそ、稲垣組の選手たちや道場生から絶大な信頼を得ているのだろう。
 そして、その薫陶を最も身近に受けてきた前田。そういう時代に生まれてきたことも、ある意味、強運であり、運命だったのではないだろうか。
 VTRでは「人を愛し、人に愛された男」と紹介されていた。その通り、多くの人が会場に駆けつけ、格闘技には貸し出さない方針の会場も、前田のためならと特別に使わせてくれた。前田の、憎めない、愛すべきキャラクター、人柄を強く感じた。
 そしてさらに「格闘技を愛し、格闘技に愛された男」でもあるのではないだろうか。前田はただヤンチャなだけでもなければ、明るいだけのキャラクターでもない。格闘技によって鍛えられ、磨かれた精神を持つからこそ、強く、そして人に愛されたのだと思う。
 現役選手としては退くが、前田の格闘時人生は形を変えて続いていく。これからも、前田の放つ輝きは、格闘技界の一隅を照らし、光り続けるだろう。
「前田選手、お疲れさまでした。そして、これからもよろしくお願いします」
そんな気持ちになる、温かな大会だった。

(写真。文/佐佐木 澪)

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