【ダンプ還暦大会】「今日ぐらい、素直でいいだろ?」と千種。“心のカギ”を開けられたダンプは、涙ぐむ少女のように…
(文・写真/フリーライター・安西伸一)
10月11日(月)、東京・後楽園ホールで『ダンプ松本 41周年 還暦記念興行』が行われた。
客席は密にならないよう配慮され、551人と発表。平日興行なのでチケット販売は苦戦していたが、ふたをあけてみれば、今なかなかお客さんは、ここまで入らない!というほどの入りとなった。
クレーン・ユウとの元祖・極悪同盟や、クラッシュ・ギャルズ、大森ゆかりは、共に全日本女子プロレスへの昭和55年(1980年)入門組。
ダンプは60年11月生まれの60歳。現役では、先輩のジャガー横田が61年7月生まれで、やはり60歳だ。
ダンプのデビューは80年8月の対新国(にいくに)純子戦なので、今年8月でデビュー41周年を迎えていた。
この日、ダンプは第2試合と第5試合(メインイベント)に登場。メインの8人タッグマッチ(60分1本勝負)では、ZAP、旧姓・広田さくら、サソリ(OG)と組み、長与千種、彩羽匠、小倉由美(OG)、永堀一恵(OG)と対峙した。
この試合のコールを務めたのは氏家(うじいえ)清春さん。ダンプ達と同時代に、全日本女子プロレスのリングに立っていたリングアナだ。独特のコールがなつかしい。80年代の全女のリング上の風景は、氏家アナなくしては考えられないほど。派手なアクションなどはまったくないが、声と立ち姿だけで、見事に試合を盛り立てた人物だった。
今大会はコロナの状況下、凶器を持ち込んでの流血戦や毒霧殺法はNGなので、ダンプとしては試合では、暴れ足りない展開に。でもその分、“ブル中野”に扮した広田がコミカルな動きで奮闘。サソリと小倉は軽快なロープワークを見せ、試合を引き締めた。
永堀がZAPを丸め込んだが、チョリソ・レフェリーのカウントが超遅く、カウントツー。ZAPが切り返すと超高速カウントが3つ入り、ダンプ組の勝利が決まった。
ダンプの紹介で、メイン登場の各選手がマイクを持って挨拶。
永堀「久しぶりにリングに上がらせていただいて。もうなんにもやってないで体中、すでに痛いです」
小倉「今日はありがとうございました。楽しく私は出来ましたが、いかがだったでしょう?」
サソリ「41周年と還暦、おめでとうございます。あのー、こういう記念の大会に、もう引退して今年12年になるんですけども、呼んでいただいて、あの、ホントに嬉しかったです。ありがとうございます」
広田「楽しかったかあ~!? そうだろう、そうだろう。……え~、ホントにどうも、すいませんでしたっ! これからは極悪同盟の名も背負いながら、レスラー人生歩んで行きたいと思います」
そのあとは場内のスクリーンに、会場に来られなかったジャガー横田、ライオネス飛鳥、後輩選手たちや、長与千種からの還暦祝いの“動画メッセージ”が流された。それをダンプと千種は、椅子に座ってリング上からながめていた。
ダンプ「ありがとねー。泣けるねー、ホントに。愛だよねえ」
長与「もうさあ」
ダンプ「泣きたいよね」
長与「みんな、そばにいるんだよ」
ダンプ「なに言ってんの、急に」(ウルウル)
長与「そばにいるんだよ。寂しくないんだよ(拍手)。寂しくないの。いつだっているの」
ダンプ「(ウルウル)化粧してるから、極悪でいないとダメなんだよ」
長与「今日ぐらい素直になっちゃってもいいだろ?」
ダンプ「ウゥ~ン(うめくような泣き声)」
長与「みんなそばにいる。おいで」
まるで2人だけでいるような会話。そっとハグ(拍手)。すすり泣いているダンプの声が、マイクから伝わる。その仕草は、まるで少女のようだ。新人時代に見せていた、幼い顔立ちで、はにかむような笑顔。
同期の中でもドン尻で、人知れず泣きながらも、それでもダンプは這い上がってきた。鬼の形相の中に隠していた、女子としての素顔を、一緒に苦労した同期の仲間は、よく知っている。
稀代のヒールの中に秘められていた“素の女性”としての姿を、60歳にしてダンプはリング上で見せてしまった。ダンプの“心のカギ”を、一瞬で開けたのは千種だ。でも今日ぐらい、いいだろう。
“ちゃんちゃんこ”の変わりに、ファンから贈られた“赤い特攻服のガウン”を着込んだダンプ。今日はお祝いの日なのだ。選手も、OGも、そしてお客さんもみんな、ダンプのお祝いに駆けつけたのだから。今宵はダンプ松本のためにあるのだ。
そして場内暗転。
長与「泣いてんなよ、泣いてんなよ」
ダンプ「やっと終われる。大変だった…」
これまで極悪興行は、新木場1stRingや新宿FACEで開催されてきたが、後楽園ホールになると興行規模が違う。この状況下では、チケットを手売りするのも相当、大変だったはずだ。ダンプからポロリともれた本音だった。
するとその時、観客みんなが黄色いペンライトを取り出し、手に持って、暗がりの中、いっせいに大きく左右に振り出した。黄色は極悪のカラーなのだ。
ダンプ「ああ、すごーい! みんな黄色いので! ありがとう、すごーい!」
千種「うしろも見て、うしろも」
ダンプ「すごーい! どうしたの、これ!? 誰が用意したの!?」(客席から笑い)
リングアナのオッキー沖田が本部席から「ダンプさん、ファンの皆さんの愛です!」と紹介。
ダンプ「愛!? ……経費がまた、かかった(客席から笑い)。黄色のお花畑、ありがとうございます。ホントにありがとう。すごーい! ねえ、写真撮ってる!?みんな!! すごいね。ありがとう、ありがとう、ありがとう」
千種「でもさ、ひとつだけ心配なのは」
ダンプ「うん」
千種「そんなに頑張んなくていいと思う。体が大事」
ダンプ「そうだよね(拍手)。でもまだ引退しないよ」
千種「自分が、試合しなくても、プロデュースは出来るはず。じゅうぶん今日だって、たくさんの人達が来てくれて、すべてのラインナップをしたんだから。そういう力はあるんだから」
ダンプ「そうね」
千種「体を大事にしなよ。お互いに」
ダンプ「お互いにね」
千種「お互いに」
ダンプ「ホント」
千種「今日いっぱい来てくれてる。同期もいっぱい来てくれてるよ」
ダンプ「ああ、ホント!?」
客席に座っていた、OGの先輩・ジャンボ堀さん、後輩・ブル中野さん、同期の大森ゆかりさん、クレーン・ユウさん、高階(たかがい)由利子さんがリングへ。
ダンプ「みんな相撲取りみたい。ブルちゃんだけ、見て、こんなにやせちゃって。こんなにやせちゃって、どうしたのって感じ」
ここで堀さんから、7月9日に胆管癌(たんかんガン)で亡くなった55年組の新国純子さんの事が報告された。このリングで同期の仲間と共に挨拶に立てるよう、頑張っていた新国さん。ダンプも「出て来てくれるって言ってたのに」。
堀「純子~!! 見てるか~!!」(拍手)
堀さんが右手を挙げて叫んだ。続いてダンプも右手を挙げた。
ダンプ「純子~!! あっ、風間ルミもだよ。ルーちゃ~ん!!」
堀「ルーちゃ~ん!!」
ダンプたちは照明輝く天井を見上げた。
新国さんの娘さんが会場に来ていたが、大会当日の開始前に行なわれた抗原検査に間に合わなかったので、娘さん自身はリングサイドで観覧。持参したお母さんの写真が、リングに上がったOGに託された。
人はいつか、天に召されていく。寂しさも残ったが、温かい大会だった。それは選手や、OGや、スタッフや、集まった観客が作り上げたものだ。
コロナが収まれば、またダンプは派手な凶器を持って、対戦相手の前に立ちふさがるだろう。こうして女子プロレスは続いていく。女子プロレスは永遠なのだ。