好勝負! 日韓・ジョシカク決戦に思う悔しさ【RIZIN】
(文/フリーライター安西伸一)
昨年大晦日のさいたまスーパーアリーナ『RIZIN.20』女子スーパーアトム級タイトルマッチは激戦だった。
初代王者・浜崎朱加は2018年大晦日に浅倉カンナとの王座決定戦を制し、19年6月にはジン・ユウ・フライ相手に3-0の判定で初防衛も果たしていたが、昨年大晦日、二度目の防衛に失敗。ハム・ソヒに2-1の判定で敗れ、ハム・ソヒが第2代王者となった。
浜崎は昨年8月にはアム・ザ・ロケットと対戦。ムエタイで80戦、柔術も学んできたという選手だった。このときは1R3分29秒、腕十字で勝っているが、スタンドの打撃やグラウンドでも打撃が見逃せない攻防になっている昨今の総合格闘技の中で、寝技での組み合いの攻防で堂々と一本を狙いに行って勝利を手繰り寄せているのだから見応えがあった。
背後から相手に密着されて、首に腕をまわされた場面でも、体を翻そうとする浜崎の見事の腹筋のうごめき。そしてあせらず、自分のポジションを作っていけた浜崎の動きには、目を奪われた。
なんだか女子の総合格闘技の方がMMAっぽく感じるのは、私だけだろうか。とにかくそれぐらい、浜崎の試合にはこれまで、魅せられるものがあった。
ハム・ソヒ相手の1R。浜崎のスタンドのパンチがさえて、ハムの顔面に複数回、クリーンヒットした。顔面を晴らしていくハム。でも、それでもハムには気後れしている部分が見られない。
キックボクシングから来た選手だからか、むしろ腫れた顔面をさらしながらも堂々とするハムからは、ダメージよりも立ち向かう気迫を感じさせられた。
2Rは、蹴り足を取られて倒されたハムが、下から三角絞め狙い。強烈なヒジ打ちの連打を浜崎の頭に入れていく。三角をめぐる攻防が、ラウンドのほとんどを支配した。
最終3Rではスタンドで組んで、もみ合う攻防から、浜崎が右足をハムの右足に掛けて首投げで倒し、そのまま相手の首を右腕で取りながらケサ固めの展開へ。浜崎には、自分の左ヒザの内側でハムの右手首をはさみ、ハムの右ヒジを決めに行くストレートアームバーや、自分の右ヒザの内側で相手の右手首をはさんで決めに行く腕がらみなどを狙えるかとも思われたのだが、ハムは両手を懸命にクラッチさせ、それを阻止。
浜崎は左拳によるパウンドに方向転換したが、今度はハムが両腕で顔面をガード。浜崎の左パンチは、ハムの固い頭部しか、狙いどころがなくなっていた。
全てのラウンドが終了し、ジャッジ3名の判定がすべて館内で読み上げられるとハムの勝利が決まり、満員の館内から一瞬、驚きのどよめきが。でもすぐにそれはハムを祝福する、明るい歓声に変わっていた。
これまでハムは総合格闘技のプロ選手として、多くのチャンスを日本で得てきた。そのことをハムはとても感謝してくれている。最初に読み上げられたジャッジの判定が浜崎だったとき、ハムは素直に両手を叩いて拍手した。3人目のジャッジが読み上げられたときには、浜崎が拍手した。
そういえば昨年10月の山本美憂戦のあと、ハムは相手の右耳近くの傷を攻撃したのが嫌だったのか、それとも美憂の歩んできた人生を知っていたから、相手を潰すように勝つのが嫌だったのか、勝利の直後、美憂に詫びるような表情をし、悲しそうにしていた。
先日の大晦日の勝利後はリング上のマイクで、たどたどしい日本語でみんなに、感謝と喜びを伝えようとしていた。
ここは政治のことを論ずるコラムではないので難しいことは述べないが、選手層の薄い女子の総合格闘技の世界ではしっかりと、日韓の絆が育まれている気がした。
あえて言えば、寝技の攻防の進展を願う目で見ると、ハムには2R、三角絞めが決めきれないなら腕十字を狙う選択もあったのではないかと思うし、浜崎は3R、相手の腕が取れないので、頭の固いところでもお構いなしに殴りに行ったのだろうけれど、崩れケサ固めからの肩固めを狙う攻防も、あってもよかったのではないかとも思う。
でもこれは、体を痛めることなく見ているだけの者だからこそ思いつく、妄想なのだろう。必死に闘っている選手のことを、悪く言うつもりは毛頭ない。
願わくばこの好勝負が、もっと大きな視聴率を獲得して、世間に届いてほしかった。それが一番、残念だ。