『あれ見てこれ読んであそこ行ってきた』#4

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ちょっと前の話ですが、徳光正行さんと岩井志麻子さんのトークイベントにゲストとして伝説のホストと呼ばれる方が出演されたことがありました。その方がお話しされていた中でもっとも印象的だったのが、「並みのホストは喜怒哀楽の感情のうち喜びと楽しいしか与えられないけれど、一流のホストは怒りと哀しみも与えることができる」という言葉でした。プロレスのコラムであるのになぜホストの方の言葉を引用したかというと、柳澤健さんの新著である『2011年の棚橋弘至と中邑真輔』の棚橋選手についての記述を読み、まず思い出したのがこの言葉だったからです。今回は棚橋選手のパートについてのみで紹介していきます。

今年出版されたプロレス関連の書籍でもっとも話題を呼んだのが柳澤健さんの『1984年のUWF』であったことは間違いないでしょう。これまでずっと前田日明さん側の視点からでしか取り上げられてこなかったUWFを、いま改めて俯瞰的に見直すことにより初代タイガーマスクこと佐山サトルさんによるUWFという運動体やシステムに与えた影響や功績を掘り下げた作品でした。
いろいろな見方や読み方はあるかと思いますが、個人的には自分がUWFファンとしてディープに見てきた時代や、その時の逡巡などを描いてくれた本として大切な1冊となりました。そして今回紹介する『2011年の棚橋弘至と中邑真輔』ですが、こちらは逆に自分が距離を置いていた時期の新日本プロレスを描いた、『1984年のUWF』とはいわばコインの裏表のような1冊に感じました。

紹介したいエピソードは数々ありますがそれは読んでからのお楽しみとして、大先輩のプロレスライターである須山浩継さんとお話しさせていただいた時に聞いた話を。須山さんが使われるフレーズというか、形容として『女子プロレスの横綱』という表現があります。仙台女子プロレスの里村明衣子選手などがよくそう称されますね。
須山さんがおっしゃるには「横綱とそうでない人との違いと言えば、仕事と割り切るか天命として受け入れるか」とのことでした。ちょっと前の話なので微妙に違うかもですが。
この本では紹介されていなかったのですが、先日の棚橋選手と柳澤さんの公開対談(電子書籍化されています)で披露された「チャンピオン・カーニバル決勝で諏訪魔選手と対戦した時に、それまでの試合でのダメージからほとんど動かなかったヒザに、それでも自ら「飛べ!」と言い聞かせてハイフライフローをした」というエピソードを聞いた時に、棚橋選手が天命として受け入れた瞬間を自分が見たとしたらその時なのかもと思いました。

新日本プロレスが苦しい時代から、あるいは2011年以降から棚橋選手を見つめてきたファンの方たちには自分との関わりを改めて考えてみる本として。そしてこれまで柳澤健さんが描いてきた70~90年代のプロレスについての話にしか興味のないような人たちにも、自分たちがファンとして不在だった時代の新日本プロレスを描いた本として読んでもらいたい1冊です。棚橋弘至から得られる「喜怒哀楽」を味わってください。

電子書籍:『棚橋弘至が語る「2011年の新日本プロレス」』 棚橋弘至、柳澤健 共著
https://www.amazon.co.jp/dp/B073RCDM7L

『2011年の棚橋弘至と中邑真輔』 柳澤健著
https://www.amazon.co.jp/dp/4163907564

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