「欧州の覇王」チンギス・アラゾフが噂通りの実力を見せて優勝!だがダウンを奪った城戸や、強豪を削った日菜太と廣野が「70キロの明るい未来」を見せた!
6月18日、埼玉県さいたま市のさいたまスーパーアリーナ・コミュニティアリーナで開催された。
「K-1WORLDGP2017JAPAN」。2014年11月の旗揚げ大会以来のホーム会場、代々木第二体育館が改修工事に入り、今回からキャパ2倍の8000人収容のコミュニティアリーナに進出したが、チケットは今回も完売。「さいたま初進出で絶対に盛り上げたかった」と意気込んだ「K-1のカリスマ」武尊は、計量をパスできなかった相手に「怒りの拳」を打ち込んでKO勝利。また王者ウェイ・ルイは挑戦者ゴンナパー・ウィラサクレックと激しく打ち合って防衛に成功。会場を大いに盛り上げた。
この日、一番の盛り上がりを見せたのは、1回戦と準決勝で圧倒的な強さを見せて「このままぶっちぎりで優勝」と思われていたチンギス・アラゾフが、決勝戦で城戸康裕の左ストレートを受けてダウンしたシーンだろう。
優勝候補大本命の下馬評通り、アラゾフは1回戦で中島弘貴をアッパーで2回KO、準決勝ではピケオーを右ストレートで初回KO。圧巻の強さで勝ち上がってきた。
決勝戦でも城戸を相手に初回に左ストレートでダウンを奪い、場内は「これで決まりか」と終戦ムード。だが、城戸は諦めなかった。2回に「何万回も練習してきた」というバックステップからの左ストレートでダウンを奪い返したのだ。アラゾフも負けじと攻め込み、3回に2度のダウンを奪って大差の判定勝ちを収めて優勝。しかしながら、城戸はアラゾフからダウンを奪っての準優勝で「日本人もここまで戦える」と示したのは大きい。大会前は「日本人は1回戦で全滅」と言われたのだから。
城戸だけではない。日菜太はピケオーと大接戦を演じ、勝ったピケオーはボロボロの状態で準決勝を戦い、アラゾフにKO負け。また、廣野祐は額からの出血でTKO負けとなったが、廣野のパンチとローを受けたダルベックは「1試合目(廣野戦)でかなりダメージを負い、回復しなかった」と準決勝で城戸にKO負け。終わってみれば、日菜太と廣野がアラゾフと城戸の決勝進出をアシストした格好だ。
70キロといえば、かつては魔裟斗や小比類巻貴之、佐藤嘉洋が活躍した「K-1WORLDMAX」の階級。しかし「MAXの次世代エース候補」と呼ばれて、活躍が期待されていた城戸、日菜太、中島弘貴らは、運営会社FEGの倒産により活躍の場を失う憂き目に遭った。
新生K-1がスタートすると、注目はゲーオや木村フィリップミノル、山崎秀晃らがひしめく65キロや、武尊、卜部兄弟が活躍する軽量級に集まった。70キロは、初代王者グレゴリアンが一度も防衛せずにタイトルを返上する不運も重なり、なかなか盛り上がらなかったが、今年は日菜太が参戦し、Krush70㎏王者ピケオーやダルベックといった日本にもおなじの外国人スター選手が揃い、そして今回の世界的なビッグネーム、アラゾフの参戦によって、ようやく盛り上がるための駒が揃ったように思う。
試合後、ピケオーは「万全の状態でぜひアラゾフと戦いたい。何ならオレの持つKrushのベルトも賭けてダブルタイトルマッチでもいい」と挑戦を表明。また、王者アラゾフは一夜明け会見で「K-1王者という子供の頃からの夢がかなって本当に嬉しい。初めての日本をとても気に入りましたし、新たなファンも獲得できたと思うので、もっと良い試合を見せたい。呼んでいただけるならいつでも来日します」とK-1への継続参戦を表明した。
一方、今回の結果に日本人選手たちは一様にショックを受けていた。「(アラゾフは)とんでもないバケモノ」(城戸)「今までやってきた外国人より(アラゾフは)力が抜きん出ていた」(中島)「世界のせの字も見えない」(廣野)。ただ「外国人に勝てるようにまた作り直す」(日菜太)、「世界のトップに通用する練習をしてきて、年齢と共にレベルも上がってる」(城戸)と前向きな姿勢も見えた。
アラゾフの強さは衝撃的だったが、そのアラゾフから城戸はダウンを奪っての堂々の準優勝。また、日菜太はピケオーを、廣野はダルベックを削って、彼らの上位進出を阻んだ。アラゾフに完敗した中島にしても出場した日本人で唯一の20代。まだ伸びしろはあるはずだ。
悲観することはない。「K-1MAX消滅」で味わった喪失感を思えば、今回の負けなど何のことはないはずだ。日本勢はすぐにでも顔を上げて「打倒アラゾフ」に向けて動き出すべきだ。
(スポーツライター茂田浩司)