「K-1」、武尊という“人間”が輝いた試合
K-1が開催された4月22日(土)、東京・代々木第二体育館は、札止めの観客で埋まっていた。
スーパーファイトに登場したのはK-1 WORLD GP フェザー級王者の武尊。3分3ラウンド、アメリカのビクトー・サラビアとの対戦だった。
問題のシーンが起きたのは3R。45秒を経過したところでサラビアの右バックキックが武尊の下腹部を直撃。苦しむ武尊に最大5分の休憩が与えられたが、1分を過ぎると両ひざをマットにつけた状態から前にかがんでいた武尊は、嗚咽をもらしだした。
セコンド2人がリングに入り、白いバスタオルをカーテンのように広げて武尊の体を隠したので、そのあとどうなったのかは見えなかったが、とてもこれ以上、試合を続けられるようには思えなかった。
こんなとき、見ている男ならとても「頑張って」などと声はかけられない。頑張りたくても、そんな気力さえ奪われてしまうのが下腹部の急所の痛みだからだ。男なら誰でも、その痛みは知っているが、吐き気がするほど強い衝撃を食らったことのある人は、そうそういないのではないか。とにかく武尊は、想像を絶する痛みに苦しんだのだと思う。
ところが立ち上がると「やるやる」と言い放ち、なんと試合を再開させる。休んだ時間はリミットの5分を過ぎず、5分弱だった。
ほんとにやるのか、とキツネにつままれたような気分で見ていると、武尊は相手の前蹴りを食らっている。絶対、腹に響いてきいているはずだ。それでもパンチの打ち合いをやめない武尊は、激しい打ち合いの末、右と左のロングフックを放つ。これが的確に相手の顔面をとらえ、さらに左右フックの追い打ちでサラビアはダウン。ダウンカウントはツーまで入ったが、レフェリーがここで試合を止め、3R2分23秒、武尊のKO勝ちとなった。
館内は大歓声。信じられないKO劇。続行さすべきだったかどうかは意見が分かれるところだろうが、目の前で起きた結末は、劇的な幕切れだった。
「ちょっと吐きましたね。寒気と震えがきちゃって。ケガして試合できなかったのもあるし、久々の試合で、こんな形で終わったら絶対シラケちゃうなと思って。戻れ戻れと思って回復させてたんですけれど、足が踏ん張りきかなくちゃって。あとはもう口がすごく乾いて。きつかったんですけど。蹴れなくて踏ん張りがきかなかったので、パンチで行くしかないと思っていきましたね、最後。
下からドンと蹴りあげられて、激痛と吐き気と寒気がしてきて(苦笑)、ちょっとあせりました。まわりが(もうやめていいんじゃないかという)そういう空気だったので、吐いたのとか見てそう思ったんだと思うんですけど、これで止められちゃったら大会的にもだダメだし、僕の試合を楽しみにしてくれてたファンの方もいっぱいいたので、こんな形で絶対終われないと思って、途中から『やるやるやるやる』ってずっと言ってましたね。『やるからちょっと待ってて』って。あんまり長く待たせられないなと思ったけど、ドクターの人とかが『やるんなら待つから』って言ってくれたんですけど。
僕はどっちかって言うと客観的に見ちゃうんで、何もない無駄な時間が流れるのって結構、大会見てるお客さんとかにもイヤな時間だなと思うし、早く僕も闘いたいなっていうのがあったので。ちょっと無理しましたけど、逆にそれで、パンチで行こうと思ったので。まあ気合で頑張りました。
最後は左(パンチ)でしたね。気づかなかったです。左をめっちゃ練習したので、今回。(ケガをしていたので)右が打てないので、ほぼ左のパンチばっかりやってたので、筋量が左の方がめっちゃ大きくなっちゃってて、その成果が出たのかな。良かったです、左で倒せて。」
武尊の試合は第10試合。メインイベントは第12試合だった。全試合終了後、リング上で閉会式があり、バックステージに戻ってきてから数人目のコメントだったが、このときは武尊はもう笑顔で試合を振り返っていた。
K-1のYouTubeオフィシャルチャンネルでこの試合の映像が公開されているが、改めて見ても、武尊の強い人間力を感じる。K-1のエースであるという使命感に満ちた男の姿が、そこにある。
(写真・文/フリーライター安西伸一)