藤原喜明と髙橋“人喰い”義生が26年の時を経て最初で最後の師弟対決!「リングの上でオヤジの顔を見たら、もう昔の道場に戻ってました」

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 28日、東京・STAR RISE TOWERにてハードヒット『君の寝技に恋してる』が行われた。

<佐藤光留あいさつ>


 DDT体制の頃のハードヒットで「次、何をやろう?」って高木三四郎さんに言われて、「出来るかどうか分かりませんがやってみたいです」と言ったグラップリングだけのハードヒットが、まさかこんなに長く続くとは自分自身も思いませんでした。
 1年に1回、寝技だけの大会をやるんですけど、毎回言いようのない不安に2ヶ月間くらい襲われる大会です。でも、さっきのダークマッチ2試合で「ああ、やっぱり寝技だけって面白いな」、「俺たちプロレスラーだから、こういうのがやりたいんだ」っていう雰囲気になっています。
 今度の大会は、まず「君の寝技に恋してる」という大会名だけが先に決まりました。今年の春ぐらいに色々考えていたとき、「君の瞳に恋してる」(原題: Can't Take My Eyes Off You)という往年の名曲がかかっていまして、これはプロレスで言ったら寝技だなと思ったんです。
 それから大会(の開催)だけが6ヶ月前に決まり、会場を決めるまでに4ヶ月、出場選手が決まるまでに2ヶ月、設営は開場の2分前。常にギリギリのハードヒットですが、お陰さまで用意した席はだいぶ埋まっております。
 そこで、ぜひハードヒットのリングで寝技だけで一番を決めたいということで、強者に4人集まっていただきました。第1回寝技の達人トーナメントという……これも「料理の鉄人」を見ていて決まりました。そのときはこんな豪華なメンツになると思いませんでしたが、現チャンピオン、元チャンピオン含めて集まってくれました。これはもうプロレス界で一番寝技が強い奴だと、声を大にして言っていいメンツでのトーナメントになります。優勝選手が決まったら、みなさん写真を撮ってSNSにあげるときに「こいつがプロレス界で一番寝技が強いんだ!」と、勝ったのにプレッシャーをかけていただければと思います」

 ハードヒットは、いつも温かい雰囲気だ。出場する選手たちはリング上で起こっていることを楽しみ、観客は選手たちを見守りながら楽しむ、みんなが家族のような、親戚のような、そんな懐かしくて温かい空気が会場を包んでいる。
 この日は、新しい試み「第1回寝技の達人トーナメント」が行われ、和田拓也、桜井隆多、松本崇寿、のりお(ロッキー川村)が抽選で組み合わせを決め、闘った。
 総合格闘技の世界でも活躍する選手たちの豪華なトーナメント。階級も関係なく、単純に誰が強いのかを決める。パンクラスや総合格闘技を長く見てきたファンがマニアックに楽しむだけでなく、過去のことは何も知らなくても、すぐに入り込めて楽しむことができる。それがハードヒットの良さではないだろうか。
 しかし、メインだけは違った。
 かつて師弟関係にあった2人が入場すると、急にピンと緊張感が張り詰め、会場は静まり返った。

 髙橋“人喰い”義生と、藤原喜明。
 日大レスリング部で活躍した髙橋は、大学卒業後、プロフェッショナル藤原組に入門した。船木誠勝、鈴木みのるらとともに、毎日、藤原にしごかれまくった。2年後、髙橋は船木、鈴木とパンクラスを旗揚げし、藤原とは袂を分かつこととなったが、藤原組での2年間が、技術だけでなく、高橋のプロとしての全ての礎をつくったと言って過言ではない。

 わずか1年でプロデビューした髙橋だが、藤原とは対戦しないまま退団となった。それから四半世紀たった今、高橋が藤原との対戦を熱望したのはなぜなのだろうか。
 それは、髙橋の心境の変化にある。
「前はね、本当に闘うことしか考えてなかったんですよ。とにかく毎日毎日、相手の身体と心を折るってことしか考えていなかった。もともと僕はそんなに戦績がいい方じゃなかったけど、あの頃は、実際の勝敗じゃなくて、相手に『高橋とは二度とやりたくない』と思わせれば勝ちだと思っていましたからね。でも最近、そうじゃなくて、自分と闘う、自分の心と向き合うっていう方向に変わって来ているんですよ」

 実はUFCに参戦していた頃から、この考えの萌芽はあったようだが、当時はとにかく勝負が大切だった。しかし、今年4月に事故に遭って入院した時の経験が、髙橋の進む方向を大きく変えたのだ。
 病院職員に見つからないよう、朝4時に起きてトレーニングをする姿を見て、自分もトレーニングをしたいという患者が髙橋のもとに集まり始めた。いつも車椅子に座って、日がな一日おしゃべりをするだけだった患者が、自分の足で立つ練習を、自分の意志で始めた。
 髙橋は、そんなみんなの中に活気があふれていくのを強く感じた。朝の光を浴びた「気」の力を集め、元気玉のように放つと、それが人に伝わっていく。目には見えないけれど、プラスのパワーが人の気力を充実させ、前向きな気持ちにしていく。
 精神を充実させ、自分の身体を自在に動かせるようになること。「気」には大きなパワーがある。それを究めたい。高橋はいま、人を壊すのとは全く逆の方向にシフトし始めているのだ。
 だから、高橋は自分の原点である藤原との対戦を望んだ。新しい髙橋義生に切り替わろうとしている今だからこそ。

 最初で最後の対戦。ゴングが鳴り、向き合った両者からは、恐ろしいほどの殺気が溢れていた。固唾を吞んで見守る観衆。
手首を取りに行った高橋がテイクダウン。しかし、藤原はカメになった髙橋からサイドポジションを奪取。しかし、ロープ際のためブレイクがかかる。
再開後も髙橋から攻めていく。片足タックルに入ると、これを切った藤原が電光石火の腹固め! 耐える髙橋だが、ガッチリ固められ、和田京平レフェリーが試合をストップした。わずか1分57秒。
 しかし、髙橋は「タップしてない!」と和田レフェリーに抗議。和田レフェリーは「ダメ! 危ない!」と一喝するが、なんと、勝った藤原も「タップしてないぞ」と抗議。
リング上に不穏な空気が漂い、佐藤光留、ロッキー川村もリングに上がって両者をなだめるが、髙橋も藤原も退かない。
 「タップしたとか、しないとか関係ない! 俺が危ないって言ったら危ないんだよ!」と和田レフェリーも主張するが、髙橋は「タップしてない!」、藤原は「大丈夫!」と続行をアピールし続ける。
 どうしても退かない両者に呆れた(?)和田レフェリーは、プロデューサーである佐藤に「任せます」と一任。リングに上がった佐藤は「レフェリーが勝ちって言った方が勝ちなんですけど、双方がやりたいって言っているのを止める方法を、僕は知りません。これ(裁定後)はハードヒットの本戦ではなくて、2人がいいって言うまでの一本勝負でいかがでしょうか」と粋な発言。
 和田レフェリーは「大丈夫? その代わり止めないよ? OK?」と確認し、試合は続行された。

 リングが再び緊張感で満ちる。
 髙橋は脇を差すが、藤原は入れ替えてロープに押し込む。髙橋は片足をつかみテイクダウン! ヒザ十字! 藤原は思わずボディにパンチを入れてしまう。
 髙橋はハーフからサイドへ。さらにヒジで藤原の喉を押す。アームロックを狙うが、これは藤原が防ぐ。髙橋はバックに回りヘッドロックから、さらにアンクルホールド! しかし、藤原はこれを回避。ガードポジションとなるが、髙橋はマウントからバックに回り、スリーパー! 藤原はロープ際へ移動していき、ブレイクとなる。
 髙橋がコーナーに押し込むと、藤原はまたもボディを殴ってしまい、口頭注意。しかし、髙橋もタックルでテイクダウンするとマウントパンチを見舞い、和田レフェリーの口頭注意を受ける。藤原は、その一瞬のスキを衝き、スリーパーホールド! 見事に極まり、髙橋が落ちた!
 ここで、ようやく納得した両者は座礼。和田レフェリーが藤原の腕をとり勝ち名乗りをあげると、敗れた髙橋も和田レフェリーと握手をし、藤原と抱き合った。


藤原 試合後コメント
「(髙橋さんは強くなっていましたか?)そりゃあ強くなってるよ。下手したら、やめちまおうかと思ってたんだから」

髙橋 試合後コメント
「楽しかった。オヤジと肌を合わせたのは、僕が23ぐらいの時だから、26年も前。それ以来でした。
 オヤジの腹固め、痛ぇんだもん。絶対タップしないって思ってたのに、和田さんが止めるんだもん。
 リングの上でオヤジの顔を見たら、もう昔の道場に戻ってましたね。客は完全無視。藤原組の道場で、オヤジとスパーリングしてるのと同じ気持ちだから、本当にタップしてない、これからなのにって思ったんです。
 今は柔術が主流になっていますけど、ああいうスタイルもあるんで。今日の試合は、ジジイとオヤジの親子ゲンカですね。70手前のオヤジと、50手前のジジイの親子ゲンカ。本当に懐かしくて。
 藤原組と名乗ったのは、藤原組だからですよ。控え室も一緒だし、リングに上がったって同じだよ。死にそうだよ。殺しとけばよかった(笑)
 今日は、腕が折れても靭帯が切れてもタップしないと思ってたけど、まさか絞められるとは思ってなかった。思い出したんですけど、俺、藤原組のころ『落ちグセ』があったんですよ。みんな俺のことを落としてたの思い出した。みんな落ちるのを嫌がってたけど、さっさと落ちれば早く終わるのにって。どうやって落ちるのかも研究したかったしさ。
 でも、観客の前でKO以外で落ちたなんてないんじゃないかな。絞め落とされたのは初めてですよ、あのクソジジイ。
 久々にまともにタックルに入ったから、膝がすりむけちゃった。サポーターしてたから狙って入ったのに折れないんだもん。『最初で最後』って言っちゃったからもう試合できないけど、もしタッグを組むことがあったら、タッグ中になんかやってやろうかな(笑)」

(写真・文/佐佐木 澪)

『ニコプロpresentsハードヒット「君の寝技に恋してる」』
日時:2018年10月28日(日)
開始:18:30
会場:東京・STAR RISE TOWER
観衆:変態大集結(満員=主催者発表)

▼ダークマッチ シングルマッチ5分1R(延長3分1R)
○小林 裕(フリー)
1分02秒、ヒールホールド
●渡邊龍太郎(DDT松山)

▼ダークマッチ シングルマッチ5分1R(延長3分1R)
○唐澤志陽(M16 TOKYO)
1分14秒、フロントチョーク
●ザ・グレート玉川(多摩川プロレスリング)

▼第1試合 タッグマッチ15分1本勝負
クリスMAN太郎(クリス事務所)/●服部健太(花鳥風月)
4分41秒、ロシアンリバースプラッタ
○飯塚 優(HEAT-UP)/井土徹也(HEAT-UP)

▼第2試合 第1回「THE IRON WRESTLER TOURNAMENT」1回戦 シングルマッチ5分1本勝負(延長3分1R)
○和田拓也(フリー)
延長・判定3-0
●桜井隆多(R-BLOOD)

▼第3試合 第1回「THE IRON WRESTLER TOURNAMENT」1回戦 シングルマッチ5分1本勝負(延長3分1R)
○松本崇寿(リバーサルジム立川ALPHA)
4分45秒、腕ひしぎ十字固め
●のりお(=ロッキー川村/パンクラスイズム横浜)

▼第4試合 シングルマッチ10分1本勝負
○関根シュレック秀樹(ボンサイ柔術)
2分33秒、胴絞めスリーパーホールド
●SUSHI

▼第5試合 シングルマッチ10分1本勝負
○金原弘光(U.K.R.金原道場)
3分15秒、クルックヘッドシザース
●阿部諦道(浄土宗西山深草派)

▼ダークマッチ シングルマッチ5分1本勝負
△依光健太郎(GG行徳ロッキー川村ism)
5分00秒、時間切れ引き分け
△澤 宗紀(フロンティア・マーシャルアーツ・一般人)

▼第6試合 タッグマッチ15分1本勝負
△佐藤光留(フリー)/ 中村大介(夕月堂本舗)
15分00秒、時間切れ引き分け
△鈴木秀樹(フリー)/岡田剛史(T.K.ESPERANZA)

▼第7試合 セミファイナル 第1回「THE IRON WRESTLER TOURNAMENT」決勝戦 シングルマッチ10分1本勝負
○和田拓也(フリー)
10分00秒、判定3-0
●松本崇寿(リバーサルジム立川ALPHA)
※和田拓也がトーナメント優勝。

▼第8試合 メインイベント シングルマッチ15分1本勝負
○藤原喜明(藤原組)
1分57秒、TKO(腹固め→レフェリーストップ)
●髙橋“人喰い”義生(藤原組)

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