【インタビュー】PANCRASE312出場の近藤有己が7年ぶり2度目の村山暁洋戦を前にベテランとしての決意を語る「ベルトも巻きたいし、大きな舞台にも上がりたい」
2月8日夕、神奈川県横浜市の「パンクラスイズム横浜」道場へ、近藤有己(パンクラスイズム横浜)を訪ねた。近藤は、『PANCRASE 312』(2月16日、新木場スタジオコースト)で村山暁洋(GUTSMAN)と対戦する。
村山との対戦は2度目。前回は判定で近藤が敗れているが、お互い7年を経て、何が変わったのか、また何が変わらないのか。そして、この闘いの先に何を見据えているのか。近藤に話を聞いた。
――コンディションはいかがですか。
「良いです。過去一番いいかも知れません」
――最近、寒いですけど、夏生まれの近藤選手、冬は大丈夫ですか。
「立春を過ぎると寒くなりますよね。できたら暑い方がいいですけど、寒くない方がいいですけど、寒さに負けたくないっていう気持ちがあるので元気いっぱいです」
――とても調子が良さそうです。
「いい練習をさせてもらっているので、それゆえにコンディションもいいですし、それゆえに冬に負けないくらい元気いっぱいです」
――以前よりフェイスラインがスッとして、スッキリされたように見えます。体もキレていそうです。
「本当ですか、嬉しいです。今、体を動かす喜びをすごく感じているんです。格闘技をやることもそうですけど、それ以前に体を動かすということが楽しくて。筋肉を使うこと、動かすことにすごく喜びを感じます。快感ですよね。
脳から体に電気信号が出て、筋肉に伝わって、体が動く。そのこと自体に喜びを感じます」
――格闘技はその最たるものですね。さあ、今回、村山選手との試合です。2度目の対戦になりますが、当時と今とで印象は変わりましたか?
「自分の中でのイメージは変わっていないですね。7年前も今も、同じように強い選手だと思っています。
特に、7年前は負けているので、本当に強い選手だなというのがあります。組み技も強いですし、打撃もすごく強いですね。パワーもありますし、巧く当ててくる感じです」
――それに対する対策は?
「うーん、細かく言えばあるでしょうけど……」
――試合までは秘密ですね。
「はい。前回、自分はすごく『負けた』という感じがしているというか、とにかく『負けたな』という思いがあります」
――しかも今回は、パンクラスのベルトを巻いた者同士の闘いとなります。
「そうですね。村山選手は、自分との試合の後どんどん強くなって、チャンピオンになりましたね。強くなっていくなあと思いながら見ていました」
――村山選手は修斗の環太平洋、そしてパンクラスと2団体制覇。近藤選手はパンクラスで無差別・ライトヘビー・ミドルと3階級を制覇。こんなすごい選手同士の闘いは、なかなか見られないと思います。
「まさか、また闘えるとは思っていなかったです。前回のあと、ずっとそんなことは考えたことがなかったので、今回オファーをもらった時はすごく嬉しかったです。もう1回闘えるんだなあと」
――今回はどんなお気持ちでいらっしゃいますか?
「今度は勝つんだ、という思いがすごく強いです。“リベンジ”って言うと軽い感じになっちゃうんですけど、7年目にして借りを返すチャンスをもらえたと思っています。村山選手は、自分との試合のあと強くなっていますし、勝敗に関係なくいい試合をしてきています。その人に挑戦できるというのは、本当にやりがいを感じます」
――キャリア的には近藤さんの方が先輩ですけど、“挑戦”ですか?
「そうですね。キャリアとか、自分のことは大して覚えていないんですけど、やはり相手が強い人ですから。前回もそうでしたけど、今回はその時以上に挑戦と言う気持ちが強いですね」
――近藤選手は、偉大な軌跡を残してきた選手として、レジェンドと言われています。
「そういう風に言われることがあるんですけど、レジェンドなんて言われても自分ではピンと来ないんです。過去のことはもう過ぎたことで、自分は常に『今』を生きている。そういう思いでやっています」
――なるほど。近藤選手らしいですね。今回は今年最初の試合になりますが、2020年はどんな年にしたいですか?
「まず、良い試合をしたいです。あと、試合をもっとやりたいですね。今回、次、その次とさらに良い試合をしていきたいですし、もっと上に行きたいと思います」
――「上」というと、パンクラスのベルトを巻くこと、別の舞台に上がること、海外で闘うこと……と色々ありますが、どういうところを目指して行かれるのでしょうか。
「全部ですね。ベルトも巻きたいし、大きな舞台にも上がりたいですし、海外でもやってみたいですし。具体的にどこ、とか何、というビジョンは分からないですけど」
――勝っていけば、向こうから来るものですよね。
「そうかもですね。とにかく、『必ずや』という思いでいます」
――では、その第一歩となる今回の試合で、どんなところを見せたいですか。
「打撃だけじゃなく、いろんな局面で相手に譲らず、相手より秀でたものを見せて勝ちたいです。テイクダウンですか? 取らせません。足腰を特に意識しているわけではないですけど、みんなに鍛えてもらっていますから」
――まずは、この一勝ですね。
「はい。まずこの試合に勝って、去年以上に試合をしたいです。強い選手、ランカーとやりたいです。外国人選手もいいですね。とにかく試合をたくさんしたいです」
――最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。
「いつも応援してくださって、ありがとうございます。2020年、良いコンディションを整えて、自分をもっともっと成長させて、良い試合、良い闘いを見せたいと思っています。今年もよろしくお願いします」
近藤有己は、話を聞くたびに、良い意味で飾らなくなっていくように思う。
ふと気がつくと、近藤の髪には白いものが混じっていた。いわゆる「グレイヘア」だ。しかし、老けたとか、衰えたという感じはない。
10年、いや15年くらい前になるかと思うが、茶色に髪を染めていた近藤に「どうして髪を染めているんですか?」と聞いてみたことがある。その時、近藤は「実は、若白髪なんですよ。けっこう多くて」と話していた。
いつの間にか黒髪に戻り、そしてグレイヘアに。そこには、無理をせずありのままの自分を肯定する姿、また若さにしがみつかない潔さがにじみ出ているようで、「常に『今』を生きている」という言葉とぴったり重なった。
格好をつけたいとか、自分を良く見せたいとか思う気持ちは誰にもある。けれど、今この時、あるがままの自分だって、実はそう捨てたものじゃないんじゃないか。近藤を見ていると、ちょっと自分自身を見直してやりたいような気持ちになる。
髪は黒からグレイに変わり、発するオーラもギラギラから静かなものに変わったけれど、近藤の中にある格闘技への情熱は変わらない。
今、総合格闘技はMMAと呼ばれるようになり、「より大きな舞台へ」「日本から世界へ」の掛け声も大きい。しかし近藤は、そんなこと、もうとっくの昔に経験しているのだ。そして現在も、現役として闘い続けている。この凄さ。そして、本人はそれがちっとも凄いことのように思っていない凄さ。
村山という相手を得て、近藤がどのような闘いを見せるか。ベテラン同士の譲れない闘いに注目したい。
(写真・文/佐佐木 澪)