『あれ見てこれ読んであそこ行ってきた』#6
- 2019-1-17
- WWEネットワークの散歩道
グルメサイトで連載され、今では出張版として新日本プロレスの公式サイトでも連載がスタートした『レスラーめし』が1月15日に単行本として発売されることになりました。グルメサイト連載中から読んでいたこともあり、著者である大坪ケムタさんにこの本にまつわるエピソ-ドなどを聞いてみたので今回はインタビュー形式でお届けします。
ーーまずはこのレスラーめしの連載を始めるきっかけから教えてください。
「もともとメシ通っていうホットペッパーがやってるグルメサイトがあって、それまでもアイドルの好きなご飯やお酒紹介みたいな記事を書いていたんだけど、編集者の方から「プロレスラーのメシの話を聞くのはどうですか?」みたいな感じできて。それで全然いいですよって。」
ーー取材を始める前はどう転がるだろうと思っていたのですか?
「最初は全然。もちろんちゃんこの話もあるし、地方巡業の話もあるし、ある程度は書けるかなと思ってたけど、自分で言うのもなんだけどこんな面白い話が聞けるとは思わなかったというのが正直なところですね。自分もこれまで何度もプロレスラーにインタビューはしたことあるけど、もちろんそれは試合に関してであって、メシの話だけ聞くってなかったからね。(やってみて)メシから見えるものがあるんだなぁって。メシの話なんだけれど、こんなにプロレスの話としてちゃんと成立するとは思わなかった。そこはちょっと自分でも意外でしたね。」
ーーだいたい作る人の話しか記事にはなりにくいですもんね。
「週刊プロレスでもあったじゃない、道場でのレシピとか。あとは大食い自慢とか。」
ーーではあらためて『レスラーめし』についておうかがいします。おそらく今回初めて話を聞く人ばかりだったと思うのですが、読んでみてかなり心を開いて話してくれていた印象でした。
「そこなんですよね。プロレスラーに限らず、インタビューってどこまでこちらに心を開くかというのがあるんですが、メシの話は気軽にしてくれましたね。
プロレスの話っていろんな意味で難しいじゃないですか。言えない部分もあるだろうし、特にこのクラスになると同じことを何度も聞かれてるだろうし(苦笑)。そういう話だったら向こうも「もういいよ」ってなるんだろうけど、メシの話は初めてだからか、みんな気軽に話してくれて。そこはちょっとびっくりしました。」
ーーこの中で体作りについてまで話が及んだのは長与さんと鈴木選手でした。
「そうですね。それくらいですよね。あとは昭和の時代の「とにかく大きくしろ!」っていう体作りですよね(笑)。実際に出てくる選手はわかりやすく体をハイブリッド化してるっていう選手はいないっていうのもあるんだろうけど。
この取材で個人的にやりやすかったのは、グルメの記事ではあるんだけれど、いわゆる本物の味にうるさいタイプのグルメは出てこないっていうところですね(笑)。自分もこだわりがあるタイプではないので「あの店がいいんだよ」「この店がいいんだよ」ってあんまり細かい話をされてもこっちが困っちゃう(笑)。そこはやりやすかったです。
まだ本当に味にうるさいタイプにはあたってないですね。新日本の石井選手とか料理もするしグルメらしいですね。オカダ選手も石井選手について、遠征の時には醤油を持っていくとか、試合後の飲み屋でも自分でタレを(そのお店で)作るとか言ってましたから。」
ーー最近長州さんや天龍さんが滑舌が悪いということで取り上げられることが多いですけど・・・
「ツイッターの感想で「よくこの人のテープ起こしできたな」って書かれてましたね(笑)。特に問題なくお話はうかがえましたけどね。今や実際の声以上に、世間がそういう声の人としてキャラ化しているところもありますしね(笑)。
でもそれもたぶんさっきも言ったけど、プロレスの話だとうちとけた人じゃないと話してくれなかったかもしれないけれど、メシの話だとスラスラ出てくるというか。長州さんなんか超緊張しましたけど、新弟子時代の話から丁寧に教えてもらいましたよ。」
ーー天龍さんの場合は滑舌じゃなくて、のどがつぶれてしまっているだけだと思うのですが。
「しわがれ声になってるところはありますけど、普通に取材できましたよ(笑)。あと驚いたのはみんな記憶力いいんですよね。特に天龍さんはすごい。よくそんなこと覚えてるなって。」
ーーちなみに今回のインタビューの中で「え、そうだったんだ!」と一番強く感じたエピソードを教えてもらえますか?
「個人的に知らなかっただけかもしれないけれど、天龍さんがお酒をよく飲むようになったのが30過ぎからと意外と遅かったのは知らなかった。天龍さんのお酒のエピソードを漫画にした『酒羅の如く』(画:叶精作、原作:岡戸隆一)はもちろん読んでから取材に行ったけど、あれには全然そんなこと書いてなくて。」
ーー酔わないから飲まないといったエピソードはあったかと記憶していますが。
「それはちょっと意外だったなぁ。」
ーー最近聞いた話なんですけど、亡くなられた俳優の松方弘樹さんがお酒のエピソードとして「芸能界での飲み比べで負けたことはない。千代の富士、北勝海にも負けなかったけれど、天龍源一郎さんには負けた」とおっしゃっていたとか。でもこの本によるともしかすると坂口さんはその上を行くのかなっていう(笑)。
「でも前田さんや天龍さんは相撲の方が上だって言ってたしね。全体で言えば力士の方が強いのかなっていう気もするしね。力士もレスラーも、今はもう昔と全然違うんだろうけどね。」
ーーちゃんこの話で料理の腕前についてもいくつもエピソードが紹介されていました
「現役の選手だと、武藤会長やBUSHI選手なんかは、浜選手がいちばん美味いって言ってましたね。特に全日本系の人はみんな言っていて。今は大日本に行ってるけど。現役では今は力士系のレスラーが減りましたからね。
ずっと前にZERO-ONEにいた高橋冬樹選手。あの人も以前取材した時にちゃんこを食べさせてもらったんだけどメチャクチャ美味しかったんです。なんでかっていうともともと曙選手の付き人で、そのあと最初(に入ったプロレス団体)はIWA JAPANかな。カブキさんのテーストが入って。カブキさんも今お店出してるくらいだから、もちろん美味いわけですよ。その後3人くらいの相撲経験者の味をミックスしているからメチャクチャ美味いって話も聞きましたね。
ただ相撲取りでも天龍さんは(料理をすることに)そんなに興味なかったみたいだし、みんな上手下手はあるんでしょうね。相撲は番付が上がらなかったらちゃんこを作り続けるというのはあるんだろうけど、プロレスは後輩が入れば自然と上に上がるところがあるじゃないですか。相撲と違って新しい人が入ってくればちゃんこ番を卒業するでしょうから、その違いはあるでしょうね。
プロレスだと作るのが好きっていう人はあんまりいないですね。橋本(真也)さんは料理が好きというか、一回作ったらすぐ飽きるってみんな言ってましたね(笑)。豆腐とかラーメンとか、最高級の食材を使って、作ったら満足するという。料理好きとはまた違うタイプなんだろうな。好奇心旺盛の方が近いのかな。料理に限らずね。」
ーーそれでは最後に。この人を取材してみたかったという方はいらっしゃいますか?亡くなられた方でもいいのですが。
「う~ん、そうねぇ。猪木さんはブラジル時代からごはんの話は聞いてみたいですけど、難しいですかね。あと前田さん、藤原さんには聞けているので、高田さん、佐山さんにも話をうかがってみたいところですね。
あと個人的にメシの話は海外の話が好きなんですよね。だからWWEに所属した選手や、インディー団体を転戦した選手の話はぜひ聞いてみたいです。
あと人にもよるんですけど、昭和の人で移籍とか海外遠征とかしてるじゃないですか。だからそういう人は途中途中で変化があるから、トピックがあるから聞きやすいというのがありますね。
個人的に話を聞いて一番おもしろかったのはKUSHIDA選手なんですよね。新日本版に載ってるんですけど、あの人は若い時には高田道場で桜庭選手とメシを食って、そのあとTAJIRI選手とメシを食って、ハッスルに入って天龍さんとメシを食って、今は棚橋選手たちとメシを食ってる。昭和と平成と両方とメシを食って、しかも桜庭選手ともメシを食ってるってすごくないですか。メンツもすごいし、物の見方がすごくおもしろいんです。
今の選手はそういう意味では聞きづらいだろうなというのはあります。その中でオカダ選手は闘龍門でのメキシコがあって新日本があって、TNAでの海外修業があるから、トピックがある方なんですよ。選手としての転換期とメシというのが重なってるんですよね。」