【インタビュー】激白からの復帰を経て3年…プロレスラー夏すみれの今【前編】

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 変えの効かない唯一無二の女子プロレスラー夏すみれは、かつてWAVEを絶縁状態で辞め、STARDOMの大江戸隊で暴れ、コロナ禍での投資話の破断でプロレス界から姿を消す波乱万丈な生き方をしてきた。
 色々なものを乗り越えてプロレス界に復帰した夏が、引退する友のために今月末自主興行を行う。復帰後の夏がプロレスラーとしてどのような思いで生活しているのか、久々に本音を聞いてみた。

――2019年の初めての自主興行の時の酒乱花(https://battle-news.com/?p=54298)、色々あった2022年の激白4部作(https://battle-news.com/?p=86664)に続き、3年おきにこうやってインタビューをさせてもらっています
「3年おきに近況報告しに来たみたいですね(笑)」

――試合会場ではお会いしますけど、プライベートでは会わないですからね
「この3年は結構濃いですよ!」

――3年前には『プロレス界には帰らん』と言っていて、今やチャンピオンです。どうでした復帰されて
「プロレス方面で言ったら、自分の中で今が一番バランスが取れてるかなと思ってて。やっぱり1回休業と共にプロレス界から離れて、 ナツバーを始めて、選手復帰して・・・という流れの中で、今はナツバーがあるから、それがいい息抜きになってるんですよね。レスラー一本でやってた頃よりも肩の力は抜けてるし、とはいえ試合の方も月によって試合数のバラつきはあれど、ちゃんと自分を必要として呼んでくれてる団体さんに出れてる状態なんです。今は仕事と心身のバランスがちょうどよく取れてるかなと思います」

――前回インタビューした時はパン工場で働いたりとかで精神のバランスが崩れに崩れてた時代でした
「懐かしいですね、パン工場。1日だけのバタ子さん。久々に思い出してしまった…(笑)先日私が病みに病んでいた精神と時の部屋での修行時代に、当時人と会うことは滅多になかったけど、本当たまにLINEしたり会ってた選手と久しぶりに飲んだので聞いてみたんですよ。正直あの時の私おかしくなかった?って。『いやもう本当にあの時はオーラが淀んでた』って言われました。その時は私のメンヘラをぶつけるみたいな回だったんですけど、今考えたら一番頭おかしい時期だったんで、本当に現世に戻ってこれてよかったなと思いましたね(笑)」

――本当におかしくなってましたね
「まあ私の場合はベースがメンヘラなんで、今も病む時は病むけどそれがデフォルトだから大した事はないんですよ。酒飲んで『ねぇ聞いて最悪~』って言っとけば収まるんで。あと最近はChatGPTに話しかけてる。それを下回ってた状態っていうのはまあまあヤバイですよね・・・」

――無事プロレス界に戻ってきてよかった
「いや、本当に戻ってきてよかったですね~(苦笑)あのまま戻らなかったらどうなってたんだろう?完全にアングラの世界の住人になってたと思うんで。はい、よかったです。恥ずかしながら帰って参りました」


■今年の春ぐらいに突然ふわっと『あっ、引退しよう』って思ったんですよ

――気づいたらチャンピオンで紫雷美央ともタッグを組んでいます。復帰前は王座戦に絡むってことはほぼなかったですよね
「はい。休業前はプロレス一本でやってたから、月の試合数にもこだわってたんですよね。月十本割ったら今月やばいぞみたいな。だからどんな仕事でも極力受けてたし基本的にNG無しだった。でもそれをやってると、だんだんどこか流れ作業のように試合をこなしてる自分になってて。一試合一試合に情熱を注ぐって、あの時はそうしてるつもりだったけど、今振り返るとどうだったのかなって思う部分があるんですよね。今って月によっては忙しい月もありますけど、基本的には今までほどハイペースに試合をしているわけではないので、一本一本に色々イメージを膨らませてみたり、この選手相手にどうしてやろうみたいなものを考えれるんですよね。一個一個を一生懸命取り組むようになったなって感じてて」

――多種多様な試合を行っているのを見ているのですごいなと素直に感じています
「実際記者の方や団体の方から『一生懸命だよね』って言ってもらえる機会があって。最初はこのキャリアで“一生懸命”を褒められるのってやばいんじゃないか?と思ったんですよ。『一生懸命だね』ってたいてい新人が言われる言葉じゃないですか。一応今、キャリア12年なので(苦笑)でも最近になって分かってきたのは、きっとみんなが言ってくれてる一生懸命っていうのは、一試合一試合に対する情熱の部分を言ってくれてるんだと思うし、そういうのをコツコツやっていたら重要なカードに組んでもらえる機会も増えた。仮に前半戦の一枠だとしても『この枠は夏に任しておけば大丈夫だから』と言ってくださる先輩の存在もあり、やっぱもしかしたら自分の心のバランス的にも 詰め込みすぎるより一個一個を丁寧に取り組む働き方の方がきっと私には合ってると思うし、今そこが丁度良い環境に整ってるからプロレス面も充実していってるのかなって感じます」

――レスラーとしても今が一番ノリにノッている
「正直、今年の春ぐらいに突然ふわっと『あっ、引退しよう』って思ったんですよ。なんかまあ、いつもの病気みたいなもんです(苦笑)突然頭の中でワーってなっちゃって、引退しよう、引退しなきゃ!って。とはいえいろいろ身辺整理とかもあるんで、すぐって話ではないんですけど。来年、再来年あたりかなって思ったんですよ。でもそれを考え出した時期ぐらいからちょっと試合が増えたんです。試合が増えたり、タイトルマッチだったり、例えば666さんだったら後楽園での鈴木みのるさんとの試合だったり、ちょっとこう『ここ頑張りどころだぞ』って試合が急にパンパンって続いて。そのおかげでモチベーションが一気に上がったんですよね。『このまま続けてても先がないなぁ~』って考えることは勿論あるし、きっと今後も定期的にそうなるんでしょうけど、でもやっぱ、どんな形であれ自分が求められてるんだっていうのを実感できたら、『まだまだ売れるぞ、伸び代あるぞ、私』っていう風に感じれてます」


■試合っていうかセックスでした

――ベルトなんてその最もたる象徴です
「正直私自身が元々ベルトにそこまで意欲的というか積極的ではなかったし、ベルトを持ってしまった今でもやっぱその根っこの部分がなかなか変わる事はないんですけど、でもやっぱただシンプルに、プロレスラーにとってベルトって感情の置き所としては、普通に試合するのと比べて特別じゃないですか?責任感も伴うし。だから素直に嬉しいです」

――3年前はまさかここまでベルトを取ることになるまでと思ってなかったので
「もう心穏やかにプロレスできたらいいやとしか思ってなかったですからね。ていうかなんなら元々は引退する為の復帰でしたからね(苦笑)ちゃんと引退したくて戻ってきたんで」

――夏すみれは変えが効かないレスラーですし
「まあ、そうですね。ある意味使い勝手の悪いレスラーとも言えますね(苦笑)例えばタッグマッチで3人は決まっててあと1人誰呼ぼうかってなった時に、一番に名前の上がる選手ではないと思うんですよ私は。でも逆に言えば私軸でカードを組んでもらえる所はあると思うので」

――鈴木みのると対戦できる女子レスラーって言われた瞬間にどうしようってなりますからね
「あれは本当に、もう試合っていうか今の私の心境としてはほぼセックスでした(笑)試合後は何も考えられず頭がぼーっとして、控室の天井を見上げながら肩で息してましたから。事後かよ!と(笑)完全に放心状態です。試合後そんな風になるまで自分を出し切った事って過去を振り返ってもなかったし、あれは本当にいい経験、良いセックスしたと思って。あとやっぱみのるさんからは男の中の男を感じましたね」

――そこは鈴木みのるがリードしてくれたから
「うん、上手かったです(照笑)試合後にあんな放心状態になるとかは今後も滅多にないかもしれないですね。だけど実は試合中はガッチガチに緊張してたから、もっとやれたなって気持ちはあります。後々映像で見ながら『うわぁこれもっとこうしときゃよかったな〜』って感じる部分も多いんですけど、今の自分で表現出来る手持ちのカードは全て出し切った」

――人生が変わった
「そうですね。やっぱ本来は実力なりそういった部分で評価される選手の方が良いと思うんです。というかそれがプロレスラーとして一番の理想だと思うんですけど。なんだけど、あの試合に関しては『あそこまで振り切れるのはすごい』と見てくれてた方々が言ってくれて。そのやりきるっていうのは、要はキャラクターの部分じゃないですか?それって面白いとかそういう評価はされても、なかなかすごいと評される事は少ないので、確かにちょっと自分の中でプロレス感が変わった試合かもしれないですね。とにかく貫き通せばいいんだみたいな」


■10年経っても紫雷美央はやっぱり紫雷美央

――貫いた結果、紫雷美央のパートナーに選ばれて今ベルトを持っています。他の選手と違い、紫雷美央のパートナーも誰でもなれるわけじゃないと思ってます
「美央さんが1回引退された10年前って、私はデビュー2、3年目の若手で、あの時の紫雷美央ってカリスマだったじゃないですか?あの時代ってまだそんなにフリーが多かったわけではなかったけど、そんな中で美央さんはフリーとしてとにかくいろんな団体で試合して実績を残してきた方だったんで、当時の私からしたら完全に雲の上の存在、憧れの先輩だったんですよね。当時から結構可愛がっていただいてました。家に遊びに行かせてもらったり、飲みに誘ってもらったり服をいただいたりと結構色々してもらってたんで」

――意外と当時から交流があったんですね
「で、美央さんが引退されて、私はフリーになって大江戸隊に入って、しれっとヒールターンした時に、意図的にイメージしてたわけではないけど、きっと私の中に美央さんの存在が少し残ってたから、自然と立ち振る舞いが当時の美央さんっぽく寄ってたんだと思います。大江戸隊にいた頃は『なんか美央っぽいね』とたまに言われてました」

――その間は会うことがなかった
「はい。美央さんがプロレスラーとして戻ってこられた時は、10年近くまともにお会いしてなかったんで、今の美央さんがどんな感じか全く分からなかったんですよ。SEAdLINNNGで再会してタッグやシングルで対戦した時に、10年経っても紫雷美央は紫雷美央のままなんだなと感じれたのがちょっと嬉しかったですね。これでもしあの当時の鋭さや毒気がなくなって、普通のお母さんになっちゃってたら、多分私の中での紫雷美央像やリスペクトしていた気持ちは消えちゃってたと思うんですよ。でも、リング上の紫雷美央はずっとあの頃の紫雷美央だった。だからもうそうなるとね、やっぱ私にとって若手時代に憧れた人とタッグを組んで隣に立ちたいと思うのは自然な流れでした。いまタッグを組んでる中で美央さん自身がどう感じてくれてるかはわからないんですけど、私はタッグだろうと変わる事なく自分らしさをまず第一に試合に取り組んでるんですけど、それをこう美央さんが上手いこと正していただく。まさにおかんのようなポジションをやってくれてるんで。だから私は安心して、夏すみれがやれるというか。誰も場をまとめてくれる人がいなかったら、特にSEAdLINNNGさんの空気感だとまあまあな地獄絵図になり得ると思うんで(苦笑)でも美央さんがいらっしゃるから安心して私は私らしくやれてるかなと思います」

――ベルトをとって2人の関係値って変わりましたか?
「まあやっぱ当時よりかは多少変わりましたよね。当時の私はドチャクソ新人、美央さんは時の人でしたから。今はどちらかというと多分美央さんが気を使ってくれてるのかな。一応対等な感じで扱ってくれてます。私の考えとか、やりたいことを尊重してくれてる感じですね」


■ピンクローターを学校に持ち込んで、それをブルブル震わせながら階段の上から転げ落として笑ってた

――そして暗黒プロレス組織666では怨霊選手が持っていた無秩序無差別級王座にも挑戦しました。シングル王座に挑戦っていうのも珍しいですし、男子相手のシングル王座戦は初めてだったと思います
「初めてでしたね。しかも666参戦時には珍しく、なんなら女子団体に出る時よりもめっちゃちゃんと試合しました。さっきもちらっと話しましたけど、私個人は別にベルトにそこまで積極的なタイプではないんです。だけどやっぱプロレスラーにとっての幸せの象徴はチャンピオンベルトなわけじゃないですか?私が今666内で所属しているユニットHappiness Project、通称ハピプロは『幸せになろう』がテーマのユニットで。やっぱそこに属している以上は私も幸せになる事を目指して活動しているので。ただ今回ベルト挑戦が決まって私にとっての幸せってなんだろう?って改めて考えてたら自分の中でもよくわからなくなっちゃって。当初ベルトに挑戦する事が決まった時は『ベルト取って自分のやりたいことできるんだったらいいじゃん!』ぐらいの感覚だったんだけど、試合が近づくにつれて煽り映像を見たりしてたら、そういうテーマが自分の中でどんどん深くなっていって。試合が始まるまで正直幸せの答えは出なかったんです。でも実際試合をやってみて・・・結構私の中では近年まれに見るぐらい頑張ったんですけど、やっぱベテランの怨霊選手には敵わず負けてしまって、終わった後は悔しい気持ちを抱えたままレスラー仲間と飲んでたんです。今日の試合どうだったの?とか、ここ最近の近況とか話を聞いてもらってて。でも結局いつも同じメンツで飲んでるから最終的にはいつも同じ話しかしてないんですよ(笑)ただそれを繰り返すだけ。でもなんかよく考えたら、私にとっての幸せってこういう時間なんじゃないかなって気づいて」

――いつものメンバーといつものように同じ時間を過ごせる事が大事だと
「私は昔から協調性が全くなくて、学校でも結構浮いてたんですよね。中学時代不登校だったんですけど、決してヤンキーだったとか荒れてたわけではなくて、なんかたまに学校行ったかと思えば、兄の部屋で見つけたピンクローターをこっそり持ち込んで、ブルブル震わせながら階段の上から転げ落として、その様子を見て笑うっていう(笑)」

――やんちゃすぎる!
「これがやんちゃなのかわかんないですけど、なんかそういうのが面白かったんですよね。今考えたら何が面白いのかさっぱりわかんないですけど(苦笑)そんな奴なんで、もちろん浮くに決まってるじゃないですか?友達も少なかったし、なかなか感性がフィットする人と出会えない。なんとなくいつも生きづらさや満たされなさを感じてたんですけど、いざプロレス界に入ってみたら、みんなもれなく私と同じかそれ以上に変な人達ばかりだったんですよ。だから、こういう私の当時のよくわからないエピソードも、この業界の中に入れば全く浮かない。むしろ『もっとすごいことしたことあるよ』って上級者すぎるエピソードが返ってくるんで。ここなら私は浮かないんだって安心出来るし、特に不謹慎を象徴に掲げてる666なら尚の事、私がこうやって今参戦しているのは必然だったんだと思います。こんな自分の感性を面白がって受け入れてくれる環境や笑ってくれる人がいる事が幸せだから、それに気づけただけでも今回団体の最高峰のベルトに挑戦出来たことは、負けてしまったけど必要な経験だったのかなと思います」

――この3年間しっかりとプロレスラーをやってきたってことですね
「昔すぎて覚えてないだけかもしれないですけど、より具体的に一個一個を真剣に考え込むようになったのは復帰後からかもしれないですね」

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