引退した小川徹が慰労会に戦友ら60名が集結!小川は「アマチュアの大会を主催したい」と後進育成に意欲

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 7月28日夜、都内豊島区の「CAFÉ NOISE」にて、小川徹の慰労会が開かれた。
 慰労会には選手時代の小川を支えたファンやスポンサーらが集まり、小川をねぎらった。

 小川は2014 年、パンクラスでプロデビュー。翌2015年には第1回ネオブラッド・トーナメント スーパーフライ級優勝で注目を集めた。その後、2019年までコンスタントに闘い続けてきた、
 ヒザを傷め、2019年9月のライリー・ドゥトロ戦を最後に1年2ヶ月ケージを遠ざかっていたが、2021年5月、フライ級 暫定王者決定4人トーナメントで復帰。同年10月、上田将竜を破り暫定王者に。その後、第6代王者となった。
 翌2022年3月、猿飛流を挑戦者に迎え、初めての防衛戦に挑むも、判定負け。王座を譲ることとなった。
 その後は心機一転、DEEPに舞台を移したが、安谷屋智弘、原虎徹に敗れ引退を決意した。
 そして2023年3月、引退試合を行なったことは、まだ記憶に新しい。先に引退していた同門の清水清隆が一夜限りの復活、本気の3分1Rで選手生活をしめくくった。

 感動の引退試合から4ヶ月。慰労会に出席した小川は、やや笑顔が丸くなり、柔らかい雰囲気になっていた。
 小川は会場内をくまなく歩き、1人1人に声をかけていく。あちこちで楽しそうな歓声が上がり、笑顔が溢れる。
 小川は以前から障害を持つ子どもたちに格闘技を教えるボランティアを行っている。パーティーには出席できない子どもたちからのメッセージがズラリと並べられた大きなボードがひときわ目を引いた。

 集まった60人ほどの出席者の中には、現役格闘家の顔も見えた。猿飛流の実弟で、修斗で活躍する榎本明、キックボクサーの麗也、同門でONEで活躍中の若松佑弥、小川とチャンピオンシップを闘った猿飛流らが駆けつけ、はなむけのコメントを贈った。

 榎本「TRIBEに出稽古でお世話になっていて、兄より僕の方が先に知り合っていました。兄との試合が決まった時はちょっと気まずかったんですけど(笑)、本当に良くしていただきました。これからも長くお付き合いをお願いしたいと思っています」

麗也「小川さんとは7〜8年前から一緒に練習させていただいて、CREEDでも衣類提供していただいたりして、選手としても人間としても尊敬しています」

若松「小川さんには弟のように可愛がっていただいて、毎日のようにしごかれていました。プロ練習で会えなくなるのが寂しいです。小川さんはこれからも色々頑張ると思うので、僕も負けないよう頑張って行きます」

猿飛流「小川さんとは、僕より弟の方が先に知り合っていて、弟から小川さんのことは聞いていました。本当に良くしていただいているという話をよく聞いていました。その頃、僕はパンクラスでまだ全然下の方だったので、上位ランカーの小川さんに自分から声をかけるなんて恐れ多くてできなかったです。でも、3年くらい前、僕が前座の試合で勝った時に、小川さんの方から『いつか闘えたらいいね』と声をかけてくださったんです。本当に光栄で、今でもそのことはよく覚えています。そして、一昨年、僕がランキングに入って、チャンピオントライで上田将竜さんっていう選手、小川さんのライバルだった選手にギリギリ勝って、小川さんは秋葉太樹選手に勝って。でも、決勝の前に僕が怪我で欠場してしまったんです。それで、上田さんが決勝に出て、小川さんが勝って暫定王者になったんですね。その後、小川さんは正王者になって、初の防衛戦で僕との試合を受けてくれました。僕は怪我で欠場していたので、本来は1試合くらい挟まなきゃいけなかった。でも、断ってもいいのに小川さんはやってくれたんですね。その試合は、一生記憶に残るくらいの試合でした。もう酸欠になりかけて。何回も心が折れそうになった試合でした。動画をぜひ見てほしいです。でも僕は去年、ベルトを守りきれずに失ってしまったんですね。でも小川さんは、試合後すぐメッセージをくれて『かっこよかったよ。僕は猿飛流くんを誇りに思うよ』って言ってくれて、すごく救われました。負けて一瞬、引退を考えたんですけど、小川さんが他団体で闘う姿を見て、もう1回やってみようかなと思えたんです。本当に兄弟で小川さんにはお世話になっています。ありがとうございます」
 思いがけないエピソードや初めて聞く選手たちと小川の温かいつながりに、参加者は大きな拍手を送った。


 そして、現在の心境を小川に聞いた。

――お久しぶりです。
小川「去年12月に引退を発表して、それから少しゆっくりして、今年3月に引退セレモニーをやっていただいて。ああ、終わったなあという感じで。
 それから、スポンサーの方々に挨拶に回ったり、それまでなかなかゆっくり会えなかった人たちとご飯に行ったりしていました。気持ち的には落ち着いています。振り返ると、よくあんなに頑張ってたなあと。今でもトレーニングはずっとやっていますけど、選手時代ほどつらいことはやっていないので、疲れたなと思ったらやめたりしていて。これを週に6回とか、1日2回とか、スゲーなあと思ったりして。今も試合を見るといいなあと思います。以前は選手目線で戦略とか考えながら見ていましたけど、今は『どっちが勝つんだろう!?』みたいな、格闘技ファン目線で見て、見る楽しさも感じたりしています。でもやっぱり、勝敗がつくと『ああ……また勝ちたいなあ』『気持ち良さそうだなあ』って思ったりして(笑)。」

――ジムには行ってらっしゃるということですが、後進の指導などはされないのでしょうか。
小川「そういうのは予定してなくて。でも今度、アマチュアの大会を主催しようと思っているんです」

――いつ頃ですか?
小川「10月8日で、ちょうど昨日くらいで場所も決まりました。学芸大学のLIBERTAS学芸大学っていうジムでやります。声かけはまだこれからなんですけど、いろんなジムに通っている一般会員さんが楽しんで力を試す場、日頃のモチベーションアップ的な場にしようと思っています」

――やろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか。
小川「やろうと決めたのは、ほんの2週間前くらいなんです(笑)。これから、格闘技のために何かできないかな、関わっていけないかなと考えていて。以前からやっているCREEDっていうアパレルブランドでも、商品提供とかさせてもらってるんですけど、他にも何か関われることはないかなと考えていたんです。
で、ちょうど2週間くらい前に長南(亮)さんとご飯に行って、話していて、半分冗談みたいに『お前、アマチュア大会やればいいじゃん』って言われたんです。それまで全然考えてなかったんですけど、ピンときて。『あ、なんかちょっと面白そうかもしれない』って思って。それで、一晩考えて、改めて長南さんのところに話を聞きに行ったんです。長南さんはD-NET(国内の格闘技ジム、道場のネットワーク)もやってらっしゃるし、TTFとか自分で興行もされているので。そうしたら『手伝えることは手伝うから、やってみればいいじゃん』って言われて、やることになりました」

――プロを目指していないアマチュアの人が練習の成果を試せる場ってなかなかないので、いいですね。
小川「引退して感じたのが、試合の場っていうのは本当に特別なことだなっていうことなんです。練習して、食事制限して減量して、精神的にもつらくなってきて、でも頑張って、それで試合に勝った時の開放感って非日常なんですよね。
 プロになるっていうのはみんながみんな出来ることじゃないですけど、週に1回、2回練習している一般の格闘技好きな人たちも、たとえば1ヶ月先、2ヶ月先に試合があるってなれば、普段の練習も変わったり、食事もちょっと気にしたりとか。それで試合して、終わって打ち上げしたりとか、そういうオン・オフを作るきっかけになったらなと思うんです」

――ルールはもう決まっているんでしょうか。
小川「煮詰めるのはこれからですけど、2分2Rでやろうとは考えています。階級は基本的な階級で、あとは年齢とかで分けたりとか。とりあえず、今はそれが楽しみですね。スポンサーの方とか友達にあったりすると、指導しないの? ジムやらないの?っていう声をもらったりはしてたんですけど、あまり自分はそっちじゃないかなと。あと、ジムで場所が固定されちゃうと、自由に動けない部分がありますよね。そういうのが僕の生き方にあんまり合ってなくて。フラフラしてる方が自分のスタイルかなって(笑)。今は時間がけっこうあって、フットワークが軽いんですよね。だからいろんな方に会えたりとか、いろんな情報を知れたりとか。このアマチュア大会の話も、フラッと長南さんとご飯を食べに行って考えたことで。こうやって発展していくと思うので、出来るだけ気軽な方がいいかなと思っています」

――今まで練習したものをケージで出してきたので、今度はご自分に中に色々入れていく時期なのかも知れませんね。
小川「そうかも知れないですね。とにかくいろんな人と話をしていて、楽しいですね」

――他には何か考えてらっしゃるんですか?
小川「はい。以前に取材していただいた『太陽の家』で、障害を持った子どもたちやその親御さんたちが、気兼ねなく旅行出来る、そんな場所づくりを考えています。今は補助金とかの申請は動き始めていて、工事自体も始まっているので、今年とか来年ぐらいからスタートしようと思っています」

――具体的にはどんな内容なのでしょうか。
小川「障害のある子どもたちの宿泊所をつくるということですね。もちろん、普通のホテルとか旅館にも泊まれるんですけど、やはり親御さんが周りにとても気をつかわれるんですね。親御さんも気軽に気持ちよく泊まれる施設が今のところないので、あったらいいなということで。それが伊豆の方なので、今はたまに伊豆に行ったりして、現地の商工会の方と打ち合わせをしたりしています。もしかしたら、向こうの管理人みたいなこともするかも知れないです。東京と伊豆を行ったり来たりになる可能性もありますね」

――どんなホテルになりそうでしょうか。
小川「普通、ホテルって、ベッドメイクとかってスタッフがやるじゃないですか。このホテルの場合はそうじゃなくて、ベッドを片付けたりとか掃除をしたりとかも、子どもたちが自分でやるんです。『来た時よりも美しくして帰る』をテーマにして運営するので、こちらが全部用意したり、全部片付けたりとかっていうことではなくて。なので、管理人は、入った時と出る時の確認とかっていうことになると思います。あとは、電車の駅から距離があるので、送迎したりとか。まだ詳しい役割はこれからですね」

――教育的な意味もあるんですね。
小川「そうですね。『太陽の家』では、そういうこともどんどん取り入れて行きたいという方針ですね。ご飯とかも、ある程度、自分たちで作ったり」

――学校から行く林間学校みたいな感じですね。
小川「はい、そういうイメージです。子どもたちと親御さんたちとコミュニケーションを取ったり、一緒に遊べる空間を作ったり。僕も楽しみなんです。最近、物価が高騰しているので、予算がかなりオーバーしてしまって、それで助成金とかを申請しているところですね」

――すごく楽しそうです!
小川「そうですね。これからも、楽しく生きていきたいです。今まで自衛隊も楽しかったし、格闘技の選手としても楽しかったですし、これからも楽しく生きて行きたいですね。あとは、応援してくれた方やスポンサーの方って、今まで一方的に応援してもらう立場だったんですよね。たとえば試合が決まりましたってなったら、8000円、9000円するチケットを買っていただいて、せっかくの休みの日曜日を半日かけて応援に来てくれて……っていう、一方的に応援される立場だったんです。これからは、僕の方からもっと関わって、何か自分ができることをやったりとか。僕の試合を見ている中で格闘技を好きになってくれた方やジムに通い始めた方もいたりして、そういう人には教えたりもしたいなと。それはジムという形ではなくて、本当にボランティアで、何人か集まってレッスンしたりっていう感じで関わって行きたいです」

――今後も、格闘技を通じての活動をされていくのは素晴らしいです。
小川「これからも会場には行きますし、ジムでの指導はしないので、セコンドにはつかないと思いますけど、ずっと関わって行きたいです。やっぱり格闘技は、生で見るのが一番ですよね。チケットを買って見に行きたいです。選手からちゃんとチケットを買うっていう行為から気持ちが入るじゃないですか。選手が直接チケットを渡してくれて、その気持ちの入ったチケットを買って、実際に会場で生で試合を見て……僕、たまに試合を見ていて泣きそうになることがあるんですよ」

――皆さん、きちんと働いて得たお金をチケット購入に割いてくださるわけですもんね。そんな格闘技、小川さんに取ってはどんなものでしたか。
小川「格闘技は自分を成長させてくれるものですね。TRIBEが長南さんの学校みたいな感じでしたし、それが僕にとってはとても良い空間でした。そういう感じを伝えて行きたいです。僕を通して格闘技を好きになってくれた人もいますし、もともと繋がりがあった人も、どんどん格闘技を好きになってくれて。今日は何人か現役選手も来てくれているんですけど、これからは、他の選手を通して、格闘技を好きになってもらえたらと思います」
 また、子どもたちの施設は、一般の利用もでき、格闘技をやってきた経験から、生活をリフレッシュするため、明日への活力を養うために利用することもできるという。

 選手時代も、後輩たちや障害を持つ子どもたちのために力を尽くしてきた小川。現役を退いても、格闘技への夢や憧れを持ち続ける。選手時代の経験をもとに、人々がより格闘技を楽しんだり、より良い生活を送るために尽力する。これからも、その精神は変わらない。そしてまた、小川が格闘技で培ったものを今後に活かしてくれることは、格闘技ファンにとっても嬉しいことだ。
 小川を心から労うとともに、今後の活躍に期待したい。

(写真・文/佐佐木 澪)

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