引退試合で後輩・中村と殴り合って完全燃焼した吉田。かつての仲間に加えて、両親の顔を見た瞬間に思わず男泣き!
ASTRA
吉田秀彦引退興行〜ASTRA〜
日時:4月25日(日) 開始:16:00
会場:日本武道館
観衆:12093人(超満員)
25日、日本武道館で行われた『吉田秀彦引退興行ASTRA』。本来、昨年大晦日に有明コロシアムで行われるはずだった戦極(SRC)での石井慧戦で引退するはずだった吉田秀彦だったが、最後のリングと決めていた戦極の消滅により(※ASTRAの中ではそう説明された)、石井戦は"別のリング"で行われたため、吉田は引退試合を仕切り直すことに。そこで吉田の引退試合を行うべく、所属先のジェイロックが主催して行われた総合格闘技のイベントがこのASTRAである。
吉田が正式にASTRAで引退することを発表してから、その対戦相手として様々な格闘家の名前が挙がったが、最終的に決まったのが同じ吉田道場の中村和裕。自ら志願して介錯人という大役を務めることになった中村だが、煽りVでは「吉田に対するジレンマ」と紹介された青い柔道着姿で登場した中村は、ステージ上にあぐらをかいて座り込むと、目を閉じて大きく息を吐いてから入場。そして柔道着を脱ぎ捨てた。対する吉田は引退試合にも関わらず、かなりリラックスした表情で入場。そのセコンドには盟友・高坂剛と高橋義生がつく。
リングサイドからは古賀稔彦さんをはじめ、秋山成勲や五味隆典、谷川貞治FEG代表や笹原圭一DREAMイベント・プロデューサー、さらに来日してリング上から挨拶までしたエメリヤーエンコ・ヒョードルといった"かつての仲間"たちが見守る。
そして道着を着たまま試合に挑んだ吉田に対し、中村は打撃勝負を挑む。先攻してパンチを打っていくのは中村。しかしいま一歩踏み込むことが出来ず、決定打とならない。そういった展開が続いていた2R途中、吉田が自らの頬を叩いて「打ってこい!」と挑発。これを見た中村も自らの頬を張って殴りかかっていき、組み付いてきた吉田をうっちゃうるように投げ、四つん這いに倒れた吉田に馬乗りになって殴りかかる場面も。
これで熱くなった吉田は3R開始前に道着の上着を脱ぎ捨て、愛弟子・カズと拳を合わせると最後の5分間に全力投球。スタミナ的にもかなり苦しそうだった吉田だが、時折中村に組み付いた際には笑みを浮かべているようにも見えた。中村は残り1分あたりでついに吉田の腕を取って腕十字を狙うが、吉田のクラッチが外れない! 観客も最後に中村の吉田超えに期待して声援を送るが、結局最後まで吉田のクラッチが切れることなく試合終了のゴングが鳴った。
判定の結果、3-0で中村が勝利。20kg近い体重差があり、ものすごいプレッシャーの中、最もやりにくい相手と最後まで闘った中村を激励した吉田は、「あとはこの総合格闘技ASTRAの舞台を、カズが続けていってくれればいいなぁというふうに思います」とASTRAという舞台を託した。
すると、突然『SPEED2』が鳴り響いて桜庭和志が登場! この日は試合と試合の合間にヴァンダレイ・シウバや北島康介といった人たちからのビデオメッセージが流され、そこに桜庭も登場し「今日、終わったらコレ持っていきますから」と"卒業"とのし紙に書かれた一升瓶をアピールしていたのだが、本当に本人が持ってくるというサプライズに観客は大喜び! マシンのお面を被って登場した桜庭は吉田に一升瓶をプレゼントすると、「お互いに違う世界に行きますが、長生きしましょう!」と贈る言葉。吉田とは同世代の桜庭だが、桜庭はまだ格闘家として"長生き"しなくてはならない。
さらに引退セレモニーが始まると、藤田和之やミノワマン、そしてこの日出場した選手たちに混じって中村大介のセコンドについていた田村潔司もリング上に。かつての仲間たちに囲まれた吉田は笑顔だったが、最後にご両親が花束を持ってリングに上がると、思わず顔を覆い涙で顔をくしゃくしゃにしながら花束を受け取った。
そして選手たちがリングを降り(この際、桜庭の目の前が放送席で、そこには秋山が......)、リング上に吉田1人になると10カウントゴングが鳴らされた。目を閉じてゴングを聞いた吉田は、そのあとリングを降りると柔道キッズが待っているステージ上へと移動。そしてマイクの前に立った吉田は「この8年間、総合格闘技をやってきて本当に悔いはありません。腹一杯総合格闘技をやりました。そしていい仲間に出会うことが出来ました。本当に自分の宝物になりました。そして一生の思い出になりました。この思いを忘れず今度柔道界に戻ります」と声を詰まらせながら挨拶すると、「最後になりましたが、8年前から自分と一緒に、この総合格闘技に力を返してくれた國保尊弘! この場を借りて本当にお礼が言いたいです。國保尊弘、最高!」と、最後は「柔道最高!」ならぬ「國保最高!」で挨拶を締めくくった。
「向こう(=中村)も遠慮してる部分はあったのかなと感じますけど、パンチは痛かったです。体中アザができてます」と言いながらも、実にスッキリとした表情でインタビュースペースに現れた吉田。「スッキリ感はありますね。これで本当に終わりかなというのが試合するまでは分からなかったですけど、寂しい気持ちはありますが、気持ちの中で悔いはないですね」と語ってから、8年間の総合格闘家生活を振り返って「観客の熱い声援があったり、勝ったときの喜びが会場中のお客さんと一緒に味わえるのが嬉しかったですね。演出もアマチュアにはない演出で、気持ちが高ぶるのがプロのリングは違うなと思いましたね」とアマチュア時代との違いを語った。
なお、吉田がプロとしてのファイトスタイルを教えられたようで一番印象に残っているのが、PRIDEでのシウバ戦。一番辛かったのはPRIDEがなくなったときだという。今後については、柔道界でアマチュアとプロの壁を変えていくことに尽力していくと語った。
吉田と入れ替わるように大会を総括するためにインタビュースペースに登場した國保尊弘代表は、目に薄らと涙を浮かべながら「この大会をやろうと決めて発表して、本当に色んなことありました」としみじみ語った。その苦労を報いるように、最後の挨拶で吉田が國保代表の名前を出してことに関しては「個人的に素直に嬉しいというところですけど、最後はファンに発信してほしかったなと。吉田も分かりながらあえて言ったんだなと思います」とやや複雑な様子。
気になるのはASTRAが今後も継続されるかどうかだが、國保代表としては「いまのところ考えていません。選手たちが出る場所が続いて、総合格闘技が続いていくことが吉田秀彦の願いだと思ってます。頑張ってる選手が、強い選手が出れる、その場があればそこに協力するだけだと思います」と明言を避けたが、吉田から「ASTRAを引っ張っていってほしい」と託された中村は「吉田さんと同じような引っ張り方はできないと思うんですけど、自分ができる範囲でASTRAを引っ張って行こうと思います」と答えている。
今後、ジェイロックとしては吉田道場の選手が世界を含めてどういう舞台に出たいのかを相談して決めていきたいとのことだが、ASTRAでは現在はUFCが権利を持っているPRIDE時代の映像が多数使われた一方で、戦極時代の映像は一切流れなかったが、DREAM(FEG)の選手や関係者は多数来場していたという点は見逃せない。今後、小見川や中村がどのリングに上がるかも注目だ。
▼オープニングファイト第1試合 バンタム級 62キロ契約
●小森亮介(日本/吉田道場)
2R終了 判定3−0
○村田卓実(日本/和術慧舟會A−3)
▼オープニングファイト第2試合 ミドル級 84キロ契約
○坂下裕介(日本/TEAM CLOUD)
1R 2分04秒 TKO(グランドパンチ→レフェリーストップ)
●長井憲司(日本/U−FILE CAMP 赤羽)
▼オープニングファイト第3試合 ヘビー級
●誠悟(日本/フリー)
2R終了 判定0−3
○バル・ハーン(モンゴル/チーム新日本)
▼フェザー級 65キロ契約
●長倉立尚(日本/吉田道場)
1R 1分04秒 TKO(グランドパンチ→レフェリーストップ)
○毛利昭彦(日本/毛利道場)
▼ウェルター級 77キロ契約
●白井祐矢(日本/TEAM M.A.D)
1R 3分59秒 TO(腕ひしぎ十字固め)
○チェ・ミルス(英国/M1グローバル/チーム・トロージャン)
▼ライト級 70キロ契約
○中村大介(日本/U−FILE CAMP.com)
3R終了 判定3−0
●天突頑丈(日本/PUREBRED)
▼ライト級 70キロ契約
●小谷直之(日本/ロデオスタイル/チームZST)
3R終了 判定1−2
○ホルヘ・マスヴィダル(米国/アメリカン・トップチーム)
▼ウェルター級 77キロ契約
●長南亮(日本/TEAM M.A.D)
2R 1分26秒 TKO(グランドパンチ→レフェリーストップ)
○チャ・ジョンファン(韓国/CMA KOREA/冠岳BJJ)
▼ライトヘビー級 95キロ契約
○エンセン井上(米国/PUREBRED)
1R 2分10秒 TO(腕ひしぎ十字固め)
●アンズ・"ノトリアス"・ナンセン(ニュージーランド/ETK)
▼フェザー級 65キロ契約
○小見川道大(日本/吉田道場)
3R終了 判定3−0
●ミカ・ミラー(米国/アメリカン・トップチーム)
▼無差別級
●吉田秀彦(日本/吉田道場)
3R終了 判定0−3
○中村和裕(日本/吉田道場)
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