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佐藤光留ロングインタビュー【第2回】

佐藤光留ロングインタビュー【第2回】

佐藤光留ロングインタビュー

2008年のプロレス本格参戦時から主戦場にしていたDDTから「旅に出ることにした」佐藤光留。DDT1.26後楽園大会が光留にとって、一応DDTラストマッチとなったが、現在の光留の主戦場となっているのが全日本プロレスだ。
光留は武藤全日本の頃から全日本に参戦するようになり、大和ヒロシという好敵手を見つけたが、2013年の全日本分裂騒動で大和はWRESTLE-1へ。
しかし光留はその後も全日本に定期的に参戦し続ける道を選んだ。佐藤光留ファンの中でもなぜ光留がDDTから旅立ってまで、新生・全日本に上がり続けるのか疑問に思っている人はいるだろう。その辺のことも約15000字に及ぶロングインタビューの中で語ってもらった。【取材・文/佐瀬順一】

ーー飯伏選手なんかは自分の才能だけで新日本と契約したわけじゃない。新日本にいたほうが多くの人の目に触れる機会が増えるし、そこでDDTにも興味を持ってくれる人がいればいい。新規のファンをDDTに連れてきたいという思いで二団体所属という道を選んだ。

光留 飯伏さんはプロレスを横に広げていきたいタイプだと思うんですよ。でも僕はプロレスを縦に広げていきたい人間なんです。だから結局、これは根本的なものですけど、インディーってどれだけ大きくなってもメジャーにはなれないんです。なぜなら、やっていることがメジャーじゃないから。

ーーほうほう。興味深いですね。具体的にどういう部分が?

光留 インディー・メジャー理論っていうのはいまだに僕の中にあって、どっちがいい・悪いじゃなくて、両方出ているから分かるインディーとメジャーの違いがあるんです! それを考えたときに、結果的にインディーから出てメジャータイトルを獲るような、誰もが知っているプロレスラーになったのは飯伏幸太、関本大介、佐藤光留だけなんです! このお二方に名前を並べるのは非常に申し訳ないですけど、立場こそ違えど継続的に(メジャーにもインディーにも)出ている人間っていうのはそこだけなんです。

ーーまぁまぁもっといるのかもしれないけど、確かにその3人はインディーにもメジャーにも継続的に出ていて、タイトル戦線にも絡める選手ではありますね。

光留 何が彼ら2人と僕が違うかって言ったら、飯伏幸太みたいな横に広がっていく、初めて見た人にも分かるすごい動き。関本大介も初めて見た人でもすごさが分かる。でも佐藤光留はたぶんマニアが見て、「こいつってインディーでやってたけど、メジャーで見ても全然違和感ないんだな」って思ってもらえるインディー選手なんですよ。

ーー光留選手の場合は総合に出ても、基本的には変わらないですからね。

光留 はい。それはプロレスを大きなものにしていくっていう部分の考え方の違いなので。収入は僕のほうが確実に上がったと思っていますけどね!

ーーん?

光留 ダハハハハ。でも旅に出たときにその考えを突き詰めることっていうのは、(DDTを離れる)理由のひとつですね。だって中澤マイケルが世界ジュニアに絡めるかって言ったら絡めないですよ。地方で諏訪魔&ジョー・ドーリング組と出来るかって言ったら出来ないですよ。マイケルだけじゃなくてほかの人も。

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新生・全日本、初のビッグマッチ2013年8月25日の大田区大会で、当時金丸義信が保持していた世界ジュニア王座に挑戦した光留

ーー団体というか会社組織としてもメジャーとインディーの差はありますね。メジャーはスタッフもいわゆるビジネスマンというか、団体というよりは興行会社として、きちんとしたスーツを着た人たちが会社で働いているイメージがある。インディーは良くも悪くもスタッフも選手が兼務しているケースが多いし、身内による手作り感がある。でもDDTなんかはもっとビジネスマンによる会社っぽくなったら、DDTらしさがなくなっていっちゃう気がする。高木さんを中心とした、文字通りチームで作り上げているからこそ、DDTらしい素晴らしさが表現出来ているんだと思う。

光留 F1とラリーの差ですよ。舗装した道路で走るならF1が速いです。でも山道走るならラリーの車が一番速いです。だけど一般人から見て「どっちが速い?」って聞かれたらF1なんです。これは『ワイルド・スピード』で……

ーーまたか!(笑)

光留 僕は車が好きなんで(笑)。こんな(険しい)道を走破するなんてラリーカーはすごい! 誰よりも速く走るF1カーもかっこいい! でも世間的に見て、車としてどっちのほうが速く走っている、スピードが出ているんだって言ったらF1なんですよ。それはF1の中にもいろいろなレギュレーション(=規制・規則)やスタイルがあって、それが全日本だったり、新日本だったり、ノアだったりするので。だからプロレスを見たときに、これはラリーかF1かって考えながら見たときに、意外と全日本プロレスってF1なんですよ。車の“速い”っていう根本に近いものが全日本プロレスにはあるんですよ。

なぜDDTを離れて、主戦場に全日本を選んだのか

ーー今回の件を聞いて「なぜ佐藤光留はDDTを離れて、主戦場を全日本にするんだ!」って部分に、疑問というか不安を感じているファンがいると思います。やはり昨年のあの大量離脱やオーナーの騒動のせいで、まだまだいまの全日本は厳しい状況にあると思います。

光留 いま、ネットニュースの取材を受けておいてこんなこと言うのも何なんですが、携帯1個でプロレスの試合動画が見られる時代に、生で見る迫力を頑なに守り続けている全日本の男気ですよ。

ーーあ〜、確かにいまの全日本は実際、生で見ると面白いんですよね。大男たちのド迫力なぶつかり合いから、ジュニアの試合、コミカルな試合までバランスが取れていて、お客さんを見ても満足そうに帰っていく人が多いように思えます。

光留 それは大きかったですね。諏訪魔さんは嫌がるけど、男が男に惚れるというかね。やっぱりあのとき(=オーナー騒動)にいち早く「(全日本に)残る」って表明して、武藤(敬司)さんに「お前、廃業するぞ」って言われても「僕は全日本に残ります」って言って。大森(隆男)さんも「2回も全日本を裏切れない」って言って。みんな、いろいろ思うところはあるんだろうし、万人受けはしないけど、その男の世界にちょっと共感した部分はあるんです。

ーー新生・全日本は確かに男臭い(苦笑)。

光留 本当にね……何か『柔道一直線』みたいな感じ。そのうちウルティモ・ドラゴンさんがピアノの上に乗って、足でピアノを弾き始めるんじゃないかってくらい(笑)。

ーーこれだけ情報化社会で、ファンもプロレスの裏も表も知り尽くして、いつの頃からかプロレスを「うまい」「ヘタ」で語るようになった時代に、諏訪魔選手は「強さ」で語れるレスラーですよね。生で見れば見るほど「諏訪魔は強いなぁ」って素直に思えるレスラーですね。

光留 あの人、僕のことも本気で殺す気ですからね。

ーーわぉ!

光留 総合格闘技でいろいろな選手とやりましたよ。それこそUFCに出場した選手、何人も試合してますもん。その人間から見て、あんな身体能力を持った人間はいないですよ! 身体能力だけで言えば、大晦日の(格闘技イベントに出るような)ヘビー級選手とか、(エメリヤーエンコ)ヒョードルと戦っていいシーンを作った選手ともスパーリングもしましたけど、根本に持っている生物としての力で言えば(諏訪魔は)本当にヤバイです。アレはヤバイです! ただ、いまは写真で見る、ネットで見る時代なので、やっぱり空中を飛んでいる飯伏さんのほうが良く見えるんですよ。けど、それがプロレスリングの中心になってしまったら、それはもうプロレスリングではなくなると思うんですよ。

ーーあー、言いたいことは分かります、分かります。

光留 プロレスリングってプロフェッショナル・レスリング、プロモーション・レスリングの二通りの意味があると思うんですけど、プロモーションだとしてもレスリングでなくてはいけないんですよ。そう考えたときに、サバンナで逃げるシマウマを虎が二回転しながら上から押し潰すかって言ったらしないですよ。

ーーう、うん…

光留 やっぱり速さで追いかけて、足に食らい付いて、上から抑え込み……これこそがレスリングですよ。その根本がなければいけない。その中で奇怪しながら魚食べるタコだったりするのがいるだけの話であって(苦笑)、根本的にレスリングっていうのは闘いなので。だからそれを守る勇気っていうのはすごく大事だと思うんですよ。だけど伝わらないです。野菜です。

ーーん、野菜?

光留 炭水化物か野菜で言ったら野菜です。みんなお腹が減っていたら、野菜スティックじゃなくておにぎりを食うんです。ちょっといいなと思うものは大体肉ですよ。ポテトサラダのCMなんて見たことないじゃないですか。だけど美味しそうなハンバーグのCMはいくらでも流れるんです。美味しいのは肉だけど、身体を作る上で大事なものって野菜じゃないですか。全日本プロレスがもしそれを捨ててしまったら、もうプロレス界にそれを語る団体っていうのはなくなりますよ。それはすごい危険なことで、観に来るお客さんの90%は社会に対して何らかの不満を持ってくる人たちなんです。

ーーあ〜、プロレスは元来、そういう社会で抱えたストレスを発散する場ではありますね。

消費・浪費・使い捨ての時代に“守る”を選択した全日本

光留 平日、全日本プロレスに出ていると分かるんですけど、サラリーマンの人たちが会社帰りに来るんですけど、「この人たちは娯楽として見ているのだろうか? 笑いたい、でもどこか自分を投影して見ている」……そう思うんです。その時、果たしてダイヤモンドのようにキラキラ輝いてまったく隙のない選手を見て「すごいな」と思うほうが大きいのか、それともどこか自分と似通った要素のある人間に対して熱くなるのか……そういうのを考えたとき、僕は後者のほうが多いんじゃないかと思うんですよ。

ーーうんうん。少なくともプロレスにそういう見方は絶対にあると思うし、いまの全日本はそういう見方が一番しやすい団体かもしれないですね。

光留 消費・浪費・使い捨ての時代に、守るっていう一番世間に響きにくい選択をした全日本プロレスに価値があると思うんです。

ーー守るという意味では新日本プロレスがいわゆる暗黒時代だった頃の棚橋選手、中邑選手もそうだったと思うし、その時代があったからこそ“イッテンヨン”のドームでも、みんな思い入れを込めて棚橋vs.中邑を見たんだと思う。いまの全日本も苦しい時期だけど、曙選手や潮崎(豪)選手と真正面からぶつかり合う諏訪魔選手は、「王道・全日本プロレスという看板」を守っている感はありますね。

光留 リング、浮くんですよ。(諏訪魔が)タックルで反対側のコーナーにぶつかっていくと、リングが浮くんですよ。信じられないですよ! 名前は言えないですけど、昔からプロレスに携わっているある人から、「光留ごめんな。別にお前のことを悪く言うつもりじゃないけど、本当はお前がプロレスラーって名乗るのは許されなかったことなんだよ。でも時代は変わったし、お前のプロレスは面白いからそれはそれでいいけど」って言われたことがあるんですよ。僕はそれはそれでいいと思うし、やろうと思えば僕だって丸め込みだって出来るんですよ。でも何かスッキリしないんですよ。

ーーあぁ、光留選手はいわゆるUWFスタイルがベースだから投・極・打はやるけど、丸め込みだったりするプロレス特有のテクニックを使うことはほとんどないですね。

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総合格闘技で数々の猛者と対戦してきた光留が、諏訪魔の身体能力の高さや「全日本を守る」という覚悟を絶賛

光留 僕の鬱屈した少年時代、本当に何をやっても届かなかない。僕、レスリングをやってもめちゃくちゃ強いのに野球のほうが洗練されている。女の子もみんな野球を観に行ってる。俺は本当にプロレスラーになるために砲丸投げ始めたのに、ほかのみんなはJリーグが流行っているからサッカーを始めた。信念はどっちが強いかと言ったら、絶対に俺のほうが強いし、言っていることだって絶対に理論上は俺のほうが正しいはずなのに、みんなはサッカーを応援する……そうなったときにプロレスを観に行ったら、僕の目に映るのはやっぱり超世代軍じゃなくて鶴田軍(正鬼軍)の地味さだったし、新日本を観に行ったら闘魂三銃士よりも平成維震軍だったり、ブロンド・アウトローズだったり。大仁田(厚)さんなんて雑誌で見ていたヒーローでしたよ。「メジャーがナンボのもんじゃい! 俺たちは前半戦にパンダが出て来る団体じゃ! ストリートファイトって言ったらスーツで2人で出てくる団体じゃ!」(って言っていた)。だから自分を投影出来たんですよ。

ーーうんうん。誰もが華やかなほうに向きがちだけど、そういう地味だったり、職人肌だったり、マイナーだったりするほうに共感する層だって絶対にいますね。

光留 そういう意味で選択肢として、いまの全日本プロレスは良かったと思うし、(DRAGON GATEの)望月(成晃)さんが来たっていうのも、俺なんか変な引き持っているなって思いましたもん。(2月8日、大阪大会の望月戦は)リングサイドのお客さんを人体自然発火させるくらい、もうバチバチいきますよ!

ーーDRAGON GATEっていう最先端プロレスを謳う、洗練された団体にいるからこそ、望月選手の男臭さというか、存在感はこの間のデビュー20周年記念大会のときもすごく発揮されていましたね。大一番の大事な場面で得意の三角蹴りを失敗する辺りも含めて人間臭いというか(苦笑)。そんな望月選手がこの時期に全日本に参戦し、光留選手と対戦するっていうのは非常に興味深いです。いまの全日本は男臭い人が集まってきてる(笑)。

光留 潮崎さんもイケメンですけど、こっちにいるとどう見てもライトなイケメンじゃないですよ。本当にキザな、こう……

ーー棚橋選手とはタイプが違いますね。

光留 はい。それはハードヒットが目指すところも基本は同じですし、いまの商業的なプロレスに関して言えば必要ないものですけど、プロレスラーが強さを追い求めなかったら終わりやでっていうスタンスで続けているものなので。

ーー話を聞いていると、光留選手がいまの全日本を主戦場として選ぶこともしっくりきますね。

光留 そうなんですよ。

第3回につづく

佐藤光留(さとうひかる)
1980年7月8日、岡山県出身。172cm、92kg。2000年にパンクラスでデビューし、ジョシュ・バーネットや中村大介、長南亮らと対戦。メイド服とネコ耳がトレードマークの“変態”として話題になりはじめ、2008年からは鈴木みのるが所属するパンクラスMISSION所属となり、主戦場をDDTにする。そのDDTとは2014年、レギュラー参戦継続の契約をせず、旅に出ることを発表した。

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