1日3試合して3連敗!最後にタオルを投げて父の試合を止めた娘を再び肩車した"借金王"安田は、笑顔でプロレス界におさらば!
安田忠夫引退興行
日本とプロレスにおさらばします
日時:2月4日(金) 開始19:00
場所:後楽園ホール
観衆:1112人(満員)
4日、後楽園ホールで行われた安田忠夫引退興行『日本とプロレスにおさらばします』。角界からレスラーに転向し、1993年に新日本プロレスでデビューした安田だったが、"平成の借金王"というニックネーム通り、ギャンブル好きが原因でなかなか結果を出せない日々が続いた。しかし総合格闘技にも挑戦した安田は、師匠・アントニオ猪木から2001年大晦日の『INOKI BOM-BA-YE 2001』のメインイベントに抜擢され、当時最強のK-1ファイターと言われていたジェロム・レ・バンナと対戦。下馬評を覆して大金星の勝利を挙げた安田は、その後IWGPヘビー級王座も奪取したが、2005年には素行不良により新日本を解雇されてしまう。
すでに家族は安田の元を離れ、安田は単身様々な団体を渡り歩いていったが、2007年には自殺未遂をはかり、ファンや関係者を驚かせた。その後はケンドー・カシンの実兄が経営する養豚場で働き、プロレス界から距離を置いていたが、今回引退興行を行ってその収益をもとにブラジルに渡って農園で働きながら現地の子供たちに相撲を教えるという道を選んだ。
オープニングVTRの中で「そこらじゅうで借金はしていますけど、お客さんに借金はしたことがない」と語った安田は引退興行で自ら1日3試合やることを決意。オープニングマッチではいきなり元横綱の曙とシングルマッチで対決。しかし、いきなりタックル対決で吹っ飛ばされた曙は場外にエスケープ。レフェリーや観客をアジりながらのらりくらりとリングに戻っていくが、曙はショルダータックルでダウンさせるとエルボードロップを落とし、「先輩、来い!」と挑発。
安田は何とか急所攻撃からのフロントキックで反撃するが、曙は胸板にチョップを振り下ろし、コーナースプラッシュからもう一発エルボーを落とすと、ダメ押しのランニング・ボディプレスを落として3カウント。リングから遠ざかっていた安田と、いまや世界タッグ王者として全日本プロレスなどの第一線で活躍している曙では、横綱と幕下ほどの実力差があった。
2試合挟んで安田は新日本時代の先輩である大谷晋二郎とタッグを組み、高山善廣&鈴木みのると対戦。煽りVの中で鈴木は実は安田vs.バンナ戦にちょっと感じるものがあったと言い、「しっかり介錯するから」と言い放った。愛娘のAYAMIさんをセコンドに従えて、『燃えよ荒鷲』に乗って入場した安田は大谷を下げて先発を買って出る。
何度ぶつかっていってもなかなか倒れなかった高山を、何とかショルダータックルで倒した安田だが、大谷と鈴木がやり合っているときも鈴木はちょいちょい安田を挑発。タッチを受けた安田がロープに飛ぶが、鈴木は追走式キチンシンクをお見舞いして場外に叩き落とす。すかさず高山が南側客席中腹の通路まで安田を連れて行き、壁に叩き付ける。大谷を場外で痛めつけた鈴木が寝転がりながらリング上で待っていると、高山が安田を戻す。すかさず鈴木と高山は倒れた安田に容赦ないサッカーボールキック。さらに鈴木が腕十字に捕らえる。
堪らず大谷が入ってきてストンピングでカットすると、安田にもストンピングを入れて檄を飛ばす。安田も何とか自力でピンチを脱して大谷にタッチ。高山にミサイルキック、鈴木にレッグラリアットを叩き込んだ大谷は高山に顔面ウォッシュ2連発。さらに鈴木にもニールキックを叩き込んで安田にタッチ。コーナースプラッシュからダブルアーム・スープレックスで投げていった安田は、大谷がホイップした鈴木にランニング・ネックブリーカー。トドメのタイガードライバーを狙うが、鈴木が踏ん張ると高山がカット。
すると鈴木&高山は左右から安田の腕を引っ張ったまま交互にミドルキックを叩き込んでいき、さらにサンドイッチ・ミドルキック。ダウンした安田に「立てよ、安田!」と叫んだ鈴木は立ち上がろうとする安田に向かって、バッチンバッチンと張り手を叩き込む。場内から「安田」コールが起こると、安田は救出に入るとする大谷に「下がっていろ」というジェスチャー。
仕方なく大谷はリング下から観客に「安田」コールを促す。安田の心意気を買ったのか鈴木はもの凄い形相でチキンウイング・アームロック。安田は何とかロープに脱出したが、鈴木はなおも大谷に向かって「来るな、大谷!」と叫びながら安田にスリーパー。まさしく"介錯人"として一騎打ち状態で、安田を叩き潰しに出る。スリーパーでグッタリでした安田を鈴木はカバーするがカウントは2! すると鈴木が抑え付けた安田に高山がランニングニー、高山が抑え付けた安田に鈴木がジェットブーツを叩き込み、さらに高山が投げ捨てジャーマン。
朦朧とする安田の頭を股に挟んだ鈴木は、大谷に「来るなよ!」と叫び、大谷の目の前に高山が両手を広げて立ちはだかる。その状態から鈴木はゴッチ式パイルドライバーで叩き付けて完膚無きまでに安田を叩き潰しての3カウントを奪った。これぞプロレスに群れんを残さないようにする鈴木流の介錯。大の字に倒れたままの安田に愛娘が涙ながらに声をかけ、大谷は観客に「安田」コールを促した。
するとインターバルなしで『サンダーストーム』が鳴り響き、最後の相手である天龍源一郎が入場。ヒザにケガで長期欠場していた天龍に対し、安田は最後の力を振り絞って奇襲攻撃を仕掛ける! まだロングガウンすら脱いでいない天龍に突進していった安田は制止するレフェリーを突き飛ばしてストンピングを落としていく。大谷もリング下から「頑張れ!」と檄を飛ばすが、天龍は逆水平チョップで反撃!
安田も天龍の胸板にチョップを振り下ろすが、天龍はグーパンチを叩き込み、倒れた安田の顔面を蹴り上げる。ようやくガウンを脱いだ天龍は、なおも逆水平チョップとグーパンチを交互に叩き込んでいくが、安田は体勢を入れ替えるとチョップからのコーナースプラッシュで反撃。口から血を流しながらも天龍に向かっていく安田だったが、天龍は強烈な逆水平チョップで迎撃すると、倒れた安田を足4の字固めに捕らえる。
するとセコンドについていた愛娘のAYAMIさんがついに白いタオルをリング内に投入! 安田にとってプロレスラーとして最後の試合は、愛娘のタオル投入によるTKO負けだった。リングに駆け上がったAYAMIさんは四方の観客に頭を下げたが、天龍は安田を引き起こすと抱き合って健闘を称えた。そしてマイクを持った天龍は「長いあいだお疲れ様でした。こんな最後の最後に年寄りの天龍源一郎に花を持たせてどうするんだ! でも今日はお客さんのために最後まで闘ってくれて、お前カッコイイよ。どうもありがとうな」と声をかけてリングを降りた。
親交のあった橋本家を代表して来月デビューが控えている橋本大地から花束を受け取り、スクリーンでは中西学、小島聡、蝶野正洋、武藤敬司から送別のメッセージが映し出される。そして最後は愛娘のAYAMIさんが「昔はパパのことが好きじゃなかったです。バンナ戦で肩車されたときは正直イヤで仕方がなかったです。だからその後もパパと私は仲良くなれなかったね。でも自殺未遂のとき、どんなときでも私のお父さんだという当たり前のことに気が付いて涙が止まりませんでした。いまではパパのことが大好きになりました。今回の引退試合も少しだけどパパの力になれたかなと思います。昔の時間は戻らないけど、これからも仲良くしようね。最後に大好きなパパへ。今日は本当にお疲れ様でした」と涙ながらに手紙を読み上げる。
照れくさそうに聞いていた安田は「新日本プロレスに入って以来、ナマクラとか借金とか言われてましたけど、生まれ変わったつもりでブラジルでは頑張っていきたいと思います」と挨拶して、10カウントゴングを聞いた。そして最後は『魔界倶楽部』のテーマである『Battle Without Honor Or Humanity』が流れる中、あのバンナ戦の試合後を再現するかのように愛娘を肩車してリングを一周した安田。
あの頃は肩車されるのが嫌だったというAYAMIさんだが、今度は笑顔だった。そしてもう一度「お父さん、勝ったぞ!」とは叫べなかった安田だが、実に満足そうな表情でプロレス界におさらばした。インタビュースペースでたくさんの報道陣に囲まれた安田は「(引退試合の結果がタオル投入だったが)娘がもういいって言うんだったら、もういいんじゃないですか。僕もこれで絶対に二度と日本のリングには上がりませんから。そのつもりでいますんで、大丈夫です。他の人のことは言いたくないですけど、途中でカムバックするようなことは絶対ありません。レスラーの引退が嘘みたいに言われるのすごい嫌だったんですよ」とカムバックを完全否定!
そしてプロレス人生の一番の思い出を「新日本での合宿所生活と魔界倶楽部ですね。あの頃はプロレス一生懸命やってましたからね、自分の中では」と語った安田。きっと天国の星野総裁も喜んでいるだろう。その一方で、「(ブラジルで)お相撲を教えたいんですけど、(日本で)お相撲を教える協会がなくなっちゃったらどうしようかと思っている次第であります。その場合は予定が変わると思いますんで、皆さんご了承ください」と、ここ最近揺れている相撲協会の話題を出して報道陣を笑わせた。
師匠である馳浩も忙しい中、駆け付けて激励されたという安田は最後に、プロレス界へのメッセージとして「いま氷河期のプロレス界ですけど、皆さんどうかこれを僕が一番新日本で給料もらってた時のように戻してください! 皆さんの力で何とか......。僕は辞めていく人間ですから(笑)。今日リングに上がった(橋本)大地とかに期待したいと思います。いい救世主になってくれればいいと思いますけどね」と言ってニカッと笑うと、最後はこみ上げてくるものをグッと堪えて控室へと消えていった。
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▼第1試合 オープニングマッチ
●安田忠夫
7分52秒 ランニングボディプレス→体固め
○曙(フリー)
▼第2試合 タッグマッチ
○嵐(ドラディション)/維新力(どすこいプロレス)
13分52秒 パワーボム→エビ固め
●ヒロ斉藤(ドラディション)/長井満也(ドラディション)
▼第3試合 タッグマッチ
○田中将斗(ZERO1)/佐藤耕平(ZERO1)
15分57秒 スライディングD→体固め
●金村キンタロー(アパッチプロレス軍)/吉江豊(フリー)
▼第4試合 安田記念タッグマッチ
●安田忠夫/大谷晋二郎(ZERO1)
21分59秒 ゴッチ式パイルドライバー→体固め
高山善廣(高山堂)/○鈴木みのる(パンクラスMISSION)
▼第5試合 安田ラスト・マッチ
●安田忠夫
4分36秒 足四の字固め→TKO(娘からのタオル投入)
○天龍源一郎(天龍プロジェクト)
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