両国で生誕50年記念大会を開催した神取が「闘えることに意味があった」という長与に勝利

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10月11日、東京・両国国技館で行われたLLPW-XのMr.女子プロレス神取忍 生誕半世紀イベント『SUPER LEGEND』。

両国国技館は、あでやかな熱気に包まれていた。サンプラザ中野くんが「大きな玉ねぎの下で」を歌い、マキ上田と城之内早苗が「かけめぐる青春」を歌う。長与千種が「炎のバイブル」を歌うと、たくさんの赤い紙テープが舞った。神取忍の生誕50年記念大会、実は主役は神取だけではない。この日は、神取が対戦を希望してやまなかった長与の、限定復帰の日でもあったのだ。

神取にはダンプ松本と藤原喜明がタッグパートナーとしてつき、長与は堀田祐美子、天龍源一郎とチームを結成。なんとも個性が強い6人が揃ったものだ。さらにダンプには、ブル中野ら極悪同盟の配下たちがセコンドについた。

とても、神取と長与のからみだけに集中して見ていられる試合にはならないだろうと思われたが、ダンプが神取と仲間割れ。長与にフォーク攻撃を仕掛けたあとは、味方だった神取にもフォーク攻撃。結局、神取と長与は、流血しながら相対することになった。

長与のラリアット狙いを、神取はワキ固めで切り返す。堀田がカットに入ると、長与がサソリ固めへ。エスケープ後には、長与がニールキック。ここから神取は反撃開始。背後の長与を前方に投げると、バックに回ってチョーク気味にスリーパーホールド。16分18秒、試合は続いてもまだまだ見せ場は作れた展開だったが、ここで唐突に幕は降り、長与が失神。TKO決着で神取が勝利した。

神取と天龍の因縁対決の見せ場もあった。神取が一本背負いで投げると、天龍はパンチで反撃。それを藤原が、一本足頭突きで救出した。でもこの日に限っては、天龍も藤原も、積極的に試合の深部に介入してこなかった。

それとは対照的に、ダンプと極悪同盟の配下たちは、序盤に試合をかきまわして主導権を握りかけたが、さすがに終盤、神取と長与の一騎打ちの様相を呈してくると、足が止まった。極悪のメンバーとすれば、暴れ足りない、物足りない試合になってしまったが、それだけ神取と長与には、周りを寄せ付けない気迫と集中力があった。

さすがの神取も、40代後半ともなれば20代の時と比べて動きが落ちるのは仕方ないことだが、長与にスリーパーに入る前後に見せた、この日のしなやかな体の動きは、ほかのどんな女子選手にもマネできない、独特の殺気に満ちたものだった。

とっさに思い出したのは、神取のデビュー戦だ。神取はジャッキー佐藤とのデビュー戦で、それまでの女子選手にない、野性的で動物的な動きを見せた。それは、普通の『プロレス』をする女子選手の動きとは、まるで違っていた。緩慢な間合いなどなく、獲物を狙う豹(ひょう)の如し。

神取にスリーカウントは似合わない。一瞬のスキを逃がさないキラーであってこそ、ミスター女子プロレス、神取忍なのだ。

その神取の魅力を、結果的に最大限に引き出すことになったのが、長与の集中力とプロレスセンスだった。

神取に、今日は長与から勝つことを意識していたのかと試合後に聞くと、「それはない。闘えることに意味があったから」と答えた。だとしたら、この日のフィニッシュが、神取にとって宝物のようなフィニッシュになったのは、長与が神取の心に火をつけたからにほかならない。それは見果てぬ夢だった対戦を、両国という大舞台で実現させてくれた神取への、長与からのプレゼントだったのかもしれない。

試合後のリング上、長与は「大人になっても、みんなの前で夢を見させてもらいました。絶対できないと思ってたんです。昔の約束、叶えてくれてありがとう」とマイクで挨拶。それはまさに、万感の想いがこもった言葉だった。

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