【インタビュー後編】「世界にはこんな面白い生きざまのヤツらが一杯いる」『戦争とプロレス~プロレス深夜特急』を著したTAJIRIが世界を旅して気付いた人生を豊かにする方法

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「世界にはもっと面白かったり、いい加減だったり、日本で育った人間からすれば考えられない境遇を生きてきた人だったり、いろんな生き方をしている人がいる。『戦争とプロレス』が、そういう人たちに会いにいくきっかけになったらいいなと思います」

 国内外のリングで幅広く活躍するTAJIRI。世界中から届くオファーを受けて世界各地で試合をし、若手レスラー向けのセミナーを開催してフランシスコ・アキラやギアニー・ヴァレッタら無名の逸材を発掘。国内では全日本プロレスや九州プロレスなど、様々なリングに上がり続けている。
 その傍らで“文豪レスラー”として『プロレスラーは観客に何を見せているのか』(草思社)や『プロレス深夜特急』(徳間書店)とコンスタントに著作を発表し、ヒットを飛ばしている。
 最新刊は『戦争とプロレス』(徳間書店)。大きなテーマに挑んだ心境や、この本に込めた思いを聞くインタビューの後編をお届けする。
(聞き手・撮影 茂田浩司)


――「戦争とプロレス」の中では、地方のプロレス団体の話も興味深かったです。今回取り上げたのは佐賀県の「BURST」と、南の離島を拠点にしている「アジアンプロレス」。
「BURSTは去年初めて呼んで貰ったんですけど、アジアンプロレスは昔も出たことがありましたし、この12月にまた出るんです。とくにアジアンは、今のプロレスが失ってしまった『大衆娯楽』の風味が色濃く残っていて、懐かしい昭和の時代を彷彿させる団体。主宰の畠中(浩旭)さんが世界を放浪した果てに辿り着いた辺境みたいな世界観なんですが、徹底してお金は使わないながらも、会場には大人に混じって子供の観客も集まって盛り上がっている。地方に行って、普段見たこともないものを見るのって面白いじゃないですか」

――TAJIRIさんの言う「プロレスラーは旅芸人である」を体現してるのがアジアンプロレスですね。「プロレスの原風景」は地方に残っているのだな、と思いました。
「今、地方のプロレスがたくさんお客さんを入れていることを、東京の人は知らないと思うんですよ」

――TAJIRIさんが現在「侵略」を企ててる九州プロレスもお客さんが入っているそうですね。
「集客に一番苦労してるのは東京圏の団体じゃないかと思いますね。世界の中でも一番大変なのかもしれないですよ」

――それは娯楽が多く、競争相手が多いから、ですか?
「それもありますし、提供しているものが『他でも見られる』からかもしれないですよ。東京でプロレスを見た後の感覚って、他の娯楽でも貰えるものなのかもしれない。だから、その国の仕組みを変えてやるぞ、ぐらいの気持ちでやらないとダメなんだと思いますよ。今、東京がこういう構造だから、どうやってお客さんを呼ぼうかじゃなくて、その構造自体をぶっ壊すようなことを考えてやった方がいいんですよ。僕は、かつてSMASHを主宰していた時はそんな感覚でやっていて、それで2年間、後楽園ホールを満員にし続けていたんですよ」

――次にアジアンプロレスに参戦するのは12月だとか。
「今度は広島と島根の県境を4日間回るツアーに行くんですよ。非常に楽しみですね、ええ(笑)」

――珍道中になることがもう分かってて、本のネタ探しに行くみたいですね(笑)。
「前回は谷津(嘉章)さんが参戦していましたが、大会のポスターは『谷津嘉章参戦予定?』で出しちゃってるんですからね(笑)。『?』でいいのかよっていう。今度はどんなメンバーが集まるのか、非常に楽しみですよ」
               *
――本のラストが「アキラの居場所」というTAJIRIさん初の小説です。TAJIRIさんにイタリアで見いだされ、全日本プロレスで長期修行して、現在は新日本プロレスに参戦しているフランシスコ・アキラがテーマです。
「元々、この本の担当編集者とは小説を書きたくて知り合ったんですよ。その時に『こういう原稿もあります』とウェブ(プロレス/格闘技DX)の連載旅日記を見せて、それが前作『プロレス深夜特急』に繋がったんです。だから、いつか小説は書きたいと思っていて、今回『アキラを小説でまとめてみないか』と提案されて書きました。アキラは、非常に繊細な子で、この『プロレス深夜特急』の『~である、~ではない』という文体では書けないんですよ。だから、小説という初めての形をやるなら、アキラだと思ったんですよ」

――なるほど。
「アキラも、新日本プロレスに行ったからには新日本ファンの中にアキラの存在感がもっと浸透してほしい。そもそも彼はどうして日本に来て、全日本プロレスでどんな苦労をして、そしてこれからどこへ行こうとしているのか。僕の教え子だからということだけじゃなくて、アキラのことをもっと知ってほしいんですよ」

――それでいうと、新日本プロレスのファンから「アキラの居場所」についての感想、反響をまだ見かけないですね。
「うーん、多分、新日本プロレスのファンがこの本の存在をまだ知らないんだと思いますね。アキラのことを入り口にして、もっと知ってほしい!」

――小説を書く上で苦労したことはありますか?
「自分の思ったことをそのまま書けない、っていう。あと『~と思った』っていうのはなるべく使わないで。そうするといろんな代わりの言葉を用いないといけないので、そんな作業は今までしたことがなかったんで。おかげさまで担当編集者からは『合宿所にいる時の場面などはなかなかこうは書けませんよ』と言ってもらえました。合宿所の部屋には二段ベッドがあって、アキラは下の段。カーテンで仕切られたそこが道場内での唯一のプライベートなスペースなんです。下の段に寝転がって見える上の段の天井に、アキラは家族の写真を貼り付けていた。言葉も通じないアキラはここで孤独の時間をどう過ごしていたんだろうか。この空間は彼にとっての『小さなイタリア』だったんじゃないかと、アキラの思いを捉えるようにして書いてみました」

――これからは小説を書いていくんですか?
「“小説も”書いていきます」

――『戦争とプロレス』について、TAJIRIさんはどういうところを読んでほしいですか?
「そうですね。『日本にいたら知らないこと』が一杯書いてある本だと思うんですよ。シリア難民レスラーのことは日本ではほとんど報道されてないですし、アキラのことだって実は『どうして新日本プロレスに行ったのか』はほとんど知られていないわけですよ。すぐに手の届く、目に見えるものなんて、ほんの表面に過ぎなくて、もっと奥深いところにはいろんなことがあるんですよ。それを知ってほしいのが一つ。そして、プロレスラーが書いている本は自伝とか『あの時はこうだった』となぞっているものはありますけど、この本はいろんなことを発掘してきていると思うんですよ」

――なるほど。その場所、その土地に足を運ばないと感じられない匂いや音、湿度、風景が書かれている本ですね。
「実際、世界にはこんな面白い生きざまのヤツらが一杯いる、っていうことも知ってほしいですね。『好きなもの』ってただ単純に知って貰いたいじゃないですか。それなんですよ。何かこういうことを訴えたいから書いたとかじゃなくて、こんな面白いヤツらの生きざまをもっとみんなに、広く知ってほしいんですよ。プロレスラーって、日本で知られてるヤツらだけじゃないよ。こんな面白いヤツもいるじゃん、って、ただ知ってほしいんですよ」

――日本国内にも「アジアンプロレス」という、とってもユニークな団体があるわけですしね(笑)。
「こんな面白い世界があるんだよ、ってことも知って貰いたいですね(笑)。俺は別に、プロレスが好きになって貰わなくてもいいんですよ。もっと面白いことに気づくと、もっと人生が豊かになると思うんですよ」

――今はSNSが発達して、戦場から動画が送られてくる時代ですけど、匂いとか空気、手触りは実際にその場に行かなければ分からない。TAJIRIさんが泊まったゴミの散乱する汚部屋とか(笑)、清潔な都市ではなかなか味わえないものがたくさん出てきますね。
「それと、生きている中で『何か違うんじゃないか』と思ってる人に読んで貰いたいですね。かつての若者たちは、沢木耕太郎さんの『深夜特急』を読んで、バックパックを背負ってアジアや世界に旅立ったわけですけど『プロレス深夜特急』もそんなきっかけになったらいいですね。僕もたくさん本を読むんですけど、今、あまりそういう本がないような気がするんですよ。世界にはもっと面白かったり、いい加減だったり、日本で育った人間からすれば考えられないような境遇を生きてきた人だったり、いろんな人がいて、いろんな土地があって、いろんな生き方をしているんですよ。そういう人たちに会いにいくきっかけになったらいいなと思います」(了)

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