【コラム】大黒摩季を支えるボディメイクトレーナーとして――ジェイク・リーのもう一つの顔。そして、本当の顔

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「全日本プロレスをやめて札幌へ帰ったとき、整体師を始めたんです。それがすべてのきっかけでした」

全日本プロレスのジェイク・リーは2011年10月、デビューからわずか2ヶ月目にして一度引退している。その後、紆余曲折を経て再び全日本プロレスに戻ってくると、プロレスと並行して整体師時代に得た知識と経験を活かしボディメイクトレーナーの仕事にも従事。そんなジェイクに周囲の風当たりは強かった。

「いまのボディメイクスタジオでは働き出してもう4年くらいになるのかな。だけど最初は全日本プロレス社内も含め、周囲の反感がすごかった。なぜかというと全日本プロレスは歴史と伝統ある会社なので『プロレス一本でやっていかないようなヤツはプロレスラーじゃない』みたいな。そんな感じで、ボクと周囲の価値観があまりにも違いすぎましたね」

それでも自分の意思を貫いた理由をジェイクはこのように語る。

「生きがいを、プロレスだけに見い出したくなかったんです」

そこには深い理由があった。

「プロレスが面白くなかったとか、そういうことではないんです。そうではなく、人生一度きりならやりたいこと、そして、できることはすべてやっておかなくては、というのがボクの考え方なんです」

そう考えるようになったきっかけは、ジェイクの過去にあった。

「ボクはもともと、何かに秀でた人間ではまったくなかったんです。運動も、勉強も。どちらかというと自分に自信が持てない人間だった。だけど色々なことにひとつづつチャレンジしていく中で『あ、オレはこういうことができるんだ。こういうこともできたんだ』と。自分にもできることっていっぱいあったんだ、そういうことがだんだんわかってきて。そのときの達成感や充実感が何物にも代えがたかったんです、自分にとって」

しかしそんなジェイクに対し、周囲の風当たりは変わらなかった。

「そんなボクにああだこうだいう人は依然としてたくさんいました。だけど、ひとつひとつ結果を残していけばいいんだろ?そういう意地も自分にはありましたし、いまもあります。それでも、心が折れそうになることは正直何度もありましたね」

そんな中で、歌手の大黒摩季さんとの出会いがあった。

「摩季さんとは、ボクが前十字靭帯を切断して長期欠場したときに出会ったんです(※2017年7月)。体力を付けたいということで。ある医療従事者の紹介でボクがトレーナーさせていただくことになりまして」

ボディメイクを通じお互いを深く知り合っていく中で、大黒摩季さんはジェイクを支える大きな存在となっていく。

「摩季さんは、そんなボクの考え方にものすごく共感してくれて。精神的に助けてくれて。当時の社長だった秋山(準)さんにも後楽園のバックステージまでお土産を持ってやってきてくれたこともありました。ボクと会社の溝を埋めてくれた恩人のひとりですね。摩季さんを一言でいうと『姉御肌』。どんな人にも等しく力を分け与えてくれる。エンターテイナーとしてトップレベルの方だと思います」

現在、大黒摩季さんへのボディメイク指導は

「ツアーなど連続した仕事も多い方なので。それでも集中して体力を付けたいというときには、週に何度も指導させていただくこともあります。基本的に走るのが苦手ということなので『それならボクシングをやってみましょうか』と提案させていただき、格闘技の要素を取り入れたトレーニングをしたら『これいい!』と気に入っていただけまして。基本的にはボクがミットを持ってパンチやキックを受けたり、体幹のトレーニングも織り交ぜみっちりやっています」

大黒摩季さんにミットを構えるジェイクの姿は、先日まで全国で開催されていた『MAKI OHGURO 2020 PHOENIX TOUR』において、歌唱中に映し出されるスクリーン映像に使用されたばかりだ。

「ボディメイクトレーナーは今後も続けていくつもりです。いずれは柔道整復師や鍼灸師の国家資格も取得したいんです。医療従事者ともスクラムを組んでやっていきたいです」

それでは肝心かなめなプロレスに対し、ジェイクは今後どのように取り組んでいくのか。

「もちろん、まだ一度も獲得したことのない三冠を獲りたいし、世界タッグは獲得した直後に自分の怪我で返上してしまっているので、もう一度しっかり巻かないければいけないと思っています。だけど、それはボクの根底の部分にある『プロレスをやる理由』に付随してくるものというか」

ジェイクが『プロレスをやる』理由とは

「周りは、ボクを背が高いし身体も大きいから恵まれていると思うかもしれませんが、大きくなったのは高校後期くらいからで。それ以前はむしろ背が低い部類だったし、何をやっても本当に平凡かそれ以下でしかなかった。そこにボクの原点がある。だから芯の部分では青柳のいうように陰湿というか、根暗だと思います。プロレスだって、それほどできる方だとはいまだに自分では思いません。だけど、いや…だからこそボクは見せたいんです。人間はこんなに変わることができるんだ、という姿を」


そのためにもジェイクは、全日本プロレスでは特異となる柔術の動きを取り入れた独自のスタイルを模索中だ。プロレスの練習以外にもほぼ毎日、柔術の道場へ通い他のレスラーにはない要素を取り入れたプロレスを創造しようと努力研磨の日々を送っている。

「今年はこれほど柔術へ取り組んできたのに、大一番ではサブミッションでやられてしまいました。そこに自分なりの課題があります。柔術の動きが好きなんです。50歳になっても60歳になっても続けていける競技だと思っていますので。プロレスにうまく融合させ、ライフワークの高みにまで持っていき黒帯を目指せたらと」

今回の話から、ジェイクはかなり特殊な思考を持つレスラーであるという印象を抱いた。彼が頂点へ至るまでの道のりは、その方法にも、途中経過にも、我々が想像し得ない展開を繰り広げるのではあるまいか。2021年のジェイクの一挙手一投足には、微細な変化にも注視し続ける繊細さが必要となる予感がした。

文…日々樹アキラ

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