腰ではなく尻! ONEで見た巧みな強者

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(文/フリーライター安西伸一)

3月31日(日)、東京・両国国技館で開催された『ONE Championship』。デメトリアス・ジョンソンは、フライ級ワールドGPの準々決勝に出場した。

総合格闘技ファンにはいまさら説明の必要のない、このツワモノの対戦相手は、大健闘した若松佑弥だ。でも、ジョンソンは優位に立たれるたびに、すぐに試合の流れを修正していく。その適確で素早い動きが、ジョンソンの能力を浮き立たせた。

特に寝技になった時、あらためて気づかされたのは、ジョンソンの尻の使い方だ。腰ではない。尻だ。あえてわかりやすく言えば、尻としか言いようがない。

背後にツンと飛び出したような立派な尻をした黒人ダンサーが、激しく尻を振る様子を想像していただきたいのだが、こういう尻の動きはなかなか東洋人には出来ない。腰のバネの作りが全然違うのだ。

1ラウンドの3分経過直前、ジョンソンは背をマットにつけて若松の下になり、オープンガードをとっていたのだが、あっという間に尻を引き、座り込む体勢になった。そこからスルリと立ち上がっていくのだが、録画していた方はこの時、ジョンソンがグラウンドで腰…というより尻をどう使っていたか、どう動かしているかを、よく見てほしい。簡単そうにやっているが、バネのきいたあの動きは簡単には出来ないものだ。

また2ラウンドでは1分台、マウントを取るジョンソンが右足をあげて、一気に自分の左足の方に右足も持っていってサイドポジションを取っているのだが、若松が下からヒザを上げてそれを阻止しようとしているのに、ジョンソンはヒップを高く上げながらの見事な右足のムーブで、若松の立てた両ヒザを乗り越えている。

グラウンドの攻防におけるヒップの使い方はとても重要なのだと、実はヒクソン・グレイシーも過去に来日した際のセミナーでくどく言っていたのだが、ヒップと言われると日本語では『腰』と訳して考えてしまいがちだ。でも、ヒクソンの言うヒップは、実は『腰』というより『尻』の事だったのだ。ジョンソンの寝技を見ていると、それが良くわかる。

でも、日本人が激しいヒップムーブの練習を毎日毎日必死に続けたら、腰椎を痛めかねない。腰痛に悩まされる事になりかねないはずだ。

そう思って見ていると、この日のメインイベントで、デメトリアス・ジョンソンと同じようなヒップムーブを見せた日本人選手がいた。それが青木真也だ。


青木が相手のハーフガードから右足を抜いた時の尻の高い位置、動きを見直してほしい。自分の両ヒザを相手の腰骨の上に当てながら、楽々と抜け出している。

ジョンソンも2ラウンド0分台では、相手のハーフガードを問題にせず、すぐに右足を抜いて自分に有利なサイドポジションをつかんでいる。

ハーフガードからの脱出に苦労する選手もいるが、これからはこれがスムーズに出来る選手が、現代の総合格闘技ではグラップリングで相手を制すことにつながると言えるのではないだろうか。

ところで青木のタイトル戦の相手、ONEライト級世界王者だったエドゥアルド・フォラヤンだが、肩固めを狙われた時のディフェンスを知っているようには思えなかった。自分から左腕を上げ、腋をあけてしまったのには驚いた。これではフォラヤンは、スタンドの打撃に特化した選手だと思われても仕方がない。それでも勝てればいいのだが……。

かたや青木はタックルからテイクダウンにかけて実に慎重で、タックルに行くと自分のアゴから右顔面をピタリと相手の胴につけ、打撃が来るのを警戒していた。最後の肩固めは力で絞め切ったという感じだったが、とにかく、グラップリングという自分の土俵での勝負に徹した青木の戦略は見事だった。

メインイベントを締めた青木のいるONE Championship、日本初上陸のサークルケージには、万雷の歓声が桜吹雪のように舞い、国技館は歓喜の渦に包まれていた。

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